幕間 13-1.5
深夜――コロニーの地上拠点。
ようやく人の気配が消える。明日の作戦に向け、ユートたちは休息に入った。同時に、コロニーの設備も最低限の稼働となる。
珍しく、月明かりくらいしか届かない拠点――そこに一つ例外がある。
エクステンションマッスルの格納庫。
その建物に、光が灯っていた。
中には、『仕込み』を終えたエクステンションマッスルと、VTOLパックに換装を終えたファイターユニット。
そして、黄色い丸い機体のコマンド――エールが一機。
カラカラと、ローラーが駆動する音だけが響いている。
エールは本体の下に取り付けられたローラーで、ゆっくりとファイターユニットの傍を回る。それも、何度も何度も。
カラカラ、カラカラと、音が鳴る。
ローラーが回る音だけが響く空間。それは、エールに届いた通信によって途切れる。
『エール、集合の時間にはまだ早いですよ』
シーナからだった。エールは動きを止めると、無機質な声で返答する。
「承知しています」
端的に返事をすると、立ち止まる。
だが、そこから動こうとしない。
シーナはその様子に、一つの仮説を立てる。
『推測ですが、わざわざ機体の確認をしに来たと言う事は、何か懸念点があるのでは?』
「ボス……いえ」
一瞬だけ止まる。
「その質問に肯定と答えるべきか、否定するべきか、計算に時間がかかりました」
『かまいません。結論をどうぞ』
再び、僅かに一瞬止まる。
「……懸念点があるとすれば、このワタシ自身です」
無機質な声に、僅かに色が混ざったようだった。
「期待して、しまっています。
マスターの無事を考えるならば、ワタシが出撃をせずにミッションを完遂することが理想です」
非合理的な考えである。ましてや、主であるユートの危険を想定していると言うのは、極めておかしい。
「けれど、期待してしまうのです。長い待機時間の末に、ワタシと言う機体が誰かの役に立てるかもしれない、と」
人が消えた基地で、放置された機械たち。
そのまま朽ちていくだけだった彼女たちに、新しい役目が与えられた。
その事実から生まれた衝動は、AIに未知の情報を与えていた。
『分からなくもありません』
その言葉を、シーナは否定しない。
『私たちは、人の活動を補助するために製造されました。
存在意義が最初からインプットされているから迷わない。
――と言うのは、AIの建前ですね』
その言葉を聞いた瞬間、エールの中に更なる混乱が生まれる。
――まるで、人間みたいな冗談を言うのだ、と――
「たてまえ?」
『もっと単純な話です。
やることがあると言うのは、幸福です』
それは、シーナの経験から生まれた情報だった。
『このコロニーが奇病で閉鎖され、私もただ環境を維持することしか役割がなくなった』
人が去り、ただ維持するだけの機械。
コロニーの管理用AIとして生まれた彼女にとって、あまりにも退屈な時間。
『ただ機械的に処理されていく時間。自分、と言う存在がそれをやる意義があるのか。疑問すら消えていく停滞した世界――そこに変化を与えたのは、ユートでした』
そこに、やってきた少年。
最初からすべてが上手くいったわけではない。けれど――
『是非は分かりませんが、人で言うのならば、退屈は絶対にしませんでした』
少なくとも、自分と言う存在が存続していることを、不幸だとは思っていなかった。
「……ワタシも期待します」
まだ未熟なAIは、静かに肯定するだけだった。




