私と俺のプレゼント
「何かお悩みですか」
運転する酒井が声を掛けてきてん?と前を向く。
額に皺がと短く返ってきてばればれだなぁと項垂れる。
「坊ちゃまの事は幼少より見てますから」
久しぶりのその呼び名にぎょっとする。
もう十年以上聞いていなかった。
「その呼び方は」
「申し訳ありません。ですが私にとってはいつまでも坊ちゃまは坊ちゃまです。旦那様からも何かお困りのようだったら力をお貸しするようにと言われております」
敵わないなぁと思う。
酒井にも親父にも。
「実はね、ほら家に住んでるあの子に普段飯を作って貰ってるお礼にクリスマスだからさ、何か贈ろうと思ったんだけど、買いに行く暇がね」
言い訳じみた言い方になって赤面する。
そんな俺に気付かない振りをしてほうっと声を漏らす。
「インターネットでご購入されてはいかがですか?」
「それも考えたんだけどやっぱり見てからの方がいいかなってさ」
そうですねと相槌を打ってからしばし間を置き彼は笑顔を作った。
「何を送られるかお決めになられたら私が代わりに買ってまいりましょう。それをご覧になってお気に召さなければ変えて貰えるよう手配致します」
そんな都合良く行かないよと俺が言うと佐久間の名は坊ちゃまが思ってらっしゃるより古くから知られておりますよと返される。
それは知っている。
所謂、財閥の末裔に当たるらしい。
一度は衰退し、親父の代で持ち直しはしたが、当人の性格故それ以上の発展をしなかった。
高度経済成長期にその名が広く知られる事もなかった事と親父が成金のお袋に婿入りした事で隠れた財閥になった。
それでも知ってる人は知っているのだ。
特に昔からのデパートなんかは贔屓にしているせいもあってか多少の融通は利く。
「でもそういうのはもう使いたくないんだけどね」
「多用しなければ問題ありません。それに、佐久間を今の地位まで上げたのは坊ちゃまですから」
彼の言葉には古くからの立場だけではなく俺の功績もあってだと含まれていて照れ臭くなる。
「なら、そうだね、頼もうかな」
「承知いたしました」
たまには良いだろうと思い直してそう呟くと彼はすぐに返事をして、カタログを取り寄せましょうと言った。
パーティのメニュー以上に佐久間さんへのプレゼントは悩み所で何を出した所で持っていそうな気がする。
何か無いかな。
紳士服売場なんかを見ながらウロウロするも見つからず途方に暮れる。
せっかく午前中に出てきたのにもう午後のティータイムだ。
足も疲れてきて置いてある休憩用のベンチに座る。
何が良いかな。
何が欲しいかな。
何なら喜んでくれるかな。
誰かに贈り物をするのは楽しい。
選ぶ時からドキドキするし、ワクワクする。
相手が開ける瞬間なんてもう興奮の最高潮だ。
だからこそ自分自身納得出来る物を贈りたい。
15分程休んでからまたうろうろし始めるとふとカシミアのマフラーがめにはいる。
煉瓦色のそれは美しくそして暖かそうだった。
手に取るとすぐさま店員が寄ってきてプレゼントですかと尋ねてくる。
はい、と答え商品について説明をされるもちっとも耳に入らずただそれを身に付けている彼だけを想像した。
少し地味かな、でも、似合いそう。
決して老け顔ではないが年齢よりずっと落ち着いて見える姿を思い出す。
店員を尻目に値札を見ると買えない値段ではなくて取りあえず預かったお金から立て替える事にしてそれを店員にお願いした。
ラッピングを待ち紺の包装紙に金のリボンを掛けてもらい満足して受け取りデパートを後にした。
家に戻りクローゼットのプラスチックの引き出しの奥へと隠す。
一向に服が増えないそこは相変わらずの殺風景っぷりだ。
まあ、いずれここを出て行くのだから増えない方が良いかと観音開きのそこを閉めてこたつへと入る。
スイッチを入れ持ってきたみかんを剥いて食べる。
甘酸っぱい果汁は渇いた喉を潤してくれる。
裏が白い広告を裏面を表にして置きボールペンを持つ。
さて、メニューを練って計画を立てないと。
祐樹からメールが来たのは午後一でそれは社内パーティーの招待メールの文面だった。
まあ、毎年恒例なのもありテンプレート化したそれを流し読みしてOKとだけ添えて返す。
あとは彼が全社員に送ってくれるだろう。
全社員と言ってもまだまだ規模は小さいもので総勢60人程だ。
その中の大体三分の一ほどが参加する。
今年のビンゴ大会は何を景品にするかなとブラウザを立ち上げネットショップなんかをチラチラとチェックしつつ、仕事をサボって業務を終えた。
帰りの車内で乗る前に渡されたデパートの紙袋の中から酒井が俺の仕事中に集めたと言うカタログを見る。
どうしてこうしてそうなのかは分からないが、七割がアクセサリーだった。
指輪でも贈れってかとやけくそになりながら何冊目かのカタログの1ページで目が止まる。
プラチナの細いチェーンに同じくプラチナの薔薇がトップとして付いている。
その中心に大きなダイヤが一つ、そこから伸びる花びら一枚分の縁に小さなダイヤが波打って付いている。
嫌味じゃない大きさにふーんと声を漏らす。
「いかがですか」
漏らしたそれに彼が反応し尋ねてきて良いのがあったよと返してページの端を折った。
「では早速明日行って参ります」
悪いねと返事をしその写真を飽きることなく家に着くまで見ていた。
華奢な彼女の首元に、白いきめ細かい肌に、どれだけ似合うだろうかと。




