13-1
東の果て、コロニーの地上拠点に夜が訪れる。
夜の闇は人の活動を抑え、徐々に静かになっていく。それはユートにとっても例外ではない。
夜間は視界の確保が難しいこともあり、オートマトンも活動を停止するのだが――その日は違った。
地上の管制室は明るいまま。中からは話し声――会議が続いている。
冒険者ギルドに飛び込んできた緊急依頼。それを請けると決め、情報を収集したのち、三人はすぐに拠点へと戻った。その後、状況と作戦の確認をしていた。
室内に設置された大型モニターには周辺の地図が表示されている。
サブモニターには集落の実際の映像がいくつか表示されている。そこにあるのは、人の気配の消えた集落と、そこを闊歩する緑色の小人――鋭い目はギョロリと飛び出ていて、頭には小さな角が付いている。
ゴブリン、と呼ばれるハーフフット亜種の魔物であるとケラウスは言っていた。
「目的は集落の制圧、か」
――南東のクラベ村跡、ウォール・マナタイトの再起動をしていた最中、ゴブリンの群れの襲撃を受けた。
作業にあたっていた冒険者は負傷により作戦領域から後退し、身を潜めて増援の到着を待っている。
「ウォール・マナタイトって言うのはね、集落の周辺のマナを安定させて、魔物や異常魔力の浸食を防ぐための装置なの」
「ドラゴンみたいな危険生物がいるのなら、備えも当然あるのか」
幸いにして地上拠点は大規模な襲撃を受けたことはない。来たとしても追い返せるだけの設備はある。
それも、地上に来た時に最初に遭遇した、ドラゴンのような存在を危惧しての用心であった。
ドラゴン程でもないが、危険な生物はこのワンドガルドにも存在する。中世のヨーロッパの人間が、夜の闇と狼を恐れたようにだ。それらの存在から身を守るために、ウォール・マナタイトはある。
「クラベ村は――」
ライカはケラウスの顔を見る。師匠の顔は険しく、口はきつく結ばれている。
ライカは僅かに目を伏せると、師の代わりに口を開いた。
「クラベ村は、ある事件によって無人化した村なの。そこに新しく入植するにあたって、ウォール・マナタイトを再起動する筈だったのに……」
「ゴブリン、人の集落を襲って自分の住処にしてしまう魔物に制圧されてしまっていた」
サブモニターに表示されている映像を見る。
ギルドで依頼を請けた直後に、ファイターユニットを利用して上空から撮影した映像である。
実際に、村の隅々まで緑の異形は存在していた。
その手には武器が握られ、目は殺気立っている。
実際、偵察の最中に何度か上空に向かって石を投げられた。当然、届くことはないが、奴らの血の気の多さを察することは出来た。
「何れにしても戦闘は避けられないと見ていいね」
ケラウスとライカは頷く。
「最初に確認したい、作戦の目的は制圧、殲滅、それとも救出?」
「それを言うなら、まずは救出だ。次に制圧。出来ることなら集落への被害は抑えたい――人は居なくなっても、住処は残したい」
その言葉に、ユートは頷く。
「分かった。ならファルコンはひとまず待機」
『ええ、過剰火力ですからね。ですが、ファイターユニットは急行できるようにスタンバイしておきましょう』
「操縦は?」
『エールがやります』
「なら、ドリーとアッカはこっちに回して。それと、シールド・オートマトンも」
『了解しました。ローバーで展開できる限界数を割り当てましょう』
テキパキと指示をしていく。その様子を、ライカは黙って見つめていた。
「……」
「どうしたの、ライカ」
「ううん、やっぱりユートちゃんも戦士なんだってね」
だが、その顔は感心によるものではない。
(どうみても、そんな感心した顔じゃなかったけど)
何か隠し事をしている。目を伏せているのは、そう言うことだと。
◆◆◆
作戦を確認後、軽く夕食をとる。
ワンドガルドに来て何度か食事をとったが、これほどまで味気ない食卓は初めてだった。
ユートは早々に食事を終えると、エクステンションマッスルの整備工場へと足を運ぶ。
内部で待機しているファルコンは、大気圏突破の修理も完了し、十全の状態だった。
(今回は使わないとは言っても、もしもがある。いつでも起動できるようにしておかないと)
タブレットを起動して状態を確認していく。
その最中、後ろから足音が聞こえてきた。
「ユート、ちょっといいか」
「ケラウスさん、どうしたの?」
作業を止めて振り返ると、やはり重い面持ちの男が立っていた。
「こいつに、一つ仕込みをしたい」
その言葉に、ユートは手を止めてケラウスの顔を見上げる。
「何をするか言ってほしい。場合によっては許可できない」
「悪い事じゃない、もしもの時のための、切り札だ」
「それなら尚更ちゃんと説明してもらわないと。
こいつは俺の肉体みたいなものだから、理由もなく改造されたくない」
ユートの言葉には若干の苛立ちが混ざっていた。それも無理はない。
エクステンションマッスルは宇宙で活動するために生み出された、人間の肉体の延長だ。神経接続によって一体化し、人体と遜色のない動きをする。
まさしく鋼の肉体であり、パイロットは皆、愛着を持っている。
「ああ、その通りだ、悪かったよ」
頭を下げるケラウスに、ユートは強く言い過ぎたかとバツの悪い顔をする。
「それなんだが――」
そうして説明された内容は、確かに『切り札』足りえるものであった。
「――なるほど、それが本当なら、切り札になる」
最初は渋い顔をしていたユートも、既に瞳には興味を浮かべていた。
「ああ、ただし、本当に切り札だ。本来ならテストをしてからやりたいところだが、そんな時間もない」
「分かりました。設置を許可します。ただし、使うかは最後の最後にする」
そうして、夜は更けていった。
作戦は翌日、時間はない。




