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三章 19.新たなる人型魔物

 赤髪の男は敗れた。俺とクウ、そして多くの魔獣達から授かった膨大な魔力という俺の持つ全戦力を賭して、ギリギリの戦いに勝利する。


「ふぅ、最後にこいつが役に立ったな……」


 俺は左手に持つ魔道兵器、トイブラスターに目を向けながら勝てたことに安堵する。

 勝負の最後俺と奴が拳をぶつけ合っていた際、おそらく赤髪の男は全身全霊をもって対抗してきていたのだろう。

 だが、俺達は違う。こちらはほんの僅かだけ魔力を温存し、それを全てトイブラスターへと流し視覚外から射撃していた。一度見当違いの方向に放った魔弾を空間魔法によって軌道修正し、明らかに隙になっている右脇へと撃ち込んだのだ。


「はあぁー……やっと終わったぁー!」


 ともかくこれでようやく一息つける。安心したからか全身の力がすっと抜けて、途端に受けた傷の痛みが復活してくる。

 どうやら俺のアドレナリンももう切れてしまったらしい。


『クウー(アカリお疲れ様)』

「あぁ、クウもありがとうな。今回はまじで助かったぜ……」

『クアッ!(当然だよ!クウとアカリは一心同体だからね!)』

「だな、俺達は一生の相棒だ!」


 くたくたに疲れている俺に、クウが脳内から労いの言葉をかけてくれる。どんなに劣勢な状況になろうとも、クウと一緒なら乗り越えられると思えてしまえるから不思議だ。

 しかし今回はさすがに助けられっぱなしだったからな。この件が落ち着いたから後でたっぷりとご馳走を用意してやらないと。


「ご主人様、大丈夫?」

「見ての通りボロボロだがどうにかな。そっちも守ってくれて助かったぜ」


 疲労困憊で地面に寝転がっていると、心配してかドロシーが駆け寄ってきた。

 リリフィナや区長達に視線を向けると、あまりにも激しい戦いに巻き込まれた影響か、腰を抜かしたように地面にへたり混んでいる様子である。

 まぁ見たところ怪我は無いようだし無事でよかった。


「あれくらいなら大したことない。やっぱり私も一緒に戦えばよかった……」

「そう言うなって。お前まで戦闘に参加してたら本当に僅かな隙をつかれて後ろの連中はやられてただろうし、ドロシーは十分役割を果たしてくれたよ」


 事実ドロシーが後衛で守りに徹してくれていたからこそ、赤髪の男もあまりそちらを狙う素振りを見せようとはしなかったのだろう。ドロシーの守りの壁は、それだけ厚かったということだ。

 ただそれでも、ドロシー自身は戦いに参加したかったらしく、若干不満げではあるが。


「メルト無事か!」

「これはどういうことだ……!?」


 と、そんな風にドロシーと勝利の余韻に浸っていたのも束の間、突然何者かが現れ赤髪の男に駆け寄って来やがった。

 まさかこのタイミングで増援とは。最悪だ、もう魔力はほとんどすっからかんだというのに。


「まさかあいつらにやられたってのか……?」

「メルト!しっかりしてメルト!」


 増援に現れたのは二人。片方は見るからにパワータイプそうなごっつい見た目の男で、赤髪の男がやられていることに酷く驚いている。

 そしてもう一人は桃色の髪をポニーテールに束ねた女性で、彼女は悲痛な声を上げながら赤髪の男を抱き抱えて必死に呼び掛けていた。


「あいつらも人型の魔物なのか?もしあの赤髪の男と同等の強さを持ってるとしたら、本格的に勝つ術が無いな……」


 正直もう俺は使い物にならないだろうから、現状こちらでまともに戦えるのはドロシーだけとなる。だから敵の強さが未知数である以上、今は下手に動くことが出来ない。

 頼むからこのまま何もせず撤退してくれ。


「貴様らよくもメルトを、絶対許さない!」

「ちっ、どうやら向こうさんはやる気みたいだな」


 あわよくばこのまま赤髪の男を連れて撤退してくれればと思ったが、残念ながらその願いは届かなかった。

 仲間がやられたことにだいぶお怒りのご様子で、敵意を剥き出しに今にも襲い掛かってきそうな雰囲気を醸し出している。

 これは穏便に済ますのは無理そうか。


「ご主人様、今度は私がやるから下がってて」

「いや、俺も最後まで戦うさ。最悪後ろの三人が逃げる時間だけでも稼がないといけないだろうし」

「……分かった、なら一緒に戦ってあげる」

「わがまま言って悪いな」


 ドロシーは今度こそ自分が戦うと息巻いて俺の前に立つ。だが、相手は複数人なのだから一人で戦わせるのはさすがに危険だろう。

 正直俺はもう立つのも限界に等しい状態だが、それでも最後まで足掻いてみせる。それがマリナと約束した、俺がこの世界に来た目的なのだからな。


「さてお前ら、やるんならとっとと掛かって来いよ。相手してやるからさ」


 時間が経てば経つ程、俺は痛みによって動きが鈍くなっていく。だからまだ戦えるうちに少しでも奴らの体力を削る為、挑発して誘ってみることにした。


「この死に損ないが、すぐに息の根を止めて――」

「待て」


 予想通り女性の方は怒りで青筋を立てながら襲いかかって来ようとしてきたが、それはある人物の声によって止められてしまう。

 そう言葉を発したのは、ついさっき俺が倒した筈の赤髪の男だった。確実に意識を失っていた筈なのに、もう復活しやがったか。


「こりゃいよいよやばくなってきたな」

「ご主人様、もうやっていい?」

「いや待て、状況が変わったんだ。少し様子を伺うぞ……」


 増援二人でさえ辛い状況だというのに、奴まで復活してしまったとなると、いよいよ状況は最悪だ。ドロシーは目に炎を滾らせやたらやる気の様だが、俺はここで死ぬかもな。

 ただ赤髪の男が女性の行動を止めたのが少し気掛かりだ。もしかしたら戦わなくて済むかもしれないから、ここは少し様子を見ることにする。


「メルト、どうして止めるの?あの糞ザル早く黙らせないと」

「いや、撤退だ」

「何故だ、状況はこっちの方が有利だぞ」

「俺が気を失った時点でこちらの敗北は必然だ。遠隔の宝技が全部切れた以上、戦い続ければ今度は俺達が追い込まれる……」

「なるほど、そういうことか」


 これから戦うのかと思いきや、どうやら奴らは撤退を選択してくれたらしい。宝技とかよく分からないことを言ってたけど、ともかく助かった。

 ただあの女、俺のことをしれっと糞ザル呼ばわりしやがったな。俺が糞ザルならお前の仲間は生意気ザルだろうが。


「それに収穫なら十分にあった」

「収穫?」

「ああ、恐らくだが……聖獣を見つけた」

「なっ!せ、聖獣だと!?」

「それ本当なの……!?」


 収穫に聖獣か、またよく分からない単語が並んできたな。一体何が収穫だったというのか。

 やはり奴らは、ただの無差別なテロとは違って何かしらの目的を持って今回の騒動を起こした様子だ。ただ、残念ながら現状その目的の部分が不鮮明ではあるが。


「聖獣が見つかったのなら、最早回りくどくこの世界を滅ぼす必要は無い。作戦を立て直すぞ」

「えぇ」

「了解だ!」


 やはり今回の騒動のまま諦めてくれはしないらしい。まぁまた襲ってくるというのなら、何度でも迎え撃つまでだがな。

 その時の為にも、俺達は今以上に強くなっておく必要がある。


「おい、そこの死に損ない!俺の名はメルト・レフコフだ、覚えておけ!」

「お前だって死に損ないだろうが。俺はアカリ・リーシャンだ」

「リーシャンか、近いうちまた会いに来てやる。今日の借りはその時きっちり返させてもらうからな」

「上等だ、返り討ちにしてやるよメルト」


 赤髪の男の名は、メルト・レフコフというらしい。また来るらしいから、その度に返り討ちにしてやろう。

 それに恐らく、人型の魔物である奴らはきっと魔物の正体を探る鍵になる。情報を引き出す為にも、俺達が負ける訳にはいかない。


「ではまた会おう、この世界の人間共」

「なっ!?」


 メルトが別れの言葉を告げると同時に、女性が鏡面になっている桃色の丸い水晶を出現させた。そんなもので何をするのかと思ったら、まさかの奴らはその中に入っていき一瞬で姿を消してしまったのだ。

 奴らが桃色の鏡に入って姿を消すと、用済みとばかりに鏡も粉々に砕け散り、光の粒子となって跡形もなく消えていく。


「……なるほど、道理で奴は空間魔法に詳しい訳だ」

「どういうこと?」

「仲間に空間魔法を使える奴が居たってことだよ。そりゃ知識も豊富になるわな」


 俺が一人納得していると、ドロシーが不思議そうに尋ねてきたのでそう答える。

 仲間内で空間魔法と同系統の技術を使える奴がいるのだから、対策を立てられたとしても不思議では無い。だからこそ、次会う時までにはより一層別の策を用意しておく必要性が出てきた。


「まぁともかく、奴らは撤退したんだから今回は俺達の勝ちだー!」

『クウー!(今度こそお疲れ様アカリー!)』


 ともあれこうして、メルトとの激闘は辛くも俺達の勝利で幕を閉じたのだった。


訂正:守護獣→聖獣

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