13-6
前方に集まるゴブリンの集団に対して、ガスショックバレットを放つ。
衝撃でひるんだ隙に一気に踏み込むと、剣で一閃する。相手が刃を返す前に走り抜け、シールド・オートマトンの突撃で更に陣形を崩す。
爆発、打撃、剣と銃を操りながらユートは村の道を走る。
敵対するゴブリンは、二、三体で一斉に襲い掛かってくる。だが、その程度は大した脅威ではなかった。
ユートが剣を振るうたびに、幻の体を失った骨が地面に突き刺さり、数を減らしていく。
(幻体モンスターか……これなら数が揃えられる。仮にこれが生物なら、10体20体でも集団を維持するのに食料とかのコストは膨大だ。それを踏み倒せるのなら脅威になる)
また一匹、強引に剣でなぎ倒しながら思案する。
周囲から飛び掛かる機を窺っている個体も、シールド・オートマトンが死角をフォローすることによって、容易に攻撃は出来ない。
――ここは大丈夫。そう判断すると、ユートは別働隊が気になってくる。
「アッカ、応答して!」
走りながら、通信機に向かって声をかける。
『どうしたんだ、アニキ!』
「こっちは問題なく村の反対側まで移動できそうだけど、そっちの状況は?」
『あー、ちょっとまってくれ、今移動中――』
通信機越しに聞こえてくるのは、地を駆ける靴の音だった。
◆◆◆
ケラウスたちのチームは、特に問題なく村の中央へと到達することが出来た。
先だってユートが露払いをしていることと、今も陽動に回っている成果だった。
ウォール・マナタイトは村の中央の広場に設置されている。
円形の石板の上に。ひし形の結晶体が浮かんでいる。
光は無く、灰色の表面は『ただの石』としか言いようがない。
「お師匠様、いけますか?」
「誰に言ってるんだ? お前の師匠だぞ」
ケラウスは口の端を上げると、ウォール・マナタイトの前に立つ。
手をかざし、目を閉じ、短く詠唱すると足元からマナの黄金の粒子が立ちのぼる。
マナタイトが反応し、灰色だった鉱石が徐々に透明な輝きを取り戻していく。
「よーし、オレッチたちは警護だぜ」
「よろしくね、アッカちゃん!」
「任されたぜ!!」
アッカの指示の元、四機のオートマトンは半円状に広がってケラウスの周囲に展開する。
その輪の中にライカは移動すると、杖をまっすぐに構えて正面を見る。
「おーい、マイトもこっちだ!」
「う、うん……」
少し遅れてマイトもシールド・オートマトンの後ろに構える。
何度か後ろを見て、どこか不安げだった。
「ねえ、もっと前に出てマナタイトから離れた方がいいんじゃないかな」
ライカは首を横に振る。
「う~ん、もうちょっと走れる人がいればそれも選択肢だけど、今は必要ないかな」
「そうだぜ、作戦の目標はマナタイトの起動だ、ケラウスの旦那を守りきれば、オレッチたちの勝ちだってことだよ!」
「そう、だけど――」
マイトの言葉を、ライカが手を振って静止する。
「来るよ、矢をつがえて」
周囲の空き家の影、曇天の薄暗い空気の中に、紅い光が見えた。
それも、一つや二つではない。邪悪な相貌――ゴブリンの赤い光が一斉に飛び出してきた。
◆◆◆
ゴブリンは、ハーフフットが呪いや異常な魔力によって変質した存在である。
その体長は一メートルにも満たず、力も弱い。
だが、武器を使う知恵がある。そして、『自身が小さい』ことを自覚し、利用する知恵があった。
確かに、個体としての能力は低いだろう。
だが、小さいことは利点でもある。
物かげ――とりわけ、人が住んでいたような廃墟は、彼らにとって絶好の戦場であった。
家の中、看板の裏、柵の後ろ。僅かな遮蔽物の裏に小さい体で潜み、奇襲を行う。
それが、彼らの最大の武器であった。
◆◆◆
廃村の広場は一瞬で戦場になる。
腐臭を巻き散らしながら、幻体のゴブリンが一斉に飛び掛かってくる。
「アッカちゃん!」
「合点承知!!」
アッカの指示の元、シールド・オートマトンが一斉にフィールドを発生させる。
マニピュレーターからエネルギーが発生し、展開していた透明なフィルターを通じて展開する。数秒の間、その猶予で、ケラウスを中心とした球状のフィールドが発生される。
「ギャアアアァァァァっ!!」
ゴブリンたちは一斉に飛び掛かるものの、フィールドに弾かれて吹き飛ばされる。
「簡易起動≪インスタンス≫! 閃雷≪フラッシュ≫!」
ライカが杖を振りかざすと、雷撃が帯状に放たれる。あわせてアッカが指示を出し、フィールドを一時的に解除。
ライカが放った電撃は、容赦なくゴブリンたちに降り注ぐ。雷撃に撃たれたゴブリンたちは断末魔もなく消滅し、骨だけになった。
だが、それで倒せたのはほんの一角。再び、波のように新手が押し寄せてくる。
「イシ! イシ! イシだぁアアァ!!」
「ナゲロナゲロナゲロ!」
「ホネモホネモ!」
ゴブリンは賢い。みすみす同じ失敗をしない。
やみくも突撃をするのではなく、今度は一斉に投石が行われた。
「わ、わ!!」
そのうちいくつかが、フィールドで弾き切れずに落下する。
ちょうど、マイトの目の前に落ちると、反射して彼の足をかすめる。
(こ、このままだと押し切られる――)
それは、恐怖からわき上がった謝った判断だった。
「ぼ、僕は前に出て、牽制します!!」
ライカが止める間もなく、少年は弓を持ったまま飛び出してしまう。
「な、お前!! オレッチのフィールドの中で援護しろよ!」
「でも、押しつぶされちゃうよ!」
勇気からの行動ではなく、恐怖からの暴走。
少年はシールド・オートマトンの前に立つと矢を放つ。
ロクに準備もしていない射撃はあらぬ方向に飛んでいく、ゴブリンは歯牙にもかけない。
返礼は、石斧の投擲だった。
「バッカやろう!!」
アッカが指示をすると一機のオートマトンが前に出る。マイトを庇うようにフィールドを展開した。
投げられた石斧はフィールドに弾かれて落ちる。だが、陣形に綻びが出来た。
――ゴブリンは、賢い――
その隙を逃さずに、一斉に投擲が行われた。
「っ!」
珍しくライカが顔を険しくすると、魔力の塊のみを飛ばして迎撃する。
即席の射撃。それでも、ライカであれば雑魚の攻撃を撃ち落とすには十分な威力をもつ。
だが、すべては撃ち落とせない。
投げられた手斧のうち一つが――ケラウスの肩に突き刺さった。




