12-11
田園の合間を大八車は行く。
台車を引っ張るとユートとライカ、二人を先導するようにケラウスがあぜ道を行く。
城門に辿り着くと、いつもの門番が待っていた。
彼は、ケラウスに挨拶をすると、その後ろの二人を見る。並んで立つ二人を見て、頬を緩める。
「いやっ……ふふっ、何でもない、通りなさい」
心なしか、いつもより上機嫌なようであった。
◆◆◆
東区を抜けて西区へ、冒険者ギルドは今日も人でにぎわっていた。
台車を止めると、ギルドの入り口から男性が何人か出てくる。周囲の冒険者とは違って帯剣しておらず、服装もジャケットに皺の無いズボンと、いかにも職員といった格好である。
「お待ちしておりましたケラウス様」
彼らは手分けをして荷物を下ろし始める。
「ユート、ライカ、俺たちはこっちだ」
ケラウスは手招きをすると、ギルドの中に入っていった。
「それじゃあ行こう、ユートちゃん。緊張するなら手でもつなごっか?」
「大丈夫だよ、クラマやザッツさんに見れらたら笑われちゃうし」
エドンの知人たちが見たら、なんというだろうか、想像して思わず苦笑いしていた。
◆◆◆
ギルドの中は清潔に整えられていた。
受付にはよく磨かれた木製のテーブル。清潔な恰好をした職員が書類を書き込んだりしている。
壁には大きな掲示板が張り出されており、何やら細かい文字が書き込まれた張り紙がいくつもある。
それを眺めているのは、職員たちと比べてラフな格好をした若い男女たちが囲んでいる。
皆、剣や杖、武器を持っていて、顔にも活力が満ちている。
(ギルド――同業者による組合、か)
以前にザッツから大まかに聞いた内容を思い返す。
ここでは、冒険者と呼ばれるフリーランスの戦士や労働者が仕事を求めて集まると言う。彼らを対象として仕事――危険生物の排除や人足の確保が集められ、斡旋される。
「ライカの薬は、ここで使われるんだよね」
「うん。冒険者のお仕事は怪我や消耗が絶えないからね。危険な仕事の際はギルドから予め薬品を渡すこともあるんだ」
ライカが言うように、冒険者の装備や腕には細かい傷が幾つもついている。それは、彼らの仕事の過酷さを示していた。
「はい、では納品書にサインを――」
カウンターでは、ケラウスが受付嬢と何やら話をしている。
動きやすいように頭の上で結った髪は黒く艶やか。キッチリと着こなしたジャケットとスカートには皺ひとつない。
「私たちはここで待機かな」
「そっか、なら、ちょっと質問していいよ」
その言葉を聞いた瞬間、ライカは目を輝かせてユートに顔を寄せる。
「もっちろん! 頼ってくれて嬉しいよ!」
思わず一歩顔を引いてしまうが、文句は口から出てこなかった。
「えっと魔法薬っていっても、具体的にどんな効果があるの?」
ライカは得意気に鼻を鳴らすと、スラスラと答え始める。
「私が作っているのは、主に活性や付与を目的としたものかな。
薬効成分をもつハーブを液体化エーテルに溶け込ませて、治癒力を強化したり、身体能力を強化したりするの」
ちょうど、ライカが納品した薬品が箱から取り出される。
瓶の中に入っているのは緑や赤、鮮やかな色のついた薬物。これは、使用する人間が分かり易いように効能ごとにあえて色を付けているらしい。
「傷を一瞬で直すとか?」
「一瞬とはいかないかな。裂傷とかの場合は経口摂取した魔法薬のエーテルが体内で馴染んで肉体に変化して、ようやく傷が塞がるから」
傷を塞ぐ、と言っても一瞬で治療が出来るわけではない。それこそ、『傷をなかったことにする』くらいだが、魔法薬はエーテルを肉体を通すことによって、新たに造りなおすと言う手順となる。
(再生治療のようなものか)
ユートは納得すると、次の質問をする。
「付与ってのは?」
「武器につけたり矢に塗り付けたりして魔法効果を発揮させるものかな。
ユートちゃんが使ってる銃の弾丸が似てるかもしれないね」
「毒を塗るようなものかな」
珍しくライカは難しい顔をすると、唸る。
「う~ん、確かにそうかも」
「やっぱり、毒はイメージが悪いかな」
「ま、まあ、呪いと魔法も違いもそうだけど、そう言った言葉のイメージは魔法使いは大切にするからね」
ライカが苦笑いをして応える。
ちょうどその時だった。
ギルドの扉が乱暴に開け放たれた。若い職員が血相を変えて走り込んできた。
室内にいた冒険者たちはいっせいに静かになり、事の推移を見守る。
「失礼します!」
ケラウスと話していた受付嬢の前に職員が立つ。
「緊急依頼ですね。場所は――南東のクラベ村跡、ウォール・マナタイトの再起動の失敗」
「……なんだと」
その言葉を聞いた時、ケラウスの顔色が変わった。
職員の言葉を遮ると、乱暴に話を区切る。
「すまない、その依頼、俺に任せてくれないか?」
言葉は固く、提案の形をとりながらも、どこか有無を言わさない迫力があった。
職員と受付嬢はその迫力に、肯定する事しか出来なかった。
「え、ええ。ケラウスさんに請けていただけるのなら安心ですが」
ケラウスはライカとユートに振りかえると、矢継ぎ早に指示をする。
「ライカ、すぐに戻って準備だ。ユートは……」
ケラウスはユートの顔を見た。真剣な瞳で、ケラウスを見ている。
「その顔なら、任せてもいいな」
ユート、そしてライカは無言で頷いた。
「すまない、一緒に来てくれ」
深々と頭を下げるケラウス。ユートは戸惑いながらも、その必死な様に何も言うことが出来なかった。




