12-6
時間は瞬く間に通り過ぎていく。
座学を終え、簡単な実践。昼休憩の後に反復。
窓から西日が差し込んだ、ようやくユートは時間を意識した。
慌ててタブレットを確認すると、コロニーに戻ると連絡していた時間が近かった。
慌てて帰り支度をして、水晶の部屋に続く扉の前に立つ。
「今日はありがとうございました」
振り返り、軽く手を振る。ライカがにこやかな顔で手を振り返してくれた。
「明日は確か来れないんだったな」
「うん。明日はエドンに行く必要があるから、こっちには来れないよ」
ライカが少しだけしょんぼりして顔をしていた。
「おう、ムラマサのダンナによろしくな」
「わかった、元気にしてるって言っとくよ」
ドアのノブに手をかけて、開こうとした。
「あ、それと」
ふと、一つ思いついて振り返る。
「ヒカリゴケを貰っていいかな」
問われた二人は僅かに疑問を覚えつつも、すぐに了承してくれた。
◆◆◆
扉を開くと水晶の部屋。木の扉を閉めると、外の世界からの音は消える。
すぐに扉を開ければコロニーの地上拠点に戻れる。だが、ふと、ユートは一歩部屋の中に歩を進める。
靴が石を叩き、硬い音が広がっていく。それも一瞬で、水晶の壁に吸い込まれていく。
(当たり前のように使っているけど、本当に便利だよな)
電動ローバーであれば一時間はかかる距離を一瞬で飛ばしてしまう。距離と空間と言う逃れられないルールを無視する力を考え、ユートはどこか壁を感じた。それも、今の自分たちでは絶対に越えられないと思わせる高い壁。
(考えても仕方ない、使えるうちは使わせてもらおう)
余計な考えを振りほどくと、踵を返す。
扉を開くと、コロニーの地上拠点が見えた。
◆◆◆
地上拠点に帰って来たユートを迎えたのは、シーナの声だった。
『お疲れ様です。さっそくで申し訳ありませんが、作業状況の確認をお願いします』
ユートは軽く返事をすると、すぐに指定された建物へと移動する。
地上拠点の加工工場。扉を開けると、ベルトコンベアが動く音が聞こえてくる。
『昨日から作業を行っていた、エドンの金属製品の修理はほぼ完了しています』
「ああ、それの検品だな」
作業用の手袋をはめて、タブレットを取り出す。
エントランスから廊下を歩き、加工場へと入ると、ちょうどベルトコンベアが止まった。
同時に、作業用のロボットが止まり、アームが古びた釜を、『修理完了』と表示されたエリアに移動する。
オートマトンがそれを受け取ると、軟質の素材で出来たエリアに丁寧に並べていた。
一連の作業をしていた監督――赤いコマンドは、ユートの姿を見つけると、マニピュレーターを大きく振って走ってくる。
その隣に黄色い球体のエールも居る。
「おかえりなさい、マスター」
「うん、ただいま」
「アニキ、どうだよ見てくれ! この完璧なコーティング!」
アッカが自慢げに指さす先には、新品同様に修理された鍋があった。
それだけではない、並ぶ鉄瓶や杖、数々の金属製品は新品同様に磨かれている。
「こいつを見てくれ、デッカイ穴が開いていたって言うのに、完璧にふさいじまったぜ!!」
一つ一つ誇らしげに仕事を誇るアッカ。それを確認していくユート。
ユートは問題がないことを確認すると、タブレットに表示されたリストに一つ一つチェックを付けていく。
「マスター、承認をお願いします」
「了解」
そして、最後の確認を終わるとタブレットをしまった。
「へへ、工場のみんなも久しぶりに大規模な作業が出来て、張り切ってたぜ」
「確かに、なんかみんな誇らしげに立っている」
作業をしていたオートマトン。それにロボットたちの姿。作業で僅かに消耗した姿が、何故か逞しく感じられた。
◆◆◆
暫くのち、オートマトンが再稼働をすると、製品の梱包作業を開始する。
「それじゃあ、行ってくるぜアニキ!」
「ああ、頼んだよ!」
「もちろんだ!」
頼もしい赤いボディを見送ると、ユートは再びタブレットを起動する。
起動したタブレットには仕様書が表示されている。
エクステンションマッスル用の武装――ガトリングガンと。
「うん。それとエール、例の開発はどうなってる?」
「問題ありません。ソフトウェアの更新も滞りなく完了するでしょう」
エールは淡々と答える。
「そりゃ頼もしい限りだ」
「当然です。ワタシは戦闘用の調整を受けていますから」
「ああ、アッカ達はコロニー保守用のOSから疑似人格を組み上げてるから、この手の兵器の調整は出来ないからな。
変な話だけど、お前を拾えたおかげで助かった」
エールは何も言わないが、僅かにカメラアイが明滅する。
ユートはタブレットをしまうと、部屋を出た。
◆◆◆
ユートは地上拠点の管制室に入る。
ポーチから小瓶を取り出すと、シーナを呼び出した。
「シーナ、これを見てもらえる?」
カメラが駆動する音が聞こえると、モニターに小瓶とその中身が映る。
中に入っているのはうっすらとひかる苔。ケラウスたちから貰ってきた、ヒカリゴケだ。
『苔、ですか? 地球圏では見たことがない種類のようですが』
「これはヒカリゴケって言って――
ユートはケラウスから聞いた説明を改めてシーナにする。
この苔が、魔力に反応して変化すると言うことを――
『なるほど、興味深い性質を持っていますね』
「一つ考えがあるんだ。このマナに反応する性質を利用して、計測器を作れないかな。溶媒の膨張で測定する、シンプルな構造の温度計みたいに」
『センサーを作ろうと言うのですね』
シーナは僅かに計算をすると、すぐに返事をした。
『やってみましょう。観測できるなら定量的なデータを測れることに越したことはありません』
「よし、これでまた一つ分からないことが減った」
ユートは大きくガッツポーズを取ると、ちょうど腹の虫が鳴いた。
思わず苦笑いをすると、シーナがいつものように『クソデカ溜息』とからかった。




