2.
驚くアニーの他にも、私は次々にスカウトしていった。
アニーを含めて五人の少女たちだ。
その中には、ブリジットも居た。
「ブリジット、貴女には主人公アニーのライバルで友人の役になってもらうわ」
「……! はい!」
「あとのキャロル、ドロシー、オードリーはアニーの仲間となる三人ね」
「はい!」
三人がそれぞれ元気いっぱいに返事をする。
私は次に、モンペールに付いて行かなかったベテラン女優陣を見た。
「この中で、ピアノを弾けて歌唱指導も出来る人は居ないかしら?」
「あっ、私やります!」
「では先生役をお願いしたいわ」
「俺も出来ます!」
男の人が声をあげてくれた。でも、私はそれを断った。
「さっき言った通り、今回は女性だけのお芝居にしたいの。男性の俳優は使わないわ。あっ、スタッフ裏方なら男性でもお願いしたいわ。手伝ってくれる方だけ残って頂戴」
それを聞いて、テレンスたち男優はぞろぞろ出て行った。
舌打ちまでして、態度が悪い。
私は気を取り直して、残っている皆に口を開いた。
「今回は時間が無いから、小規模な歌劇にするわ。後はもう一人の先生役くらいで、アンサンブルも使わないつもりよ」
すると、新人女優の中でもひと際美人で上手い女子が声をかけてきた。
「あの! 私にも役を頂けないでしょうか。私も一生懸命やりますので!」
「うーん……、貴女は華があって上手いでしょう。この五人のグループの中には納まらないのよね。あっ、五人に華が無いと言っているわけじゃないんだけれど」
「そう、ですか……」
しゅんとする美人に、私は小声で囁いた。
「もし次があるなら、貴女にも出て欲しいわ。貴女のお名前は?」
「レイラです」
「名前も素敵ね。レイラ、次があることを祈って応援してちょうだい」
「はい!」
私は再びベテラン女優陣に向き合い、もう一人の先生役に五十代くらいに見える女性を選んだ。
そして七人に向かって言う。
「これから、五人が全員で歌える歌を選んでほしいの。三曲くらいね。あっ、こういうのって権利関係ってどうなるのかしら」
私が言うと、セルジュ先生が手を挙げてくれた。
「申請が必要なら、私がやっておきます。営利目的でないなら、王宮内で歌っても良い曲もあります」
「流石、セルジュ先生! お願いするわ」
「先生はやめてください」
「それと、歌う曲をパート分けして、歌唱指導。時間が無いけど出来るかしら」
するとレイラが名乗り出てくれた。
「私、楽譜も書けるので手伝います!」
「ありがとう! 私は明日の昼にまた来るから。それまでは歌の練習お願いね! あっ、この使わない台本、もらって行くわね」
ダッシュで帰って、脚本を仕上げるのだ。
台本については、参考にさせてもらうから持って帰った。私は舞台は観ているだけで台本なんて知らないから、どれくらいの分量でどの長さになるかが全然分からない。台本の形式は、戯曲の台本が売り出されていたから書き方の参考にさせてもらった。
自室に戻ると、シーラがタブレット端末に向かっているところだった。
「シーラ! お芝居はどうだった?」
「良かったです。舞台の進め方、台詞回しについても掴めたような気がします」
私の原案をシーラによって脚本にしてもらっていたけれど、当然のことながら小説とは違う。シーラは舞台観劇をしたことがないとのことだったので、何でもいいから一回舞台を観てきて! とお願いしたのだ。
私も今日決めたキャストについて話す。
「アニーは前言ってた通り、元気で応援したくなるヒロインね。ブリジットは物静かだけど芯が強い感じ。キャロルは長女っぽく、皆のお姉さんで頼られる感じ。ドロシーは末っ子気質あって皆のムードメーカー。オードリーはお洒落で色っぽい、男好きのする感じ。まあ男は居ない舞台だけれど」
「分かりました。そういう感じで台詞を書き直します」
「台詞は少ないわよね? 歌がメインだし」
「それでも、少しでも人物をそれっぽくしたいんです」
「ありがとう。あとは衣装ね」
私は実家パワーを使うことにした。公爵家の使用人の服をアレンジして使うよう、爺やに泣きついてお願いしたのだ。
爺やは快く頷いてくれた。多分。
翌日、私はマドレーヌとシーラ、そして採寸して衣装をアレンジしてくれる侍女たちも引き連れて王宮に向かった。本当にこの身分で良かった。いきなり侍女に
「貴女、裁縫得意だったわよね? 一緒に来てちょうだい!」
とか言っても許されるし。
シーラにも寝る暇もないくらい滅茶苦茶働かせている。あの舞台版エリザベスのこと言えないよ~。すまない、ほんと。特別賞与を出すから許してほしい。
「おはようございます!」
私が行くと、新人女優たちが元気に声を出してくれる。
中高年の先生役はおっとりと挨拶してくれた。
いつも死んだ目の演出助手も居た。
「あらっ、貴方は残ってくれるの」
「はい、テッドです。短い劇でも、演出は必要と思いますので。私にやらせてください!」
「ありがとう! スタッフをしてくれる皆も、よろしくね」
テッド以下、スタッフと出番は無くても裏方をしてくれようという人たちが来てくれていた。
採寸してもらいながら、七人にスマホを渡してそこに転送した台本を読み合わせてもらう。メインは歌だけど、レイラが頑張ってくれて既に一曲目の楽譜は出来ていた。
めちゃ有能~!
それで歌唱指導もしながら歌を合わせていって、やることが多い!
それでも、皆は熱心に頑張ってくれた。なんというか、熱量がある。
私は小声でシーラに囁いた。
「この熱を、舞台上で出したいんだよね」
「分かります。私にも、お嬢さまのおっしゃることが理解が出来ました」
分かってくれて嬉しい! その理解度が、更に良い舞台になっていくんだよね。
私たちは十日ほど、寝る間も惜しんでお稽古に明け暮れた。
前日は、もう今日は早めに切り上げようと言って追い返した。
それなのに当日に朝から稽古をするメンバーがいるくらい、皆熱心だった。
あっという間に当日が来てしまった。
何気に、私も公国のお姫さまであるセリーヌさまと初めましてだ。
しかし、席がお隣になると言っても向こうは始まる直前に座って、終わってからは一番に退出する。話す時間なんて無いようなものだ。
全てはセリーヌ姫が舞台を気に入ってくれるかどうか、だ。
姫さまが普通の観劇好きだったら、きっと気に入ってくれる筈だ。私は客席で舞台の成功と、姫さまの御成りを待った。
やがて、姫さまの入場が宣言され皆が立って待つ。エスコートはランベールだった。
おぉ、お似合いじゃない。セリーヌ姫はとても可憐でにこやかな笑みを浮かべている。ランベールも機嫌が良さそうだ。黙って居たら顔は良いんだし。
隣にやって来たセリーヌ姫は、私にもニコリとほほ笑んでくれた。良い子っぽい!
姫が着席するとすぐに舞台は始まる。客席の灯りは落とされ、舞台にライトが照らされるのだ。幕が上がる。
セットは劇団モンペールのをそのまま使わせてもらっている。
先ずはアランさまのお屋敷セットの外観だ。
主役のアニーがやって来て、うっとりと言う。
「ここが、王立演劇学園ね。私、ここに通うことが出来るんだわ!」
説明くさい台詞なのは許してほしい。誰もあらすじを知らないから導入部分は仕方がないのだ。
次々と同級生たちが門をくぐっていく。
アンサンブルも要らないと言ったけど、テッドが「協力者も居るし少しは必要だろう」と裏方兼役者の女性を使う演出を付けてくれた。
アンサンブルの女子が話す。
「演劇学園って言っても、演出家や脚本家を目指すコースもあるし、それに大道具や作曲家について学ぶことも出来るわ。でもやっぱり、一番の憧れは歌劇学科よねぇ」
「歌劇学科? それって、歌って踊れる歌劇スタァを目指せるところでしょうか」
アニーの問いかけにアンサンブルが答えてくれる。
「そうよ。今、学園内オーディションをしているところだわ。倍率が高すぎて、とてもじゃないけど……」
「あのっ! どちらでやっているんでしょうか!」
「構内のダンスルームよ」
「ありがとうございますっ!」
走っていくアニー。門はスタッフによって横にずらされていくので、アニーが早く移動しているように見える。
門と入れ替わりに、他のキャストとアンサンブルたちがやって来る。
審査員たちは学園長に歌唱指導の先生、プラスアンサンブルの先生役だ。
その前で、皆が躍っている。ダンスは完璧なブリジット、それに比べて少しずれているアニー。
キャロル、ドロシー、オードリーは卒なくこなしている。
アニーがバランスを崩した時に、ブリジットはキッと睨みつけるが反対側のキャロルが優しく対応してフォローしてくれる。
次は歌の披露だ。皆は卒なくこなしていく。キャロルは優しい歌声、ドロシーは愛嬌たっぷり、オードリーはセクシーな歌声だ。
ブリジットの番になるが、緊張しているのか喉が開かず声が出てこない。焦るブリジットに、アニーが躓いて背中をバンッと叩いてしまう。
「あっ!」
そのはずみで声が出たブリジットは、無事に歌い始めるのだった。
審査が終わってからアニーにぶつかった文句を言うブリジット。それを諫めたのはキャロル、ドロシー、オードリーの三人だった。
そして審査結果だが、意外なことを学園長が発表する。
「これから呼ぶ五人で、チームを組んでもらいます。チームは五組。例年は四組ですが、今年は補欠を一組、選ぶことにしました」
アニーたちは補欠組として演劇学科に加入出来ることになったのだ。
最初の課題曲は、誰もが知っている国の民謡にした。童謡であり唱歌でもあり、そして手遊びの振りもついている。テンポがよく、乗りやすい曲でもある。
一人ずつ、少しずつ歌うとまあまあ上手く聞こえる。
しかし揃って歌うと不協和音というやつだ。
すぐに歌唱指導のピアノの先生が止める。
「やめやめ! こんな酷い歌は、歌劇学科初です!」
客席もくすくす笑っている。
私がちらりとセリーヌ姫を横目で見ると、微笑のまま目を開いていた。
良かった、まだ退屈じゃないみたい。
そしてアニーが言うのだ。
「声を揃える為に、皆のことを知りたいわ! お話しましょう!」
「何で貴女とそんなこと話さなきゃいけないわけ? それより練習でしょ」
反対するブリジット。皆はバラバラだ。
だが、アニーは諦めず皆と仲良くしようと努力していく。
キャロル、ドロシーがすぐに仲良くなってくれて、三人の歌はハモっていく。
オードリーも、三人が仲良くしているならと一緒に練習するようになってくれた。
この辺り、本当はそれぞれソロ曲を歌ってゆっくり掘り下げたいところだけど、曲も練習する時間も無かったので急ぎ足になってしまう。
最後に、渋々ブリジットが一緒に練習をするのだ。
「フン、仕方が無いわね。私は完璧な音程で歌うのだから、皆もはずさないでよ」
そしていよいよ課題当日。歌唱指導の先生のピアノによって歌いだす。
五人のハモリは上々だ。歌声が揃っていて、おおと観客が感心した様子を見せた時に管弦楽団の演奏が始まった。
そう、生オケも付いているのだ。曲は少ないけど、やっぱ生オケは迫力がある。
楽団の演奏に合わせて、皆が負けない歌声を響かせる。
曲が終わった時には、皆が拍手をしてくれた。
ここまでで前半部分だ。
よしよし、掴みはまあイケてそうだ。セリーヌ姫が寝てない、じゃなくて目を瞑って考え事をしていない。
短い舞台なので、途中休憩なしに二幕も始める。
引き続き、後半部分が始まった。




