22-10
機械龍の首が落ちる――それと同時に、腕が振るわれる。
ユートはとっさにファルコンの右腕のビーム・ランスで受け止める。衝撃がコックピットにまで伝わり、ダメージのフィードバックは確かな痛みとしてユートの腕に伝わる。
生物にとって致命的な一撃であっても、機械にとっては機能の一部が欠けただけでしかなかった。
首を失った龍は腕を振り抜く。巨体を前にエクステンションマッスルは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
「くそっ」
コックピット内の悪態は相手には聞こえない。失態から漏れた言葉は聞こえない。そうだと言うのに、顔のない龍は余裕の顔で見下ろしているようだった。
『首を獲られた程度で機械が止まるとでも?』
「そりゃそうか! 自分でやったか? なんて疑問に思ってちゃ仕留められた訳ないな!」
ユートは即座にダメージチェックを行う。右腕左腕をはじめ機体各部に問題が無いことを確認すると再びスラスターを噴かす。
再びファルコンが浮上すると、羽の攻撃デバイスがファルコンに襲い掛かる。
ユートは即座にランスを振り抜いて、一つ一つを叩き落としていく。
(どうする……こんな木端の攻撃や、四肢を斬り落としたところで致命打にはならない)
ユートはコンソールに表示された武装の状態を確認する。
――ビーム・カノン、最大出力モードでの使用可――
その文言を見て、険しい顔になる。
ビーム・カノンによる胴体の攻撃。それがタエナリウムへのもっとも有効な攻撃になるだろう。
そして、その使用を決断しなければならない状況が迫っていることも理解していた。
シーナはまだそれを口にはしていない。だが、サブモニターにはそれとなく作戦継続可能時間について表示している。
(やるしかないのか)
知らず知らずのうちに、手のひらに汗がにじんでいた。
コックピットでの葛藤は、機動にも表れる。
一瞬の集中を乱した時、目の前に龍の脚が迫る。回避しきれない――
『マスター、グリップを掴んでください!』
――その筈だった。
突如入った通信と共に、マガハラの中枢にロケット砲の弾が飛び込んでくる。
その一撃はタエナリウムに直撃。僅かにズレる。
その隙さえあれば、集中を取り戻したユートは攻撃を回避することが出来た。
攻撃の主――ファイターユニットが飛び込んでくる。
「エール!?」
エールが操るファルコンのファイターユニットであった。
ユートは機体に装備されているグリップを掴む。それを確認すると、ファイターユニットはユートのエクステンションマッスルを乗せて反転。入ってきた亀裂から外へと一時離脱する。
外壁の隙間を飛翔し、距離を取る。
『グリップから予備エネルギーを充填開始』
「ありがとう、こっちでも確認した」
ファイターユニットには給電機能もある。激戦で目減りしていたエネルギーが即座に供給されていく。
『このままマガハラを離脱します』
その言葉に、すぐにユートは待ったをかけた。
「待ってくれエール、タエナリウムがまだ居る」
『分かっています。それでも味方と連携できる外に出ましょう』
「違う。人質が居る。それを抱えられたまま中枢に居座られるのなら、また戻ることに――」
『追って来てますよ?』
その言葉に、ユートは耳を疑った。
「え?」
思わず気の抜けた声を漏らしてしまう。
『映像を見せます』
即座にサブモニターが更新される。ファイターユニットの背部にあるカメラは、確かに追いかけてくるタエナリウムをうつしていた。
「……本当だ……え、なんで? シーナ分かる?」
『私に聞かれても困ります。あの不良品AIと私とで思考パターンに大きな隔たりがあるのは今までの接触で嫌と言う程理解したはずでは?』
あんまりにも辛辣な言葉に、ユートは思わず苦笑いをしている。
「いやそりゃそうだけどさ」
『ちなみに、本機に聞いても返答が出来かねます』
エールもそう言う。AIであってもAIの考えは分からないようであった。
そして、それはユートも同じである。
ユートはどうにも腑に落ちなかった。
タエナリウムの目的が地球への巨大構造物の落下であるなら、マガハラを破壊させるわけにはいかない。
そのために人質をとって脅しもした。
遠距離からの大火力の攻撃をすれば、人質も巻き込まれる。中枢に居座られたまま盾にされたら、手を出しにくい。
相手の行動を制限する一手――それを、自ら放棄した――おおよそ合理的ではない行動に、ユートは困惑する。
「わかった。それなら念のため監視を。止まるようならすぐに言って」
『了解しました』
ユートは暫し考え込む。
(地球にマガハラを落とすなら、自分と人質を盾にして居座ればいいのに……なんでだ)
そう考えている間も、タエナリウムは追いかけることを止めない。
(こちらの火力で外から分解されるのを恐れているのか?)
確かに、外から少しずつ解体すると言う手段もある。だが、それでは時間がかかり過ぎる。
やはり、ユートには納得できる答ではなかった。




