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第24話 地獄の苦しみ

 わたしはすぐに上半身を起こし、へそを押さえた。


「いっ!? いだいいだいいだい!!!!!」


 なんだこれ、なんだコレ!?

 へその辺りが熱い。とんでもなく熱い。灼熱だ。お腹の中で小さな爆発が何度も起きている。


「ウ――」


 こみ上げる吐き気。抑えられないっ!


「ごぱぁ!!!?」


 布団に吐しゃ物をまき散らす。

 さっき食べた弁当だけじゃない。赤い血が大量に混じっている。


「はっ、はっ!!?」 


 立ち上がることができない。膝を引きずりながら居間へと向かう。

 熱い。とにかく熱くて暑い。わたしは強引にパジャマを剥がし、上裸になる。傷みはどんどん増していく。


「とうきが……はつが、してるのか……!!!」


 し、死ぬ。両目から液体が零れる。左目から零れているのは涙だけど、右目からは赤い液体が垂れている。


「あ、あの人……なにが『ちょっと』だ!!!」


 全身から液体が出る。鼻水も涎も汗も止まらない。失禁もしている。だがどうでもいい。自分がいまどんな無様を晒しているかなんてどうでもいい。苦痛が全ての感情を塗りつぶしている。


 風邪とか二日酔いとか筋肉痛とか不眠症とか、色んな不調を煮詰めて油で揚げたような不快感。加えて全身を炙られているような激痛……! 灼熱の炎の中にわたしは居る!


 溶ける……なにもかもが!


 拳銃自殺の比じゃない。あの時は数瞬で終わった。けどこれは違う! 『じっくりコトコトと殺される』!!!


「うぅっ!?」


 また吐く。今度は全部血液だ。

 やばい。失血で終わる。魔法で血液を生成して、自己完結の輸血をする! 


 し、死んでたまるか……! 


 死の淵、激痛と苦痛の渦の中で、わたしの気力と肉体に活が戻る。めちゃくちゃ痛い。けど頭が冴える。肉体が鼓舞される。わたしはより強い痛みを抱えることを承知で全身の感覚を尖らせ、損傷個所をマナで覆い保護。熱を帯びた部分は氷魔法で冷却。失血が激しい部分は血液生成魔法(クリムゾン)で補う。


 こんな……! こんなところで! 終わってたまるかぁ……!!!


「わたしは……ゆっくりまったりダラダラと……ババアになるんだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」


 闘気との戦いは夜が明けるまで続いた。



 --- 



「……」


 痛みが止んだ。

 わたしはなぜか台所に居た。

 台所の床でびしょびしょになっていた。なにがどうなってこうなったか覚えてはいない。


 あれだけ騒いだから、近所から苦情とか入るかな。でも、途中から叫ぶ力すらなくなってたから大丈夫か。


 全身怠いけど、痛みはもう無い。でも血を吐いたわけだからどこかの臓器は損傷したはず……後で病院で検査を受けよう。


 とにかくお腹が減った。飢餓感が凄い。体の中に骨しか残っていないような感じがする。なんでもいいから食べよう。


 棚からカップ麺を出し、お湯も淹れず、硬い麺をそのまま貪る。それから冷蔵庫を漁って、ハムを調理せず食べて、卵は顔の上で割って生卵をそのまま口に放り込んだ。牛乳で喉を潤し、また冷蔵庫を漁っていく。納豆を手づかみで食い、マヨネーズを直飲みする。とにかく体にカロリーを入れる。


 腹を満たしたらシャワーだ。汚れたパジャマは全部ゴミ袋に詰めて、汚れ切った体を洗う。綺麗な服に着替えたら部屋の清掃……畳や布団には赤いシミができてしまった。スクロールショップで浄化魔法買ってこないと……。


 色々と落ちついたところで病院だ。神里には多数の病院があり、飛び入りでもシーカーは優先的に検査・治療を受けることができる。検査に特化したスキルを持った女医さんがわたしの体を見る。それだけで検査は終わる。結果、内臓系にダメージはあるが大事では無いとのこと。治療魔法を受け、それで終わり。治療費はかなりかかったけど、仕方ない。しかしそろそろ残高が尽きる……金融機関からお金を借りよう。


 近所のスクロールショップで浄化魔法『リムーブ』を買い、アイテムポーチにしまう。あと100均で毛糸や棒針を購入。その足でヴァルランへと向かう。


「事後処理含め、地獄のような時間だった……」


 近代的な街から西洋レトロな街へ景色が変わる。


「……一歩間違えたら死んでた気がするんだけど、ジュリザードさんはこのリスクを知っていたのかな?」


 あの苦痛の中にあった時はジュリザードさんにめちゃくちゃムカついていたけど、いまはそうでもない。というのも、実感があるのだ。自分が強くなった実感が……。


 まだ闘気を操れるわけじゃないけど、多分自然と闘気が体に流れている。おかげで体が軽い。ステータスは変化なかったけど、確実に身体能力が上がっている。なにもしてない状態でこれなんだ。闘気を操ることができれば……凄いことになるぞ。


 ヴァルランに入り、早速BARへ。

 扉を開くと、すでにジュリザードさんが居た。他に客はいない。


「お、待っていたよ」

「ジュリザードさん……」


 ジュリザードさんは手元のグラスを空にし、立ち上がる。


「マスター。他の客が来るまでは、このスペースで稽古していいかい?」

「構いません。ただし、激しいのはやめてくださいね」


 わたしとジュリザードさんは向かい合う。


「あの、ジュリザードさん。昨晩わたし死にかけたんですけど。恐らく闘気をもらったせいだと思うのですが……」

「あぁ~、そりゃアレだ。肉体強度が足んなかったんだね。闘気の種が芽生える時、大量の闘気が体に溢れる。溢れた闘気は宿主の体を内側から刺激する。ちゃんと鍛えていれば大したこと無いんだけどね」

「ちなみにですけど、ジュリザードさんも……」

「ああ。あたしも最初から闘気が使えたわけじゃない。師匠に種を植えられて、そこからさ。闘気を極めると他人にああして継承できるようになるんだよ」

「反動、無かったんですか?」


 ジュリザードさんは自分の頬を指で指す。


「あったよ。あたしの時は口内炎ができたね」


 ふざけやがって……。

 おっといけない。沈めた怒りがまたぶり返すところだった。


「時間も無いし始めるよ。あたしが教える闘技(とうぎ)は2つ。『四点(してん)炎舞(えんぶ)』と『双氣拳(そうきけん)』だ」

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