第15話 もう1つの選択肢
アパートに帰ってきたわたしは、居間の畳の上で正座していた。
「……どうしよう」
宝城の牽制のせいで、C~Eランクのギルドは面接すらさせてもらえない。
だからと言って宝城の権力が及ばない高ランクのギルドを狙うのは……無理だ。高ランクギルドは100%レベル制限やランク制限あるからね。どれだけシーカーランクを上げても、レベルが足を引っ張る。たとえステラランクまで上がったとして、レベル15でBランク以上のギルドを狙うのは無謀だ。
宝城に直談判しに行く? 土下座でもして、牽制を解いてもらうか……いや、プライドの低いわたしでもそれだけは我慢できない。
それともソロで頑張るとか? 無理無理。そりゃプラチナランクぐらいになればソロでも大半の店は利用できる。けど、そこまで単独でいくのは骨が折れるし、ギルドの恩恵の大きさを考えるとやっぱりギルドに入らないという選択肢はない。ソロで上を目指すなんて、道具を使わず雪山を登るようなもの。できる人にはできるだろうけど、わたしには無理だ。やっぱりなんとかしてギルドには入らないと。
「そうだ。あの人に相談してみようか」
この前知り合ったマスターランクの女帝・水鏡さん。連絡先交換したんだよね。忙しいだろうけど、出てくれるだろうか。
スマホから電話を掛ける。すると数秒で、
『水鏡だ。どうかしたか?』
「すみません。いまお時間――」
通話先から『ギギャア!!!』とか『ザク! ゴリ!! グシャア!!!』とか聞こえる。
「無さそうですね」
『問題ない。相手は雑魚だ』
この人モンスターぶっ倒しながら通話してるよ。
「えっと、つまらない悩み相談なんですが……」
『構わない。話せ』
「実はですね……」
わたしはギルドを探していることと、宝城に妨害を受けていることを水鏡さんに話す。
「どうすればいいと思いますか?」
『ふむ。私が宝城と同じように全員にメールを送り、君の悪評を払拭するという手段もとることはできるが、それをすれば君に変な噂が付きそうだな』
「そうですね。これ以上余計に目立ちたくはないです」
『私の所属するギルドに入れてやりたい気持ちは山々だが、私のギルドはランク制限もレベル制限もある。マスターに無理を言って入れることもできるが……』
「いえ、さすがにそれは悪いですし、もし入れてもかなりやりにくい状況になると思います」
水鏡さんの所属しているギルド『テンペスト』はSランクだ。そのランクのギルドにお邪魔しても何もさせてもらえないだろう。
『ならば、選択肢は1つだな』
「え? なにか選択肢があるんですか?」
『ギルドを作ればいい』
え――
「……わたしが、自分で?」
『そうだ。君がギルドを作り、君がギルドマスターになればいい』
盲点だった。確かにそれなら宝城の権力は及ばない。
でも……そう簡単な話じゃない。
『ギルドを作るための条件は知っているか?』
「はい……」
①ステラランク以上のシーカーに推薦状を書いてもらう。もしくはプラチナランク以上のシーカーがギルドマスターを務める。
②ギルド協会の適正審査を合格する。
③ギルド拠点を作り、住所をギルド協会に提出する。
④ギルドマスター、副ギルドマスター、受付員。それぞれ1名ずつ用意する。
⑤1000万円を入会金としてギルド協会に提出する。
『推薦状は私が書く。適正審査は簡単だ、落ちることは無いだろう。あとの問題は3つだな』
メンバー、入会金、拠点……。
「……ありがとうございます。アドバイス、参考にします」
『ああ。上手くいくことを祈る』
通話終了。
「ふぅ……」
ギルドを作る……か。
拠点はどこかのビルの1フロアを借りればいいか。継続コストも考えて、ひとまず800万あればいいかな。入会金+オフィスレンタル料でざっと1800万円。
「お金が欲しいって言ってるのに……なんで……なんでお金が出て行く話ばかり次から次へと……!」
でもこれしか道は無いか。
「やろう。ギルドを作ろう。まずはメンバー集めだ」
早速SNSで……って、無理だよ。無理無理。わたしブロンズランクだよ? 誰がついてくるもんか。
あ~、頭が痛い。問題が山積みだ。
「……一息つくか」
コーヒーでも淹れようかと立ち上がった時だった。ビンボーン、と錆びたチャイム音が鳴り響いた。
わたしは玄関に行き、扉を開く。
「どちら様~……っと、あなたは確か……」
銀髪ボブで、自信の無い顔をした女の子。服装は白のカーディガンに柄物のスカートと可愛らしいものだが、背中には無骨で大きな盾を背負っている。この子は――
「八雲ちゃん……?」
「は、はい。そうです。八雲白雪です」
この前の昇格試験で一緒だった子だ。宝城にこっぴどくやられていたけど、体を見るに怪我はすっかり完治したみたいだ。
「この前……あの、仕返ししてくれたって聞いて……試験官の人に……」
「ああ、アレは気にしなくていいよ。わたしの個人的恨みで倒しただけだから」
「そ、それに……試験を止めてくれたのも氷室さんだと聞いています……お礼に、これ、私の好きなカップラーメンです。どうぞ……」
八雲ちゃんから紙袋を貰う。紙袋の中には大量のカップ麺が詰め込まれていた。常に食費に悩まされている身としてはとても嬉しいお礼だ。
「それでは、失礼します」
「ちょっと待った」
去ろうと背を向けた八雲ちゃんの手を掴む。
「ふえ!? なな、なんですか!?」
「八雲ちゃんってさ、ギルド入ってる?」
「え? い、いえ、まだです」
「それじゃ、わたしのギルドに入らない? わたしこれからギルドを作るんだけど、メンバーが足りないんだ」
八雲ちゃんは戸惑っている。
「ちょっと中入って」
わたしはやや強引に八雲ちゃんを引っ張り込む。
「ええぇ!?」
この子は押せばやれる!
そう確信した。




