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王都の商店街からは今日も大きくにぎわう声が聞こえる。その中で黒いローブを着た集団が歩いていた。黒いローブの人間たちは異様な雰囲気を醸し出しているにも関わらず、誰からも気づかれることがない。

「らっしゃいらっしゃい!いい野菜売ってるよ!おひとつどうだい?」

「新鮮なお肉もいっぱい入ってるよー!」

「それよりもこのブレスレットはどうだい?意中の人と距離が近くなるおまじないがかかってるよー!」

「まじ…?」

「あんなのはただの心理効果です。買った人がブレスレットの効果に安心することで積極的になれるだけです。簡単に信じないでくださいカウザ。あなたは小さい子どもですか」

「そ、そんなことわかってるつーの!」

「しーっ!そんなに大きい声出すと人に気づかれちゃうよ?」

「大丈夫ですよ。このローブは以前よりも探知されにくいように改良いたしましたので、簡単なことでは気づかれません」

「さすがです!アマンダさん!」

「そんなに近づく必要はないでしょうレーブさん。それよりもこの道を抜ければもうすぐなのではないですか?」

「そうですね。もうそろそろ見えてくるはずです」

大勢の人がいる中で集団はわちゃわちゃと騒いでいるが誰かにぶつかることもない。人に気づかれず、人にぶつからず、一行は大きな広場へと出た。

「見えましたね」

そこから見えるのは、大きく壮大な建物。この王国を統べる王が住んでおり、この王国の全ての物事が決議される王城だ。アマンダ達は王城へと向かっていた。目的は最後の赤の神に会い、その存在を確かめること。そして赤の神を封印すること。

「ママー!」

その集団の横を1人の男の子が走って通りすぎた。男の子は当たり前のように彼らには気づかない。

「えっ?タトゥー?」

ヒカリはその男の子が母親とつないでいる手を見て驚いた。その手の甲には墨のようなもので何かが描かれていたからだ。それはこの世界に来る前に見たことがあるものにそっくりだった。

「タトゥー?」

「ああ、えっと…あの子どもの手に書かれているものなんだけど…」

「ああ、あれは黄の神の文様だったと言われているものを『隠れ魔イカ』からとれる『魔墨』で描いたものですよ」

『隠れ魔イカ』とは海に住んでいる魔法生物のことだ。その身体は海の光に透過して見えないが、その『隠れ魔イカ』が作り出す『魔墨』が特殊な魔力を持っており、その墨が入った墨袋だけは隠すことができないためすぐに見つかってしまうという何とも可哀想な生物だ。その『魔墨』はある条件以外では消すことができないため、何かと重宝される。

「男の子なら黄の神の文様を、女の子なら白の神の文様を小さな頃に描いてもらうんです。そうすると、男の子は黄の神のように強く、女の子は白の神のように美しく育つと言われています」

「まあ、真実の神話を知った今ではそれも迷信だったってことだけどな」

「そんなの旅芸人が場を盛り上げるために始めた1つのパフォーマンスに決まってるじゃないですか。神話自体は昔から語り継がれていましたが、この風習が始まったのはここ最近ですよ」

「なっ!そうなのか!」

カウザは愕然とした。カウザも小さな頃に母親にねだってあの文様を描いてもらう列に並んだことがあったのだ。

『これでカウザも強い男の子ね』

母親のその言葉にカウザは誇らしげに思ったことを今でも覚えている。消えてしまった時は、大人に近づいたと分かると同時に少し悲しい気持ちになった。

「ウォルフ、あれは…とても不思議な墨だよ。5大属性のどれにも属さない…禁忌魔法に近い存在だ」

この世界の魔法には水、火、木、金、土属性の魔法と身体強化魔法、それから回復魔法が存在すると言われる。だが本当はもう1つそのどれにも該当しない魔法が存在する。それは精神を操る魔法だ。精神操作の魔法は昔は拷問などの際に使用されていたが、あまりにも非人道的で倫理に反するとして人への使用が禁止された禁忌魔法だ。現在はその魔法の存在自体が固く封印されているため、魔法に精通するものを除き知らない人が多い。その墨からは若干精神操作の魔法の気配が感じられた。あまり外へと出たことのないアマンダはその墨の存在を知らなかった。こんな街中で流行っているとは驚きだ。

「大丈夫ですよ、アマンダ様。あの墨が人の精神に影響を及ぼすことはありません」

『魔墨』の消失条件、それは感情である。人間の欲望や、強い感情に対して反応し、『魔墨』は消えてしまう。それはきっと人から捕食される『隠れ魔イカ』の防衛本能と関係があるのではないかと生物学者は言っていた。なので皮膚をこすったり、水で流したりしても消えない『魔墨』は、大人に近づくといつのまにか消えてしまうというように人々にいわれている。

「そう、それならよかったんだけど」

アマンダは若干の違和感を感じたが、それ以上分かることもなかったので一旦それについて考えることは辞めた。

「よし。ここからは気を引き締めていかないと。皆さん、準備はいいですか。作戦通りに行きましょう」

一行は大きな広場を抜け、王城の門の前へと立った。

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