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「その後、私たちは森の中で師匠に拾われ、私から話を聞いた師匠は赤の神の存在に気付いた…以上が十数年前にこの世界に起こったことです」

ウォルフが話し終わると場は静まった。

「…なぜ今まで気づかなかったんだろう…確かに前騎士団長の行方を誰も知らない。この国の第3王子だったにも関わらず」

ソルは自分の叔父がまさかそんなことに巻き込まれているとは思わなかった。体は大きく相手に威圧的な印象を抱かせる叔父だったが、その物腰は柔らかくどこまでも器の大きい誠実な男だった。

「魔女が魔法を使えない時があるなんて…それにあなたが狼になってしまうということも。だから最初に私たちに名前を書かせたのですね」

「そうです。我々のことでもありますが、魔女という存在に関わることでもありましたから」

「何にせよ辛い話をすまなかった。話してくれてありがとう。そして生き延びてくれてありがとう」

ソルは叔父とその伴侶の死に悲しみ、従妹の無事を喜んだ。


「でも、なぜウォルフさんや師匠はそのことを覚えていたんですか?」

「カルラ様のかけた魔法はきっとおまじない程度のものなのだろうと師匠は言っていました。完全に忘れるのではなく、記憶が思い出しにくくなるのではないかと」

「なるほど」

「もしやつが本当に赤の神で、アマンダ様を狙ってくるとすれば、次の新月の夜。おそらくあと半月もないくらいでしょう」

「その前に狙われる可能性は?」

「その前であれば、この魔法屋に施された私と師匠の魔法が彼を襲います」

アマンダの言葉に一同はピシりと固まった。

「大丈夫です。私たちに明確な敵意と攻撃が加えられたときしか発動は致しませんので」

カウザはこの魔女を直接狙わなくてよかったと心の中で安堵した。

「そういえばウォルフさんは新月の夜に狼になるのですよね?それは魔法でなるのですか?」

ヒカリは自分の世界での朧な記憶を引っ張り出した。ヒカリの知っている狼男というものは月の光を浴びることで狼化をしているのだったけれど、ウォルフの場合はどうなのだろうか。

「もしかして、ウォルフさんは銀狼の末裔なのではないかな?」

ソルは幼いころに見た神話の続きに書いてあった話を思い出した。

「銀狼とは先ほどの神話の中で黄の神とともに赤の神に立ち向かったとされる狼だよ。その狼は黄の神の魔法によって普通の狼よりも力を発揮していたとされる。…ただ、この話は国民には知られていない話だ。銀狼は身体強化魔法を使える珍しい狼として数十年前に話題となり、そして魔力を持たない人も魔法を使えるようになるのではないかと…その、気分はあまり良くないかもしれないが、裏で実験も行われていたらしい。十数年前にアドルフ前騎士団長が裏の売人を告発してからその話は聞かなくなったけれどね」

ウォルフはさらわれた時のことを思い出した。もしあの後アドルフたちに会っていなければ、自分の同胞たちは非道な研究に使われていたのかもしれない。そう思うと、ウォルフはアドルフたちにやはり頭が上がらない思いだった。

そしてその後も一同は話し合い、新月の夜に備えた。

「確かに、シン・アンダーウッドは片耳に赤いピアスをしている。だがそれがその時のピアスであるかどうか…」

「ただの杞憂であればそれでよいのですが」

話し合いを行いながら、この憶測が当たらなければよいと誰もが考えるのだった。


「アマンダ様、大丈夫ですか」

その日の夜。アマンダとウォルフはベランダから空を眺めていた。月は満月から少し欠け、姿を隠し始めている。

「大丈夫。2人の死を知ったのはずっと前だったから」

アマンダが両親の死を知ったのは師匠がまだこの家にいた頃だ。普段は師匠と共に地下室を使って魔法具開発を行っていたアマンダだったが、1度だけ、師匠に黙って地下室を使ったことがあった。そして師匠の資料の中に埋もれていた1つの記憶を覗いてしまったのだ。師匠は記憶を覗いたカルラに全てを話してくれた。それをウォルフに伝えたのが約1週間前。

「知ったのがいつだったかなど、心の辛さには関係ありません。今まで気づかず、申し訳ございませんでした」

「そんなの!私が隠してたから…」

「だとしても私は気づけたはずです。ずっと一緒にいたのですから」

ウォルフは自分を責めていた。彼女がこの事実を知ったらどんな風に感じるかは分かっていたはずだ。いつかは知らなければならなかったことかもしれない。だが、その時はそんなに早い時期ではなくても良かったはずだ。

「うん、そうだね。ウォルフは私とずっと一緒にいてくれた。ウォルフが一緒にいてくれたからこそ、私はこの辛さにも耐えられた。ウォルフがいなかったら私はもうとっくに、2人の後を追っていたかもしれない。だからウォルフにはこれでも感謝しているんだよ」

「アマンダ様…」

アマンダは師匠から話を聞き、本当に自分が生きていてもいいのかと考えてしまうこともあった。だが、そんな落ち込んだときにはウォルフの存在がいつもアマンダを支えてくれていた。

「だからそんなに落ち込まないで。私は大丈夫。だってこれからもウォルフが一緒にいてくれるんでしょ」

「…そうですね。私がこの世にいるうちは、絶対にあなたの側を離れようなんて思いません。あなたが嫌と言ってもずっと近くにいますからね」

「…ふふ。それはちょっと困るかもしれない」

アマンダは困ったように微笑んだが、ウォルフは真剣だった。自分がこと切れるその時まで、アマンダの側にい続けると。


『ふふふっ…。かわいい子供だねえ。こんなに似ているのに…オーラは違うんだねえ』

父アドルフは黄の魔術師。母カルラは黒の魔女。娘アマンダは白の魔術師だった。だが、師匠に拾われた時にはアマンダは母と同じ黒の魔女となっていたと師匠から聞いた。母の願いの中に、アマンダが黒の魔女になることが含まれていたのだろうか。だとしたら、母はどんな思いをもってアマンダを黒の魔女へと変えたのか。真実は闇の中だ。

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