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佐久間礼と笹川涼とパーティと

出社してすぐに祐樹の元へ向かい事の結果を報告すると心底驚いた表情を浮かべた。


「肝っ玉座ってんな、その子」


けらけらと笑う彼にため息を返す。

やっぱり何も言わずに外出して貰えばよかったと頭に過ぎる。

あんな事を言い出すとは思わなかった。

今朝の食事の席でどれくらいですかと聞かれ、毎年の平均人数を示すと顔色が変わった。

お酒が中心だからそんなに作らなくていいよと言ってはみたもののそれは耳に届いていなかったようで、ぶつぶつと何かを呟いていた。


「けど一人じゃなぁ、俺の彼女に声掛けるか?」


そうしてくれるとありがたいよと伝えるとどうせ連れて行くつもりだったし大丈夫と早速メールを打ち始める。

まぁ、すぐには返事が返ってこないと踏んでその場を後にしオフィスへ向かった。

椅子に座りノートパソコンを立ち上げる。

しばらく待つとデスクトップが表示されまた少し待てば新着メールを示すポップが開く。

それにしたがってメーラーを開くといくつかのメールの内、例の見積書の会社の社長直々のメールがあった。

それを開いて目を通し固まる。


「えぇー……」


誰も居ないのを言い事に声を漏らす。

内容は先日の対応が良かった事を褒める言葉と24日、つまりクリスマスイブに行われるパーティーへのお誘いだった。


正直面倒くさい。

でも、行かないとまずい。


我が社では24日は休みにしている。

それが平日であろうと休日であろうと変わらない。

創立記念日を設けない代わりにそこを休みにしているんだ。

せっかく笹川君を誘おうと思っていたのに。


はぁっとため息をつくと次の瞬間、電話が鳴る。

内線を示すそれにほっとしながら出ると、例の如く祐樹で彼女の快諾を得たとの答え。


「なぁ」


切られる前に慌てて声を掛ける。


『ん?』

「お前さ、徳本からパーティーの誘いが来てるって言ったら行けって言うよな」

『あぁ、そりゃな。来たのか?』

「そう、来たの。あそこの社長ってさ」

『ご愁傷様、それで?』

「噂あるよな、ほら」

『あぁ、お節介ってやつ。あるある』


やっぱりと確認した事で頭を抱えたくなる。

大企業の社長のくせにやけに庶民的なその御方はその筋で有名だ。

いや、ヤクザじゃない。

もっと面倒だ。

彼は自分が一番正しいと信じ込んでいる人間で、気に入った人間を放っておけない。

彼の紹介で結婚したという話もちらほら聞いている。

それは紹介ではなく言わば圧力だろう。

彼の会社の社員であったりはたまた娘や親戚であったりするのだから。


『まぁ、パワハラだよな。誰か誘った方が良いとは思うぞ』


忙しいからまたなっと薄情な親友は受話器を置いてしまったようだ。

誰かって誰だよ、と思う。

ご愁傷様って、ずるいぞ、と。


大勢の人間の前で中途半端な女は連れて行けない。

しかも公認の仲になる可能性が高い。


それなら、それなら、連れて行けるのはたった一人しか居ない。


頭が痛くなり眉を顰めると引き出しから頭痛薬を出して一錠飲んだ。




うーん、と本屋で小さく唸る。

料理本のコーナーにかれこれもう2時間も居る。

和よりは洋だよなぁと思って本を見始めた物の肝心のメニューが一向に決まらない。

あんまり重くなくてつまみになって……。

頭に浮かぶのはついつい子供の頃に呼ばれたお誕生日パーティで、それではだめだと打ち消す。


とりあえずと一冊だけ本を買い外へ出るともうすっかり日が暮れていた。

まだ帰ってくる事は無いが周りの忙しない空気に押されて早足で歩き出す。

師走とはよく言ったもので本当に、この時期になると人々は忙しそうにしている。

帰り道でもまだ考えてようやく何品か浮かび、忘れないように携帯のメモ機能に登録して家路を急いだ。



「え?手伝ってくれる方が居るんですか」


そう聞き返すと晩御飯を食べながらうんうんと彼が頷く。

もう日付も変わってだいぶ遅い。

どことなく安心している様子なのは気のせいではないだろう。

でも、嬉しい。

やはり一人では大変だと思っていたからだ。


「よかった」


言葉を漏らすと彼も俺もだよと言った。

どなたですかと聞くと親友の婚約者とだけ答えが返ってくる。

ふーんとまだ見ぬ親友さんの事を思う。


「ほら、前に怒られるって言った部下だよ」


綺麗に食べ終わってそう答える言葉にあぁと思い出す。


「ずっと一緒に仕事されてるんですか?」


表舞台には彼しか立っていないのでさっぱりその方の事は浮かばない。

うんっと頷くとふぁっと欠伸をする。


「すいません、引き止めて。またにしましょう」


言うとごめんねと謝ってから彼は部屋を出て行った。

そうか、たぶん、その方が色々とフォローをしてくれているから彼は私の看病をしたり出来たのだ。

その方の婚約者が手伝ってくれるなんてなんか恐縮しちゃうなぁと、食器を洗いながら思った。




「で、誘ったのか?」


今日は親子丼を食べながら祐樹が言う。

もちろんそれは例の社長のパーティの事だ。

首を振るとえぇっと顔を歪ませた。


「言えるか」


短く返し食べ終わった丼に蓋をした。

時間が少しずれたと言うのにわざわざ自分の分を持って彼はやってきた。


「まぁ、うん。何なら俺が行こうか?」


そう聞いてくれたが首を振る。

わざわざ会社名義では無く個人名義で送ってくるなんて名指し指名されたのと一緒だ。

代役なんて立てたら後からどんな目に遭うか想像もつかない。


「予定が入る前に誘えよ」


がつがつと丼に口をつけて掻きこむ手を止めてそう言われて頷いた。

あと、とまた口を開く。


「ちゃんと用意しろよ、プレゼント」


分かってるよと呟きながらもすっかり失念していた事に気づく。

店に行く時間など無いからどうしたものかとぼんやりと考えながら。




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