幕間 8-3.5
ワンドガルドに夜が訪れる。
東の果てのコロニー地上拠点、機械たちも活動を停止した中、ケラウスは道を歩いていた。
ユートは既に休んでいる。作戦開始は明日の朝、十分に休養をとる必要がある。
僅かな機械の稼働音以外は、ケラウスの足音だけが夜に溶けていく。
『帰還?』
不意に、シーナからの声が聞こえて来た。
AIは、たどたどしい言葉でケラウスを呼び止めた。
「ああ、明日の朝も早いからな」
もう、ケラウスの家に続く水晶の部屋の扉は見えている。
『ケラウス 感謝 作戦 協力』
「よしてくれ、世話になってるのはこっちの方なんだ」
ケラウスは頭を下げる。その場所に私は居ない、と伝えようとしたが、それは無粋だとシーナは何も言わなかった。
「一つだけ、いいか?」
『はい」
「なんだか浮かない様子だな」
シーナは沈黙する。
夜風が吹き、草が飛んでいく。
『何 根拠 判断』
「準備の最中だ。時々中止に誘導するようなことをユートに伝えていたからな」
作戦の準備のために、走り回っている時のことだった。
――数値は万全ですか?
――ファルコンの状態は?
と、何度もユートに確認を求めていた。その度にユートは対応していたが、思わず『こんなに細かかったかな』と愚痴を言うくらいだった。
『……私 本当 思う 試験 必要。知っている 時間 許さない』
シーナは、やはり作戦に対して警戒していた。
それも無理もない。確実に成功する実証がないのだ。それをただ一人生き残ったユートに行わせるのは、状況としては可能な限り避けたい。
それでも、AIは蓄積されたデータから『ユートがやるしかない』と理解している。
『あなた 不本意 知っている』
「身内が大切なのは、お互い様だ」
身内――AIに対して不合理な答えかもしれないが、彼女は否定しなかった。
『……私は人に造られた存在です。人の行動に『提案』をすることは出来ても、人の行動を『指示』することは出来ません』
その言葉は、コロニーの言葉だった。
ケラウスは何も言わない。聞いてはいけないし、ただ、悔しさだけは伝わっていたから。
だから、ケラウスは肩をすくませると、苦笑いをする。
「大丈夫だ、これでもそこそこ名の知れた魔法使いだからな」
男は杖を握ると、精一杯の笑顔≪つよがり≫を顔に張り付ける。
「善良な少年を死なせたとあっちゃ、杖を折るしかないんだよ」
『ことば 持つ 確かな 自信』
「伊達に長く生きていないからな
『信じる』




