3.
二幕の最初、五人組五つがそれぞれ歌劇を披露し、その中で一番良い組が学園の代表としてコンクールに出られるという先生の説明がある。
その直後に観客にも分かりやすく質問するアニー。
「つまり、私たちが一番良かったら、コンクールに出られるってことですね!」
「そうです。ただし、場所は成績順に決めることが出来ます」
アニーたちのチームはホールも校舎内のコンサートルームも全て取られていて、野外ステージしか残っていない。
「じゃあ私たち、野外ステージでやりましょう!」
野外ステージは外なので、観に来る人が少ないのではないかという懸念や、でもそこでやるしかないという話が出る。
それぞれぶつかりながら練習していくうちに、皆が学園に入学し歌劇学科を目指した理由が明らかになっていく。
アニーは憧れの歌劇スタァを追いかけ、共演する為に。
キャロルは幼い弟妹たちの生活の為に。
ドロシーはスポットライトを浴びて皆が喜んでくれる天職に就く為に。
オードリーは、芸能一家の家族が居るのでこの道以外は無かったと言う。
そしてブリジットは。
「私は王国民の母と、公国民の父の間に生まれたの。父が死んで、公国には居られなくなったけれど。私という人間が王国で活躍したら、公国でも名前が報じられるかもしれない。私が生きている証を、歌声で両国に届けたいの」
アニーが頷いて言う。
「みんなで届けましょう。私たち、クインテットで!」
五人が全員で頷き「私たち、クインテット!」と声を揃える。
ここも感動シーンだから一曲欲しかった~。
しかし無いものは無いので仕方がない。
そして公演当日。なんと横殴りの大雨で野外ステージが使えないとアンサンブルが言う。
「そんな! じゃあ、どうすれば。部屋もホールも、どこも空いていないわ」
「そうだわ! 玄関ホールの、大階段を使いましょう!」
そう。モンペール劇団の階段落ちに使ったセットを、ここで使うのである。
ここで一旦幕を下ろして、前面には学園長と先生の二人だけになる。
後ろで階段のセット準備をしているから、ちょっとガタガタ音がしているけれどベテラン女優二人の演技でカバーしてしまう。
「先生、ここまで色々ありましたね」
「ええ、もう、本当に! 色々ありすぎて、ここで全てを語ったら明日になってしまいますわ」
歌唱指導の先生の真に迫ったアドリブに、皆がくすくす笑う。
学園長が続ける。
「それでもあの子たち、とっても成長しましたね」
「はい、それはもう。それにしても学園長、補欠の組を作った時には、どうしてあの子たちを選んだのかと思っていましたが、今では私にも分かるような気がします」
「ええ、そうね。ブリジットは生真面目さと責任感。キャロルは慈愛と包容力。ドロシーは愛嬌と陽気さ。オードリーは技術力と自負心。そしてアニーは……、決して諦めない不屈の心」
「アニーだけ、心なんですか」
「ええ、そう。先生も分かるでしょう。あの子が居れば、皆が背を押される。気付けば皆が巻き込まれ、応援したくなってしまう。まだ実力は何もついていなくてこれからだけれど、ああいう精神の持ち主はきっと成功するわ」
「アニーが聞いたら喜びますね。でも、調子に乗るといけないから聞かせない方がいいのかも」
すると、幕の向こうからクスクスと笑い声が聞こえた。
学園長が声を掛ける。
「そろそろ準備は出来たかしら」
「こんな階段の前だというのに、たくさんの紳士淑女が詰めかけてくださいました。皆さま、ようこそいらっしゃいました」
実際の観客を、階段前のギャラリーのように扱う小技だ。
「そうですね、学園長。何やら一等高貴な御方もいらしてくださっているような気配がします」
ランベールが軽く片手を挙げ、周囲は笑顔で拍手をした。
乗ってくれてありがとう、ランベール。たまにはいいことするじゃん!
空気は更に良くなった。
学園長が紹介する。
「それではクインテットの演目を始めます!」
幕が上がると、五人は衣装替えをしていた。
さっきまでの、制服を模したお仕着せとは違う、ちゃんとしたドレスの衣装だ。
実は、うちにある私とお母さまのドレスを五人にそれぞれリメイクして使うことが出来たのだ!
最初は、採寸に連れてきた裁縫が得意な侍女だけが衣装係だったけれど、話を聞いたお母さまが協力を良しとしてくれたのだ。
『王妃さまの肝いりの懇親会だもの。エリちゃんに協力してあげる。でも、お父さまには内緒ね』
そう言って、裁縫が得意なお母さま付きの侍女も貸してくれた。衣装担当が数人に増えたことによって、お仕着せだけじゃなくてもう一着いけるんじゃ? と皆が頑張ってくれたのだ。最終的に、屋敷中の裁縫が得意な侍女を巻き込む形になった。また皆には特別賞与を出すので許してほしい。
再び、管弦楽団が演奏を始める。
今度は、有名な流行曲を取り入れた。隣国でも流行って、皆が知っているようなものだ。
演奏許可もばっちりだ。
階段でのフォーメーションも突貫だったが、演出を付けてもらって皆は頑張って練習していた。
五人が歌って踊り、ハモりもまあまあイケている。ちょっとくらいミスしたって、全然大丈夫だ。
だって、観客は皆成功するよう応援しているから。
曲が終わると拍手がいっぱいだった。指笛を吹いてくれてる人も居る。
みんな笑顔で、感動したようだった。どうやら、大きなミスもなく成功したようでホッとする。
後は一旦はけてから、カテコだ。
アンサンブル、先生と学園長、そして五人のメンバーだ。
五人は皆、涙を浮かべている。
学園長が言う。
「それでは代表して、アニーに挨拶をしてもらいましょう。アニー」
「はい! 今日は皆さま、ご観劇頂いてありがとうございました。本当に……、こんな風に演じられて、この景色を見ることが出来て、私は、とても幸せですっ」
アニーが涙をぼろぼろ零しながら挨拶をするので、客席でももらい泣きのご婦人が現れた。
これよこれ。
これなのよ、生の舞台を観るってことは。
特に、新人の若手俳優がカテコ挨拶で流す涙はたまらない。若俳の涙からしか取れない栄養素はある。
ブリジットも、涙目で言う。
「アニー、泣かないでよ。挨拶の続き」
「はいっ! 今回の舞台を最後まで演じられたのは、ここにいるキャストだけでなく、スタッフや裏方の皆さん。それにこの場を与えてくださった関係者さまと、観劇してくださった皆さまのお陰です。皆さま、本当にありがとうございました!」
アニーたちキャスト一同が深々と頭を下げ、観客は拍手を送る。
よしよし、ちゃんと挨拶を言えたね。勿論、これも台本だ。頷く私に、アニーがニコッとして口を開く。
「それでは皆さま、アンコールは全員で歌いましょう。よろしくお願いします!」
観客は戸惑う。
一体、どんな曲を歌えと言うのだろうかと。
次に管弦楽団が演奏を始めたのは、ヴァランシ公国の国歌だった。
皆はどよめき、そして公国の人たちは喜んで歌いだす。王国の人でも、知っている人は歌っている。アニーたちキャストも全員、朗々と歌っていた。
そして続けて、シュルマン王国の国歌だ。
もうその時には皆、立ち上がって歌い、感激した様子だった。
曲が終わるとスタンディングとなり、キャストが皆頭を下げる。
アニーが代表をして音頭を取る。
「皆さま、本日はご観劇いただき、誠に!」
「ありがとうございました!」
全員でまたお辞儀をして、たっぷり十秒くらい頭を下げる。
その後、退場は普通なら舞台の左右からはける。
だが私は導線を変えた。
舞台を降りて、客席の通路を通って退場させたのだ。
そう、客降りだ。本来なら、アンコールソングの間に客降りをしたいが、国家の途中に動くなと言われそうでこういう形にした。
キャストの皆が、私たちのすぐ近くを通って手を振りながら退出していく。
皆、私にとびきりの笑顔とお手振りをしてくれた。アニーはハイタッチもしてくれた。皆が出て行った後も、拍手はなかなか止まなかった。
そしてついには、隣のセリーヌ姫が私に話し掛けてくれた。
「素晴らしかったわ! こんなに楽しいお芝居を観たのは初めてよ!」
「ありがとうございます。もし、続きを作ることが出来たら是非ご観劇くださいませ」
「まあっ! この後のパーティで、そのお話を詳しくしたいわ。貴女も出席するわよね?」
「ええ、勿論でございます」
「きっとよ!」
セリーヌ姫は私の手をガシッと握ってぶんぶんと振ってから、最初に退出していった。
それをエスコートするランベールは、にこやかさを装いながら私をギロリと睨んでいるようだった。
でも、セリーヌ姫はもうこの国を好きになったような気がする!
舞台は大成功だったし、姫は続きも観たそうだったし!
やったわ!




