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俺と祐樹とこたつ

「へぇっ?!」


間抜けな彼女の声で目が覚める。

状況がいまいちつかめない。

あれ、お互い服は着てる。

でも彼女は俺の腕の中?

腕の?


俺、何か、言った気がする。


「笹川君?」


なんで俺は彼女を抱きしめているんだろうと、顔が熱くなる。

緩んだ隙に彼女はそこから飛び出しあわあわと振り返りもせずに部屋を後にした。

目覚ましを見るともう七時もだいぶ過ぎていて飛び起きて着替えリビングへ向かう。

ネクタイを締めながら現れた俺にまだ顔を赤くしたままの彼女がごはんと味噌汁を持ってきてくれた。

とにもかくにも食べようとむしゃむしゃと咀嚼する。

昨日は一緒に座っていた彼女はキッチンから出てこなかった。


「行ってくるね」


声をかけると小さい声でいってらっしゃいと返されなんだかなぁと思いながら玄関を出た。





「ふはっ」


靴を選んでいる時でもパジャマを選んでいる時でも否応なしに佐久間さんの言葉が蘇ってきては赤面した。


礼って呼んでよ


たった一言なのになんて破壊力だろう。

どんな顔してればいいのか分からないよ。

それにリビングで朝食を食べる彼はあまりにも普通でそれも驚きだった。


もしかして覚えてないのかな。


こたつをセッティングしながらそう思いつく。

それなら私さえ動揺しなければ大丈夫だ。

布団をかけスイッチを入れてみる。

すぐに暖かい空気が出てきて足がほかほかしてくる。

そのまま天板に顔をつけてふはーっと息を吐く。


やっぱり冬はおこたよね。

昨日からずっと動いていたせいかそのままウトウトしてしまった。




「何かお前最近、機嫌良すぎない?」


祐樹に言われびくっと体が震えた。

感が良いのか俺が態度丸出しなのか。


「んー、まぁ、まぁ」


ずるずるっと店屋物の天ぷらそばをすする。

近くの店から宅配されたそれはもう伸びきっていた。

冷めたカツ丼を祐樹も食べている。


「女か」


にやりと祐樹が笑って言い、それに俺は盛大にげほっとむせる。

蕎麦が変な方に入って慌てて顔を背ける。

とにかく書類に掛からないようにしないと、と。


「……まじかよ」


祐樹が箸を落とした。

床を転がり机の下まで入ってしまう。

げほげほとやりながらようやく落ち着けて蕎麦を見つめた。


「おい、礼。お前、まじか」


顔が赤くなるのが分かる。

なんで分かっちゃうんだよ、まったく。


「んー、うん。まぁ、そうだな。多分」


曖昧に答えるももう遅い。

彼がにやにやしながらカツ丼を応接テーブルに置き近づいてくる。

こういう時の彼は面倒くさい。


「どんな子だよ。どこで出会ったんだ?外人か?」

「別に付き合ってるわけじゃ無いんだよ。ただ」

「ただ」


しばし沈黙。

蕎麦を箸でいじりながら小さく呟く。


「一緒に住んでるんだ」

「は?」

「だから、俺の家に居るんだよ」


彼の目が点になった。

蕎麦を彼に押し付け俺は席を立つ。

惚けているまま放っておいてそのまま喫煙室へと向かった。

若い社員で埋め尽くされたそこに入ると空気がぴりっとする。


「おつかれさまです」


一人を皮切りに口々にそう言われて一言同じように返した。

タバコを取り出し火をつける。


「社長、顔赤くないですか?風邪ですか?」


中の一人にそう言われ慌てて首を振る。


「ちょっと今日着込んできちゃってね。暑いだけだよ」

「そうですか。今年もそういえば休みですか、例の日」


そう問われ笑顔を作る。

一度煙をふーっと吐き出し、もちろんと答えると、周囲から歓喜の声が上がった。




「へくしっ」


自分のくしゃみで目が覚めるとすっかり日が暮れて体も冷え切っていた。

いけない、こたつで寝ちゃったんだ。

ぶるぶるっと体を震わせそこから出ると寒気がする。


「やだなぁ、風邪かなぁ」


呟き額に手を当てるもよく分からずとにかくご飯だけはさっさと作ろうとキッチンへ向かった。

エプロンをつけ包丁を握るも、やる気がまったく沸かない。

それどころかめまいまでしてきて仕方なく簡単に親子丼とかまぼこのお澄ましだけ作った。

それも自分では食べる気になれずよろよろとテーブルに座る。

なんとかラップだけして辺りを見回す。

食器棚の引き出しやらいろんな所を捜すも体温計も薬も見つからず、かと言って買いに行く元気も無く、お風呂だけは軽く洗って沸かした後さっさと寝ることにした。

買ってきたばかりで糊のついたごわごわしたパジャマに着替え布団に包まれて眠る。

毛布は彼の寝室へ返してしまったからなんとなく薄ら寒い。


「頭、痛い」


そう呟いた声もガラガラとしていて、あぁ、これは本格的な風邪だと、確信する。


あんたは昔っから体弱いんだからこたつでなんて寝ちゃだめよ。

母が口うるさく言ってた言葉が浮かぶ。

気をつけていただんだけどねーと呟き、なんとか眠りについた。

昨晩と同様に夜遅くに帰ってきた彼にはまったく気づかず、そのまま昏々と眠り続けることとなる。

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