第1話 追放
「氷室ちゃ~ん。悪いけど、ウチのギルドを抜けてもらうよ」
現代日本にそびえ立つ豪奢な城。その一室で、わたしはギルドマスターよりそう告げられた。
マスターの名は『宝城阿久津』。ドレッドヘアーで、筋肉質な男性だ。威圧感があって……正直苦手。
「ギルド『シャングリラ』はいま昇り調子だ。ここいらで不要な存在は切りたくてね。君のレベル、15で止まっちゃったんでしょ?」
宝城さんは黒檀の机に足を乗せ、顎を上げる。
「はい。スライムを1000匹狩ってもレベルが上がらなかったので、まず間違いなくここがリミットかと」
レベルの上限は人によって違う。
わたしのようにレベル15が上限の人間も居れば、宝城さんのようにレベル74を超えてもまだ上がある人も居る。
「ぷっ! スライムを……1000匹……! 暇人かよっ……! あ、失礼失礼」
宝城さんはコホンと咳ばらいを挟み、
「君がさ、ウチの平均レベルをめっちゃ下げてるのわかってるよね?」
「はい」
「スポンサーとかにはウチの平均レベルとかも公開するわけよ。だから平均レベルは少しでも高くしときたいわけ。わかる?」
「はい」
こんな無意味な問答、いつまで続ける気だ……もう覚悟は決まっているのに。
「君が抜ければシャングリラの平均レベルは50になる。インパクトのある数字だ。だから、君には出て行ってもらうってわけ。雑用しか取り柄が無かったしね」
実際、わたしは戦闘では無能だ。
でも、この人にここまで言われるのは癪だ。この人には大きな『貸し』がある。忘れちゃったのかな。
「あ、氷室ちゃんさ、眼鏡外せば結構美人だからさ、探索者としてじゃなく、メイドとしてなら雇ってもいいよ」
「いえ、わたしはシーカーとして働きたいので、ギルドは辞めさせていただきます」
ただし。とわたしは言葉を紡ぐ。
「わたしが秘境から採取した宝剣と宝珠は返してください」
秘境。それはダンジョン内に稀に存在する異空間。そこには様々な珍しい物品があり、中には異次元の鉱石で作られた宝剣や宝珠などがある。
通常、秘境に入るには高いレベルと人並み外れたLUK値、さらにダンジョン内のどこかにある鍵やら暗号やらが必要であり、普通に探索をしていてもまず入れるものじゃない。だが、わたしはとある能力で無条件で秘境を見つけ入ることができる。
わたしがこれまで見つけた秘境は2つ。その2つの秘境からそれぞれ宝剣と宝珠を入手した。しかし、わたしの宝剣を見た宝城さんは『ちょっと借りる』と言って強引に取り上げ、二度と返してくれなかった。宝珠も同じ。まぁ、自分の所属するギルドのマスターが強くなることは良いことだし、ずっとスルーしていた。けれど、ギルドを抜けるとなれば話は別。きちんと返してもらわなくては。
宝城さんは宝剣のおかげで一歩抜けた力を手に入れたわけだけど、手放してもらおう。
「は? 宝剣も宝珠も、俺が見つけたもんだけど?」
宝城さんはしれっと、そう言い放った。
「いやいや……それは」
「証拠は? お前が見つけたという証拠はどこにある? 大体、お前のような愚図の手元にあるより、俺のようなエリートの手元にあった方がマシだろうが。お前が持っていても文字通り宝の持ち腐れだろ?」
よほど譲りたくないのか、宝城さんの語気が強くなる。猫かぶりはやめたようだ。
「なんだその目。力づくでも奪います、ってか?」
「い、いえ……」
宝城さんは机をバン! と叩く。
「『いえ』ってなんだよ。言いたいことあんならハッキリ言えよ! あぁ!!?」
怒声がマスタールームに響き渡る。そしてどや顔。女はこう言っとけば黙ると思ってる顔だ。……黙るけどさ。戦ったって勝てるわけないし。
「ほら、早く言えよ。『お譲りします』ってな」
「……お譲りします」
宝城さんは両手を合わせ、嘘みたいに明るい笑顔を浮かべる。
「マジ? いっやー、助かるわ~。じゃあ、餞別ってことでありがたくいただくね♪」
餞別って、追い出す側が貰うものなのか。
……もういい。早くこの男から離れたい。
「では、失礼します」
わたしは部屋を後にする。
扉の先から、宝城さんの高笑いが鳴り響いた。
■名前:氷室メメ
■レベル:15
■ステータス
HP(生命力):230
MP (マナ):120
STM (スタミナ):320
STR(力):98
DEF(防御力):78
AGI(敏捷性):201
LUC(幸運):401
■ユニークスキル
・秘境発見
■スキル
・逃げ足
■魔法
・フレイム
・アイス
■耐性
・なし
■弱点
・なし
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