第23話 新しい力
どうやらマスターがジュリザードさんに事情を話してくれたらしい。
「私からジュリザード様に氷室様への御指南をお願いしました。申し訳ございません、勝手に事を進めてしまい……」
「いえ。助かります。あの子に勝つには、この方の力が必要です」
昨日、八雲ちゃんから不知火ちゃんの能力について聞いた。
レベルは55。戦闘スタイルはテレポートで間を詰めてからのインファイト。予想通りだった。近接で不知火ちゃんをいなせないと勝ち目は無い。八雲ちゃん曰く、不知火ちゃんの格闘能力はそれだけでゴールドランクまで上れる程らしい。生半可な鍛え方では5日後に間に合わない。
「教えてくださいジュリザードさん。わたしに、あなたの世界の技を」
「いいだろう。だがねアンタ、ただで教えろってのは虫のいい話だ。授業の対価として、アンタも私に何かするべきだろう?」
「……わかりました。わたしにできることであればなんでもやります」
「良し。じゃあ……うん、相談に乗ってくれ」
ジュリザードさんは頬を赤く染め、照れくさそうにしている。
「その……さ。あたしにはひ孫が居るんだけど」
「ひ孫……」
「アンタより少し下ぐらいの娘でね、半月後に誕生日があるんだ……なにをやればいいと思う?」
んーっと?
「ひ孫へのプレゼントを一緒に考えろと?」
「そうだよ! 忌憚ない意見ってやつを聞かせな!」
「……わたしは普通の女の子と感性ズレてますよ?」
自分で言うのもなんだけど。
「住んでいる次元が違うから価値観も違うでしょう。それでも聞きますか?」
「聞くよ! うちの次元の連中は『ジュリザード王が渡す物ならなんでも喜びますよ』の一点張りなんだ! 話になんないんだよ!」
この人王様なんだ。『世界のトップに居て』っていうのはそのままの意味だったんだ。
王様のひ孫ともなればなんでも手に入るんだろうな~。そんな子が欲しがるもの……か。確かに難しい問題だ。
この問題を解決しないと指南に入ってくれなさそうだし、ちゃんと考えよう。
「服とかアクセサリーは……」
「欲しいもんは全部自分で買ってるだろうさ」
「ですよね」
「売りもんは大体全部手に入れられる。ウチの一家はあたしのおかげで大金持ちだからねぇ」
「ならば、売り物じゃ無いもの……世界に1つしか無いものならどうでしょうか」
「例えば何さ」
ジュリザードさんのひ孫が持っていなさそうな物、それには心当たりがある。
「ジュリザードさん。その子はジュリザードさんのことが好きですか?」
「す……きだと思う。未だに会ったら引っ付いてくるし……」
「だったら、マフラーはいかがでしょうか」
「マフラー? マフラーなんてこっちの次元にはたらふくあるっての!」
「ジュリザードさんの手編みのマフラーならば、世界に1つしか無いのでは?」
ジュリザードさんはハッとする。
「あたしが、マフラーを編む……!? この、格闘王のあたしが!?」
「はい」
「こんな筋肉ババアに糸をちくちくやれって言うのかい!」
「こっちの次元ではそういうのはギャップ萌えって言うんですよ。なんでも拳で解決してきた強くてカッコいい王様。その王様が、地道に糸を編んで作ったマフラー……貰ったら嬉しいと思いますよ」
ただし、保証はしませんが。だってわたし、そのひ孫ちゃんに会ったことも無いし。結果どうなるかは未知。
「じゃ、じゃあ、アンタが教えなよ……」
もじもじと、思春期の女子のようないじらしい表情でおばあちゃんは言う。
「……えぇ」
「あっちの世界で編み方を聞けるような相手居ないんだよ! あたしはアンタに修行をつける。そんでアンタはあたしに編み方を教えるんだ! いいね!」
1度父さんに手編みのマフラーをプレゼントしたことあるけど、もう記憶が薄い。帰ってちょっと調べれば……思い出せるかな。
「わかりました。それでいいですよ」
「ふんっ! ……契約成立だね!」
この人、見た目こそマッチョおばあちゃんだけど、中身は可愛いかも。
「じゃあ今日の修行に入ろうか。アンタの期限はあとどれくらいだい?」
「5日後が勝負の日です」
「5日じゃ基礎からキッチリ作るのは無理だね。ひとまずは……『闘気』の練り方を教えようか」
「とうき……?」
「これが闘気さ」
ジュリザードさんは右手に赤いオーラを纏う。
凄まじい。受けなくてもわかる。あのオーラを纏った拳で打たれたら……死ぬ。
「武闘のためオーラだよ。あたしの世界じゃマナも魔法もなかった。代わりにあったのがコレさ。このオーラを纏った部分は凄まじい破壊力と防御力を持つ。血管や骨、筋肉に流せば運動性能が大幅に上昇する」
「その闘気、わたしにも使えるんですか……?」
「使えるよ。簡単にね」
ジュリザードさんは屈み、オーラを纏った右手の人差し指でわたしのへその下をトン……と突いた。その瞬間、わたしの下腹部に何か火のようなものが灯ったのを感じた。
「いまアンタの中に『種』を仕込んだ。闘気を生み出す種だ。今夜中に種は発芽し、アンタは闘気を扱えるようになる」
「ホントに……簡単だ」
「発芽する時、ほんの少し痛い思いするけど、それは我慢しな」
「わ、わかりました」
「明日の夜、ここで待っているよ。そん時は闘気を使った技を教えてやる。あ、マフラーを編む道具、忘れるんじゃないよ! あたしの分も持ってきなさいな! 毛糸だけはこっちで用意してやる!」
「了解です」
なんか、アッサリだ。
闘気……まったく新しい要素を、こんな簡単に手に入れていいのか?
そんな疑問を抱きながら、わたしはBARを出て帰路につく。
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シャワーを浴びて、帰りに買ったお弁当を食べて、シーカーの情報交換掲示板を見て、布団に入る。
電気の消えた暗い部屋。静寂の空間の中で、脳がスイッチをオフにする――その刹那のことだった。
――ドクン!!!!!
「がっ!!!?」
腹の内で、爆竹が弾けた。




