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ヒーローを追いかけまわすタイプの悪役令嬢に転生してしまったけどキャラ変したいです  作者: 園内かな
激情

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3.


 血の気がサーっと引いていくのが感じられた。

 思い起こせば、けっこう酷いことを言っている。本人に聞かれちゃ絶対ダメなやつだった。

 道の途中にマドレーヌが待機していたし、誰も通りかかることのない奥まった場所だから、普通の声で喋ってしまっていた。


 けれど、この二人は空を飛ぶ魔法が使える。物陰からこっそり回り込んで聞いていたんだろう。

 私は呻きながら謝罪をした。


「あっ~、その、ごめんなさい! ほんと、変な意味じゃないのよ? 二人の将来のこと、ちゃんと考えてるから! 良いところで働いて、良い暮らしをする為に、知恵をつけて独り立ちできるようにってことだから!」


 クリスが涙を流しながら訴える。


「エリザベスさまから離れる為に魔法学園に通うなら、行きたくありません」

「離れる為じゃなくて、将来の為なのよ……」


 ジェシカもぽろぽろ涙を零しながら頭を下げる。


「エリザベスさま。私、お金の為に一緒に居たいんじゃないんです。信じてください。一生懸命勉強して、礼儀作法も学びます。下働きでもなんでもいいから、お傍に置いてください」

「泣かないで。ね、二人とも……」


 親方がじろっと私を睨んで凄む。


「一体こいつぁ、どういうことだ」

「エリザベスさまの不注意な発言のせいってことでしょうね」


 ロナルドがそう呟くと、親方が怒って怒鳴る。


「二人に、何を言ったんだ!」


 二人は泣き続けているし、場はカオスだ。

 打合せスペースの外から、ひょこっと気の利くフッ軽職人さんが顔を出して言った。


「ひとまず、今日は二人を送っていきます。泣くのをやめて、落ち着かなきゃ話し合いにもなんないでしょう」

「でも……」


 移動したくないと首を横に振るジェシカ。その度に、涙の粒が長いまつげからぽろぽろっと零れて罪悪感がハンパない。


「二人とも。きっとエリザベスさまも、悪いようにはなさらないよ。親方とロナルドさんとちゃんと話し合ってくれるよ。明日、気分を落ち着かせてまたここに来ようね」


 気の利く見習い職人さん、ずっと気が利いている。すごい気働きの若者だ。良い人材すぎる。

 親方も頷いた。


「おう、ロビン。二人を送ってやってくれ」


 私も口を挟んだ。


「うちの馬車を使っていって。雨だから」

「えっ。でも、そんなの恐れ多すぎるんで大丈夫です」

「いいからお願い」

「ハイ……」


 マドレーヌに御者への伝言を頼んで、三人を馬車まで送ってもらう。

 そして、事務所にはじろりと私を睨む親方と、目を笑みの形にしながらも決して笑っていないロナルドが残った。


「それで?」

「えーっとね……」


 私は、彼らは貧しいから生きていく為に私に縋りついているのだろう、とアランさまと話したとゲロった。そんなに媚を売らなくても生きていけるようにしてあげたい、今の状態は哀れを感じる、と言ったとも。


「…………」

「………………」


 二人は真顔になってから、たっぷりと無言になった。

 親方のこめかみには血管が浮いて見える。多分、私に怒鳴りつけたいのを必死に我慢しているのだろう。

 そこに、マドレーヌが戻って来た。

 緊迫した空気を読んで、そっと静かに立ったまま黙っている。

 親方は大きく深呼吸してから、低い声を出した。


「お嬢さまは、職人が良い工房で働きたいと思うのは、どういうところだと思う」

「それは。当然、労働条件が良いところでしょう。賃金が多く貰えて、ちゃんと休みもあるところ」

「違ぇ! それは、実力を出せる仕事が出来て、結果を認めて貰える工房だ!」


 言ってることは分かる。でも、それは理想論だ。


「いくら実力を認めてもらっても、報酬が少なければ暮らしていけないでしょう。きちんと生活できる給金を貰ってから、言えることよ、それは」

「勿論、それも大切だ。だが、金さえ渡しておきゃいいだろってのは駄目なんだ! お嬢さまは、いつも付け届けだなんだってくださるが、そうじゃねぇ。職人は、己の腕を認められてナンボだ。自分が作ったもんを世間に認められ、依頼主に褒められる。それが一番満足出来んだ」


 まあ、それも言ってることは分かる。


「最低限の賃金と、認めてもらえればいいってのは分かるわよ。でも職人さんにも家族が居て、養わなければいけないんだから。特に、職人なんて怪我でもしたら働けなくなるでしょう。貰えるうちにたくさん貰っていけばいいのよ」

「分っかんねぇヤツだなぁ! そういう問題じゃねぇ、心意気なんだ!」

「分かってるわよ、心意気も大切。でもそれじゃ食べていけないでしょう」


 私たちの膠着状態に、ロナルドが口を挟んだ。


「エリザベスさま。生活と賃金も大切ですが、それを理由に個人の心、望みを否定してはいけないと、親方はそうおっしゃってるんですよ」

「分かってるけど」

「ジェシカは十人兄弟の長女。家庭としては機能していないくらい貧しい一家で、常に弟妹や親の世話に明け暮れている生活でした。しかも、あの容姿だ。一番高く売れるのはいつかと、親が日常的に話すような状態でした」

「…………」

「そしてクリスは、彼自身も言っていたが、母親が貴族のお屋敷でお手付きになり、妊娠したら放り出された。母親は病弱で、クリスが子供の頃から働いて生活を支えています」

「ええ。そういう境遇の子に来てほしいとお願いしたものね」


 だから、やっと生活が安定しそうなこの境遇を捨てたくないと、必死になっているのは分かっている。そう思ったのだが、ロナルドが続けた言葉は違うものだった。


「だから二人は、いざとなったらどんな場所でも働いていけるんですよ。本当にお金の為だけに擦り寄っているなら、今回の検査が終わったらまとまった金額を貰って後は知らん顔ですよ。それが、感情が爆発して殺し合いになる程の魔法をぶつけ合う。その意味を、よく考えてください」

「ハイ……」

「しっかりしている子供なんか、不幸話を聞かせて前金だけ受け取ってとんずら、なんて場合もあるんですよ。これからもずっと働きたいなんて、健気な願いじゃありませんか」


 それは、しっかりしていると言えるのか?

 親方もぶつくさ言い出した。


「ったく。オレだって、お嬢さまに『金さえ払っときゃ良いだろ』って態度を取られちゃ、腹立たしい時があるんだ」

「だから~。それは、貰っているものが十分だからそう思うんでしょう。もし私が、ろくに給金も払わずに『よく頑張ったわね、ありがとう』ってお礼だけ言ってみなさいよ。たちまち職人たちが不満だらけになるでしょ」

「そんなことはねぇ!」


 ロナルドがまた口を挟む。


「私も、利を何より大切にする商人ながら、エリザベスさまの放置ぶりには心が折れそうにはなりますね」

「えっ……」

「私を僻地に追いやって、放置ですよ。スマホの試験販売が始まって、連絡を取れるようになっても無視です」

「用がある時はちゃんと連絡していたでしょう」

「それ以外は音信不通です」

「用もないのに、お抱え商人と連絡を密に取るなんておかしいでしょ! いや、でも二人には感謝してるわよ。マドレーヌも。さっき、リーシャ商会のライナスに言ったんだけど。私たちは機が合ってると思う」

「機……?」


 不思議そうにするので、また同じ説明をする。


「機会、時機、そういうものね。私がしたいことを頼むと、みんなの都合も良くて、そしてするする成功する。でも合わない人とはまるで噛み合わないの」

「そういう縁、ありますよね」


 親方に向かって、特に言うつもりもなかった言葉まで出てしまう。


「そう。親方とジョーなんて、保護して誰にも会わせないようする必要があるかもって思うわ。スマホを作れるなんて、しかもこんなに早く量産出来るなんて、想像もしていなかったわ」

「それを、ジョーにも言ってやってくれ! 工房の皆にも!」

「もー、分かったわよ、じゃあ、スマホが無事に販売出来たら、皆でお疲れ様会をしましょう。その時に、全員を褒め称えるわ」

「おう」


 親方が納得してくれた。

 そしてロナルドがおねだりする。


「私も、そんな風に言ってほしいんですが」

「よくやってくれてるわ、ありがとう」

「それだけですか……」

「マドレーヌも。本当に、いつもありがとう。こき使ってしまって、申し訳ないと思っているのよ」


 すると、彼女は騎士の礼をしてくれる。


「いいえ。エリザベスさまにお仕えすることは、喜びですから」

「ハァ~……」


 思わず嘆息してしまった。

 麗しい男装の令嬢にそんなこと言われたら、ときめくでしょう。


「こりゃ、旦那も大変だな」

「全くです」


 親方とロナルドの会話は、聞こえたけど不問とした。




 翌日、心配していたが普通にクリスとジェシカはやって来た。

 二人とも、殊勝な顔で皆に謝罪をする。


「昨日は、本当にごめんなさい」

「申し訳ありませんでした。二度とこのようなことは致しません」


 ジェシカは本当にしっかりしている。感心だ。

 クリスも年相応で可愛らしい謝り方だけれど。

 皆が心配そうに私を見るので、鷹揚に頷いて言った。


「それではこの件は不問にするわ。私も不用意な発言をしてしまったから。これからは二人、仲良くは難しくても、衝突はしないようにしてちょうだい」

「はい!」

「かしこまりました、エリザベスさま」


 二人の返事に職人の皆もホッとする。

 昨日から送迎をしてくれている、気が利いてフッ軽な見習い職人、ロビンがすぐ二人に話しかけた。


「良かったなあ、ジェシカちゃん、クリスくん。あと、本来なら許されないことだけど、昨日のあの時の数値は有効に活用出来るから、もしバレて尋問なんかになっても、私有地での検査って言い張れば良いよ。でも二度は使えないからね」

「はい!」

「ありがとうございます、ロビンさん」


 二人とも、ロビンというお兄さん的な立場の人が居るから落ち着いているみたいだ。二人では険悪でも、三人だと関係改善出来ているのだろう。

 戦闘データも使えるみたいだし、雨降って地固まるかも。

 良かった良かった。

 私からも、お礼を言っておこう。


「ありがとう、ロビン。貴方は気が利くし、判断も早いのね。職人の前は商会に奉公でもしていたのかしら」

「いえ、そんな。僕……、私も、兄弟が多くて。下に五人も居るから、面倒ばかりみているうちに、こうなったみたいです。親方の工房で二年前から見習いに、入らせてもらって? お世話になってます」


 敬語や言葉遣いは下町のそれで、礼儀はなってないけれど。彼の朴訥とした良い人柄はよく分かった。


「ありがとう、これからもよろしくね」

「は、はい……!」


 すぐにジェシカが続けて話しかけてきた。


「エリザベスさま、いつでも良いので、私にお時間頂けませんか」

「ええ、いいわよ。今日の検査が終わってからで良いかしら」

「はい! ありがとうございます」


 クリスが目を見開いて、驚いているようだ。

 多分、この年頃では女の子の方が早熟で口も立つ。クリスにはこういうやり方も分からないし、何を言ってどうするかも分からないのだろう。


 彼にはやはり、集団生活を営んでもらう為に魔法学園に通ってもらおう。

 となれば、ジェシカにはどうしてもらうかだけど。魔術を使うのが嫌だと言いつつ、昨日の戦闘を見る限りものすごい実力だった。そっちの方面への進出を促しつつ、どうしても嫌なら別の道を進むのがいいかな。今日の話で、彼女の希望が聞けるかもしれない。

 そんな風に考えながら、計測を進めていく。


「やっぱり、昨日の計測結果との比較は素晴らしいな」

「この分じゃ、予定より早く終わりそうだ」


 職人たちから、そんな声も聞こえる。

 彼らの指示通り、二人は大きな魔力を使ったり、小さく魔力を使ったり色々やっていく。正直、私が居なくても全然進むんだけど、私が居ないとパフォーマンスが悪いみたいなことを言われたので出来る限りは参加している。

 そうこうしているうちに、今日の計測は終わった。


「ジェシカ、お茶でもしながらお話しましょうか」

「はい。出来れば、内密のお話をしたいです」

「勿論よ」



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