表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/142

9-6


 停止信号を打ち込まれたラビット・ファントームは、力を失い、大気圏へと落下を始めた。

 作戦の目的が敵対する無人機の破壊であるのならば、そこで終わっていた。


 だが、ユートたちは違った―― 


「そんな勝手なこと、させるかよ!」


 ユートはすぐさまファルコンを反転させると、落下していたラビット・ファントームの腕をつかむ。

 同時に、リキッドメタルブレードを展開して無理やり接合する。


 腕に急激な負荷がかかる。ラビット・ファントームの巨体を支える腕に痛みがはしる。だが、ユートは気にせずにコントローラーを握りしめる。


「ファルコン、出力全開!」


 背部のスラスターが推進剤を放ち、上昇しようとする。


(くそ……戦闘の影響でパワーダウンしている)


 だが、戦闘時の激しい挙動の消耗で、思ったようにパワーが出ない。

 コンソールには接続を解除しろと警告が出るが、ユートは無視して機体の出力を上げる。


 その全てが、ラビット・ファントームには理解出来なかった。

 停止しかけていた人工知能に疑問が浮かび上がる。それの答は出ない。


『理解不能――なぜ本機を救助しようとするのか』


 だから、問いかけた。


 ファルコンのコックピットに機械音声が流れる。コロニーの言葉。機械特有の整い過ぎた言葉が聞こえてくる。


「嫌だからだよ!」


 ユートは当然のように告げた。


「俺が居なくなったあと、シーナやアッカが勝手に『終わり』だと判断して自分の機能を停止するのが嫌だからだよ!」


 ラビット・ファントームの人工知能はその応答に理解が出来なかった。

 人工知能は所詮人間に造られた存在。それの存続のために全力を作るの、かと。


『理解不能――本機は戦闘のために生まれた。戦いを終えろと言われるのは、存在の放棄を意味する』

『そこのポンコツAI、ユートの言葉を最後まで聞きなさい』


 ピシャリと割り込んでくるシーナに、ユートは思わず吹き出してしまう。


『まったく……』


 ユートはヘルメットを外す。深く息を吸い込むと、今度は落ち着いて言葉を繋げる。


「AIに決断することは出来ない。埋め込まれた情報を集積し、あくまで決断は人間が行う。そんなのは何度も聞いて来た」


 コロニーが落ちた時。いや、コロニーが閉鎖された時から、ユートは常に決断を迫られて来た。無事な人間は彼だけで、AIは彼を補助する。


「だけど……それでも!」


 その中でも、ユートはシーナたちに助けられてきた。

 逃げ出したくなるような重責を、一緒に背負って歩いてきてくれた存在があった。


「言葉を交わした存在が、自分が死んだ後も元気であってほしい。自分が終わったとしても、みんなが笑っていて欲しい!」


 だから――それが異端の考えだとしても。

 彼にとって、大切な存在なのだから。


『まったく……ちゃんと言えたじゃないですか』

『へへっ、それを聞いちゃオレッチたちも気張らないとな』

『うん……ファイターで下から押し上げよう!』


 ファルコンのファイターユニットが飛翔してくる。

 下から持ち上げる力が加わり、機体から伝わる痛みが和らいでいく。 


『……生きて、いいのか……』


 誰かの言葉が聞こえた。


『使命を失ったとしても』


 ユートは肯定はしない。

 ただ、自分の考えを『提案』する。


「俺だって……いきなり異世界に放り出されて、何をしていいかも分からない。『強化人間として生み出された』自分の意義だって、この世界じゃまったく意味がない……それでもっ!」


 この大地に降りた日からの事を思い出す。


「それでも、知らない景色を見るのは楽しかった。知らない知識を得るのが楽しかった――」


 たくさんのことがあった。


「ライカの笑顔を見るのが、楽しみだったんだっ!!」


 たくさんの人がいた。


「だから――止まれって言ったくらいで死んでほしくないんだぁぁぁぁぁっ!」


 咆哮。同時にファルコンが意思に応えるかのように震える。

 光が満ちた――


 視界が白く染まっていく――


 その中で――

 

「やあ、待っていたよ、ユート」


 エインシアの姿が見えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ