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増幅魔法。それはその名の通り魔法の威力を増幅させる魔法である。この世界の魔法には基本的に5つの属性の魔法が存在する。5属性の魔法には関係というものがあり、その関係を考えた上で魔法を使う必要がある。強弱の関係でいえば、火は金に、金は木に、木は土に、土は水に、水は火に強い。また増幅の関係でいえば、火は土を、土は金を、金は水を、水は木を、木は火を増幅させる。この増幅の関係を利用し魔法を発動させれば普通よりもより強い魔法を扱うことができる。同じ魔法を同時に発動させることは協力魔法を用いなければできないが、複数の魔法をそれぞれ掛け合わせて行う増幅魔法は協力魔法を使わなくとも行うことができる。増幅魔法の条件は、同等の魔力量の魔法を増幅関係にある魔法に使用することである。ただし、魔法の威力が上がるとするとそれなりにリスクがあり、失敗すれば増幅された魔力が使用者へと襲い掛かる。
「増幅魔法なんて危険すぎる!失敗したらどうする!」
「いや、幸い僕たちの魔法の実力は同程度。失敗よりも成功する確率の方が高いよ」
「確かにそれならば1人で突っ込むよりは確率は上がるでしょうね」
「彼の魔力をそれなりに削っていただければ私が動きを抑えましょう」
「もし怪我をしたら私が回復を行うよ!」
「…くそっ。確かにそれ以外の方法も浮かびはしねえ」
みんなの意見が一致したところでソルは作戦を伝えた。
「では、私が直接攻撃を担当。カウザは増幅魔法をかけ、ウォルフさんはそれを支援してください。サジェスとレーブはアマンダさんとヒカリが即座に動けるように守りつつ、こちらの動きに合わせてください」
「いえ、それでは王へは届かないでしょう。先ほどの攻撃からするに相手も自身に増幅魔法をかけることができそうです。1つだけの増幅では厳しい…私に1つ提案が」
ウォルフはその方法をみんなへと伝える。
「分かった。それでいこう」
「ソル様!それではソル様の負担が大きすぎます!」
その作戦にカウザは慌てて異を示した。増幅魔法は受けた側が放った側の魔力量に合わせて魔力を使う必要がある。元の魔力量より強い魔力だった場合、その魔法が発動しないだけとなるが、もしそれよりも弱い魔力量しかなかった場合その魔力は受けた側へと全て流れる。下手をすれば大けがではすまない可能性だってある。
「だが今回一番可能性があるのがこの組合せなんだよカウザ。みんなの魔法では赤の神との相性が悪い。それに、今後一国を背負うものとしてこの場で前に出られなければ、どちらにせよ私は生きてはいられない。何より私自身が許さない」
「ソル様…わかりました。あなたの意思に従います」
「ありがとう」
「お話し合いは終わったかな?そろそろ私の相手もしてくれると退屈がなくてよいのだけれど」
レーブからつけられた石の鎖をとっくに外していたヘリオスは水の防御壁へと向かって剣を振り下ろした。
『パシャッ』
「おっと!」
水の防護壁が崩れると同時にウォルフは前へと飛び出した。ヘリオスの体へと向かって鉤爪を振り下ろす。だがそれに気づいたヘリオスは身を翻しその爪を避ける。
「やはり動物だと正面からくるしか能がないのかな?」
ヘリオスはウォルフへと向かい剣を振り下ろす。ウォルフは飛んでくる石を避けながら部屋の中を駆け回る。本棚の中にある本や、先ほどのヘリオスの魔法で砕けた家具の木片などが至る所で舞い上がる。
「ウォルフっ!」
「くっ…」
ヘリオスは縦に振っていた剣を横へと払った。ウォルフの足に大粒の石が当たってしまう。だがウォルフは足から血が出ようとそのまま走り回った。
「ちょこまかと鬱陶しい」
ヘリオスは違和感を覚えていた。先ほどの攻撃からウォルフの動きは鈍っている。石の礫もいくらか当たりやすくなっている。だが、ウォルフへと刃を当てようとすればするりと逃げられ、刃は空をきってしまう。必要以上にウォルフがこちらに近づかないようにしているのもあるのだろうが、それにしてもここまで当たらないものだろうか。
「むっ」
ヘリオスはウォルフの動きを観察している間に周りの状況に気づいた。先ほどまで舞い上がっていた木片の数が減っている。
「一体何を…」
怪我をしながらも走り回っていたウォルフは先ほどから植物を源とする物質を集めていた。それらは全てサジェスの前へと集められていた。
「『わが身に宿る金の意思よ、その身をもって水を生ぜよ』」
レーブの魔法によりサジェスの魔法を増幅。
「『わが身に宿る水の意思よ、その身をもって木を育め』」
レーブの魔法によって増幅されたサジェスの魔法はウォルフが集めた物質を大きく成長させた。
「『わが身に宿る火の意思よ、その身をもって土を生じよ』
サジェスの魔法により成長した植物たちをカウザは一瞬で燃やし尽くす。そこからは多くの灰と土が生まれた。
「『わが身に宿る土の意思よ、その身をもって敵を制せよ』」
ソルが放った魔法により生成された土は一斉にヘリオスへと向かっていった。ヘリオスは何とかその攻撃を防ごうとしたが増幅された魔法はヘリオスを飲み込んだ。




