13-4
クラベ村から約1カルメットル――地球では1キロメートル程の地点。
村から林を挟んで広野にぽっかりと空いた窪地。崖に空いた洞窟。
その前に、ユートたちのローバーが停まっている。
周辺にはシールド・オートマトンが展開して警戒をしている。
ユートたちは、洞窟の中に居た。
戦闘の終了後、ユートはマイトに案内をされてこの場所にやって来た。
――村での任務中に負傷した先輩が、ここに隠れているんです――
作戦の第一目標である、合流を果たすべく、ユートたちは急行した。
◆◆◆
洞窟の奥には、一組の男女が居た。
屈強な肉体をした男と、尖がり帽子をかぶり、杖を持った女性。
二人とも負傷して包帯を巻いており、顔色もあまりよくない。
近づく足音に警戒をしていたが、マイトの姿を見ると、負傷した身体をおして駆け寄った。
「マイト、無事だったのか」
「まったく、一人で囮になるだなんて」
「ごめんなさい。あの時はそうするしかないと思ったんです」
負傷して潜伏していたところ、周辺にゴブリンたちがやってきた。
洞窟の中に入られたら、逃げることもかなわない。そう判断したマイトは、一人で囮になることを選んだ。
洞窟から出て、奇襲で放った一撃は無事に命中した。
そのまま挑発して距離をとったのはいい。
だが、そこから先は逃げることしか出来ない。なんとか撒こうと草原を走っていたところ、ユートたちと運良く合流出来たのだった。
「ところで、後ろの人たちは」
そう尋ねられ、ケラウスが一歩前に出た。
「広野の魔法使い、ケラウス・ラインボルト。ギルドからの依頼で救援に来た」
「なんと、ケラウス様が来たのでしたら、心強い――」
セインは興奮して立ち上がるが、すぐに傷痕をおさえる。
「っ――」
「セイン、傷が深いのだから、落ち着いて」
崩れ落ちそうなところ、慌ててパインが肩を貸す。
それを見て、ユートはコマンドたちに指示を出す。
「すみません、お二人とも顔色が良くない。
アッカとドリー、俺たちの使い魔に体調をチェックさせますので、接触をしますが失礼します」
「わかった」
アッカとドリーは、マニピュレーターで怪我人の状態を確認する。
怪我人たちは多少怪訝な顔をしたが、マイトのようにあからさまに怯えることはなかった。
「うーん、栄養状態もよくないね」
「ドリー、緊急用の保存食があったよね。それを出してあげて」
「おっしゃ、エナジーメイトだな。バニラとチョコどっちにする?」
「ユートちゃん、水もしっかりとね」
にわかに騒がしくなる。怪我人たちも、張り詰めていた表情が和らいでいた。
◆◆◆
休息し、怪我人の応急処理が終わると、改めてお互いに名乗りあう。
「戦士のセインと申します」
「魔法使い――とは、ケラウス様の前で名乗るのもおこがましいですが、パインと申します」
二人は深々とお辞儀をする。
「よしてくれ、あんまり畏まられても困っちまう」
「お師匠様、そういう時に威厳ある態度をとるのも必要ですよ」
照れるケラウスに、一言添えるライカ。ケラウスはますます困ったように笑う。
「うちの新米が世話になりました。とは言っても、このザマです。俺たちも、あなたの手を借りなければエドンに戻ることもままなりません」
セインとパインは腕や腹に包帯を巻いている。一目で見て、軽傷ではないのは理解できた。
「分かった。それじゃあ一度ローバーでエドンに」
戻ろうかと提案したところ、セインは首を横に振る。
「そうもいかないんです。
ゴブリンたちはウォール・マナタイトに魔力を込めています。負の魔力によって汚染されてしまえば、近づくことも困難になります」
ケラウスは僅かに唸ると、表情を険しくさせる。
ウォール・マナタイトは悪意をもった魔物や呪いを弾き、土地の浄化を行う装置である。
それが停止しているならまだしも、逆に汚染されてしまえば、奪還は困難となる。
「そうなると、突入することも困難になるな。
ユート、ライカ、すまないが先に村の制圧に向かおう」
「ただ、問題が――」
その時だった。
ユートの胸ポケットの中で、魔力の計測器が再び鳴動する。
一同の視線がユートに集まった。
『ユート、ドリーに映像を転送します。
ドリーはアイカメラをプロジェクターモードに変更して、投影してください』
「わかった、ドリー、お願い!」
「うん!」
すぐにドリーは壁に向かうと、そこから映像が照射される。
「ユートちゃん、これって何?」
「映像を映し出す、シーナが急いで転送するってことは、重要な情報の筈だ」
そうして、壁に映像が浮かび上がる。
背の低い家々が連なる、小さな村――クラベ村の入り口である。
そこに、巨大な異物が立っている。
岩を集めた巨人だ。
「あの巨大な岩の化け物は?」
シーナが分からない、と言う前に、ケラウスが口を開いた。
「ゴーレムってやつだ。まさかゴブリンどもがそんな用心棒まで連れてきてるとはな」
「アイツ……先輩たちを倒した奴だ!」
マイトは忌々し気に声を上げた。
「幻体のゴブリンだけならともかく、あの大物か……」
「ライカ、幻体って何?」
聞きなれない言葉を聞くと、ライカはドヤっと自身満々な顔になる。
「うんうん、お姉ちゃんが説明しましょう!」
上機嫌に鼻をならすと、解説を始めた。
「んっとね、さっき倒したゴブリンからは、骨だけは残ったでしょ。
あれは、生きていたゴブリンの身体にマナを注ぎ込んで疑似的な生物にする魔法なんだ。
それで生み出されたモンスターが、幻体って言うの」
「なるほど……だから、一体だけは死体が残ったのか」
先程の戦闘の最中に、不自然に消えた姿。それに納得がいった。
「しかし、ゴーレムはどう排除するか。
俺やライカの魔法なら十分相手も出来るが、少々手間がかかるな」
「マナタイトの起動のために、なるべく温存しておきたいところだが」
ユートたちの作戦の目的は、マナタイトの起動まで含まれている。
再起動には大量のエーテルが必要になるのだが、巨人を倒すほどの大規模な魔法を使ったうえでは、いささか分が悪い。
「それなら、俺に考えがある」
即座に、ユートは答える。
「おう、お前がそこまで自信満々に言うのなら、任せられるな」
「もっちろん」
自信満々に応えるユートに、ライカもどこか嬉しそうだった。
「シーナ、エールに出動要請を」
『ええ、待ちわびていたそうですよ』




