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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
断罪は朝飯前に

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79/97

1.


 起床して朝食を食べる前に、いつもならシーラがやって来て私の世話をしてくれる。

 けれど、今朝は待っても来ない。きっと、連日原稿に向き合って疲れてしまったのだろう。

 無理に起こすこともないだろう。私は自分でワンピースドレスに着替えた。髪もブラッシングして、いつものように両サイドだけ結って丸く巻いて留める。人にやってもらわなくても、これくらいは出来る。


 そうしているうちに、マドレーヌとナタリーが部屋まで迎えに来てくれた。

 私たちは連れだって、朝食の場であるダイニングに向かった。

 そこではいつもとは違ったざわつきがあって、皆が戸惑ったように席にも着かず立ち尽くしていた。


「何かあったのかしら」


 私たちが広間に入っていくと、皆の視線が突き刺さる。それと同時に、シンと静まり返った。

 異様な雰囲気に、マドレーヌが前に出た。

 そこに、バルバラの声が響いた。


「ソフィアお嬢さまに呪いをかけたのは、この女に決まっています!」

「……は?」


 聞き捨てならないことが聞こえた。

 マドレーヌも気色ばむ。


「お嬢さまに、使用人の分際で無礼な口をきくな」


 確かに、私は公爵家のご令嬢。バルバラはアランさまのおうちの家政婦長に過ぎない。この物言いはあまりにも無礼だ。

 だが、私はそれを咎めることなく鷹揚に受け流した。


「それよりマドレーヌ。呪いって聞こえたわ。その辺りをはっきりさせないと」

「ハ。ではどなたか、呪いとは何かをご説明頂けないだろうか」


 するとナタリーも皮肉気に口を開く。


「感情的なご婦人の、不明瞭な説明は勘弁願いたいですな。冷静に事情を知っている方に願いたいものだ」


 ナタリーって毒舌家なんだわ。

 学生時代はレンドールと喧嘩してたっていうのも頷けるわ。

 すると、ナタリーの要望とは真逆のソフィアが口を開いた。ぶるぶる震えて、怖がってますという様子を見せつけながらだ。


「あ、あのっ! 私の扉に、呪いの紋様が描かれていました。私を恨んでいるエリザベスさまが、描かれたのでしょう」

「はぁ、開いた口が塞がらないとはこのことね。言いがかりも甚だしい。このことは、きっちり法律家に相談して対応させてもらうわ」

「そのように、権力を振りかざして、いつも私を虐げるのでしょう」


 私は、やれやれとため息を吐いてからきっちり言った。


「あのね。前も言わなかったかしら。貴女のことなんて、相手にしてないわ。恨む理由もないもの。虐げたことなんて一度もないし。いつも、貴女が言いがかりをつけて私を追い落とそうとしていることは分かっているわ」

「そんな! ひどい……」


 ぷるぷる震えながら目に涙を浮かべ、バルバラに庇ってもらっている。

 どう見ても、私の方が悪役令嬢でヒロインを虐めている図だ。

 バルバラが、憎々しげに糾弾する。


「呪いの紋様は本物だと、魔術伯さまに確認して頂いています!」

「どちらの魔術伯さまかしら」


 アランさまは昨夜、報告書も書かずに私の部屋に来てくれた。その後、朝まで部屋に一緒に居て、魔術で自室に戻ったから彼ではない筈だ。

 私の問いかけに、バルバラは怯んだ。


「それはっ。私の一存では、お名前を明かせません」

「どうせロイとかいう魔術伯でしょ。彼は信用ならないわ。私のこと、いきなり魔術で攻撃してきたんだもの」

「それに! 目撃者もおります!」

「目撃者~? 私は昨夜、晩餐会の後に部屋に戻ってからは一歩も出て居ないわ」


 どうせ仕込みでしょ、という態度になってしまう。

 そして、その証言者は思いもよらない人物だった。


「はい。わたくしは、エリザベスさまを昨夜、お見掛けいたしました」

「ステイシー、貴女……」


 散々世話をしたつもりなのに、そんな偽証をするなんて。

 いや、ステイシーにとっては私に世話になったつもりも無いのかも。

 むしろ、快適だった職場を追い出して、王宮の清掃担当にされたと恨んでいてもおかしくない。

 しかし、ステイシーはやけに自信満々な態度できっぱりと言い切った。


「私がエリザベスさまのお姿を間違う筈がありません」


 すると、新たな人物も証言をした。


「彼女が言っていることは本当のことだよ。目撃証言が正しいか、真偽を判定する魔術を使ったから」

「ロイ魔術伯。貴方が出てくると、一気に信ぴょう性が無くなるわ。だって貴方は、アランさまを盗られたと思って私を恨んで攻撃してくるような人なんだもの」

「それは誤解だよー。俺はただ話をしたかっただけなのに」

「ただ話をしたかっただけで、さらって精神攻撃仕掛けてくる人なの、貴方」

「攻撃的にならずに、素直に応じてくれたら良かったのに。ま、それはいいんだけど。証言者の彼女は本当のことを言っているよ。嘘は吐けない魔術だからね」


 それはいいって、こっちにしたら良くないんだけど。

 しかし、ロイが絶対の自信を持つということは、ステイシーは本当のことを言っていると思わされているのだろう。


「だったら、私にもその魔術を使うといいわ。私は昨夜、自分の部屋から一歩も出ていないんだもの」

「では早速……」

「ただし、貴方にはかけられたくなわ。もっと信用のおける魔術師じゃないと。貴方は別の魔術をかけたり、攻撃してきそうだもの」

「そうやって、自分がやったことを否定しようって腹じゃないのかい」


 ロイの追及を、私は鼻で笑った。


「犯人が魔術的な要素を持っているということは、アリバイも目撃証言もどうにでも偽造出来るわ。魔法を使えば、他の人を私に見せることだって、一瞬にして別の場所に移動することだって出来るじゃない」


 私の言葉に、ステイシーは驚いて目を見開いた。


「そうなんですか! 昨日の夜、私、男性用宿泊棟から出て行く時、エリさまとすれ違ったんですよ。あれ、絶対にエリさまのお姿でしたけど」

「話はしなかったの? いつも、私たちは顔を見れば話すじゃない」

「エリさまは私を目にしたけれど、何もおっしゃらず通り過ぎられましたので。こちらから声を掛けるわけには参りません」


 私はちょっと、感動していた。あのヤバ使用人だったステイシーが、こんな風に変わるなんて! 以前だったら、私が返事をするまでずっと後を付いて来てうるさく付き纏っていただろう。それが、こちらから声を掛けるわけには参りません、だなんて。出来の悪かった親戚の子が大成したのを見る目で頷いてしまう。


「まぁ~、ステイシーったら。本当に立派になって。貴女を王宮に出向させたのは正解だったわ~」

「えっ、そんな。出向。私は公爵家を追い出されたのではないのですか」

「追い出したわけではないわよ。あの頃の貴女は態度が酷かったもの。少し離れる必要があると思ったの」

「だって、私が戻りたいと言ってもいつも断られるので、きっともう暇を出されたのだろうと……」


 そう言われると、私の侍女にはあんまりしたくないと渋っていたのが思い出されて気まずい。


「お母さまに聞いておくと、昨日言ったでしょう。私はいつか、公爵家を出て行く身だから、ステイシーを戻すにはお母さまにお願いするのが一番よ」

「エリさま……」


 私とステイシーが盛り上がっていると、ロイが呆れ顔で口を開く。


「堂々と証言者を買収しないでくれる?」

「買収なんてしていないわ。魔法の力で、私が歩く姿を見せれば誰でも誤解するだろうって話よ。そして、本人が見たものを正しく証言しているなら、嘘をついているかどうかの鑑定魔術は無意味だし」

「ふぅん。その、人が歩いている姿を見せる魔法って、誰が使っているのかな? どんな証拠があるのか教えてほしいな」


 ロイが目を細めてこちらを試すように言うので、私も堂々と反論した。


「さっきも言った通り、魔法が使われているなら、どんな証拠も証言だって作れるのよ。だからアリバイも目撃証言も無意味。魔術師が魔術を使った証拠なんて、出せるものならお目にかかりたいものだわ」

「だったら、君が犯人ではないっていう証拠もないってことかい」

「いいえ。こういう時は動機から考えるのよ。何故犯人はそんなことをしたか。そして、私はその推理を言えるわよ」

「じゃあ、言ってみて?」


 皆が注目する中、私はその推理を披露した。


「さっき、私がソフィアを恨んでるとか言われたけれど。先ず、私は恨んでいないわ。その理由が無いもの。むしろ、ソフィアが私を恨んでいるわ。彼女はアランさまを夫にしたかったんだものね。でも、アランさまは私の恋人になって、私に求婚しているの。彼女は私を恨んで、亡き者にしようと色々画策して、今はこうやって糾弾しようとしている。つまり、ソフィアの自作自演で動機は逆恨みよ!」


 私の告発に、ソフィアはわざとらしくふるふる顔を振って震えて見せた。


「そんなこと、していません……」


 それを援護するのは当然、ロイだ。


「それから別の目撃証言もあるよ。貴女が男性の宿泊棟から出てきたのを見たという人は複数居るね」

「……!」


 それには一瞬、言葉が詰まった。

 だって、それは本当のことだから。


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