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「隠れていないで出てきたらどうだ?最初からいることは気配で分かっているんだ」
ヘリオスは部屋の中を見回しながら言った。
「出てこないというのなら、出てきてもらうまで。『我が身に宿る土の意思よ、我が思いに応えよ。散』」
ヘリオスの詠唱に伴って、何もない空間から大小さまざまな岩の塊が現れた。そしてその礫がヘリオスの元へ集まったかと思うと一気に周囲へと飛び散った。
「っ!」
『木壁』
飛び散った塊たちは壮絶な音を立てながら、ガラスや花瓶を粉々に割り、美しい装飾の施された椅子や机を傷つける。ソルは見えない空間から腕を引っ張られ、アマンダの魔法によってつくられた木の防御壁の裏側へと回った。
「ソル様!大丈夫ですか!?」
「けがはないですか?」
フードをとったアマンダたちを見てソルは安堵の息をこぼす。アマンダ達は『隠れ蓑ローブ』を着用していたため姿が見えなかった。いるとは分かっていても見ることも感じることもできなかったので驚いたのだ。
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえ、こちらこそ王にあのブローチを渡してくださって助かりました。おかげで確信が持てましたから」
ソルにブローチを預けたのはアマンダであった。師匠の言葉を疑うつもりはないが、国の王を疑うためにはそれなりの確証が必要であった。もし何もなかった場合、アマンダ達は王に、ひいては国に歯向かった反逆者として捕らえられる可能性もあるからだ。そうなれば黒の魔女たちの立場はもっと辛いものになるであろう。
「それにしてもなぜ王はあなたたちの存在が分かったのでしょうか。来ていると分かっていた私でさえどこにいるかわからなかったのに」
「赤の神は太陽の神の暴発から生まれた存在です。だからそれを抑える月の神の力に近い存在…つまり白の魔術師や黒の魔女の存在に敏感だそうです。師匠の資料にはそう記してありました」
「あなたの師匠とは本当に…」
『ボワッ』
「…っ!」
その時、アマンダが作った防御壁が燃え上がった。その燃え上がった防御壁のすぐ近く、気づけば目の前にヘリオスが立っていた。
「私の魔法を防ぐとは…ソル、お前は本当に優秀な友人を持ったものだな。だが少々おいたが過ぎるようだ」
ヘリオスは身体強化魔法を使い自身の能力を上げていた。素早い動きでアマンダへと近づきその腕を掴もうとする。だがその腕をウォルフがはじき返す。そしてそのままヘリオスへと蹴りを入れる。
「…っ!これはこれは…面白いモノがいる」
ヘリオスはウォルフの蹴りを間一髪のところでかわし後退した。まじまじとウォルフの様子をみてにんまりと笑う。その視線を遮るようにカウザ、サジェス、レーブがソルと共に前へと立った。
「王ヘリオスよ、あなたが人を滅ぼそうとしている赤の神だという以上、私たちはあなたを野放しにはしておけません。その体から出ていってもらいます!」
「やれるものならやってみよ。そう簡単には出ていかないがな」
ヘリオスは腰に構えていた剣を取り出した。鞘から出てきたその刀身には土属性魔法の付与がかかっており、鋭利な石の礫がその剣へまとわりつくようにして浮いていた。ヘリオスがその剣を軽く振り下ろすと複数の石の礫がその動きと同時にヘリオスの剣から離れこちらへと向かってきた。
魔法使いたちの戦闘では例外を除き剣や弓、銃などの武器に付与魔法をつけて戦うことが多い。詠唱を行い、攻撃魔法を放つこともできるが、それは魔法使いの中でも魔力量の多い人間か、もしくは魔力操作の優れた魔法使いが行うことである。魔力量が普通の魔法使いであれば1日のうちに使用できる攻撃魔法は2つか3つが限界であろう。魔力量を使い果たした魔法使いたちは死ぬことはないが、吐き気や頭痛、めまいなどの魔力欠乏という強い副作用が訪れる。また、魔力欠乏がひどいときには気を失ってしまうこともある。なので魔法使いであっても魔法だけではなく武術の鍛錬を積むことが必要となっている。
「っ!あの剣は危険だ!振り下ろすだけでも鋭い石ころが飛んできやがる!」
カウザは飛んできた石の礫を炎燃え盛る剣で弾き飛ばすが、防ぎきれなかったものが皮膚をかすめ頬の横に薄く血が滴った。石の礫は殺傷能力こそ低いが、手数が多く距離を取るほど防ぎきることは難しくなる。かといって近づけばその刃自体の餌食になる。ヘリオスはシュトルツほどの剣の腕ではないにしろ、国の王としてある程度の実力はある。
「カウザ!1人で突っ込もうとしないでください!協力するんです!」
「『わが身に宿る金の意思よ。彼の動きを止めよ。縛』」
レーブの詠唱と共に現れた石の鎖がヘリオスへとへばりつく。その重さでヘリオスの動きは鈍くなった。その間にサジェスはヘリオスと自分の間に大きな水の防御壁を張りみんなを収集した。
「赤の神の実力はともかく、王はそう簡単に倒せるような相手ではありません。単体で突っ込んでも意味がない。となれば、ここは増幅魔法を使うしかありません」




