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三章 18.全てを賭して

 切り札の正体を見破られてしまった。赤髪の男は実力もさることながら、知識においても中々に秀でている。やはり奴は、この世界において最初に出会った本物の強敵だ。

 しかし、だからといっておれとクウのコンビが負けるなどあるはずが無い。分かったからと言って簡単に攻略出来るほど、クウのワープは簡単ではないのだから。


「くたばりな!」

「馬鹿の一つ覚えみたいに突っ込んで来るか……クウ、返してやれ!」

『クアッ!(分かったよ!)』


 こちらの戦法がカウンター重視だと分かっていながら、赤髪の男は無鉄砲にも突撃してくる。何が狙いかは知らないが、正面からの攻撃など返してしまえばそれで終わりだ。


「馬鹿が、その返しはもう見切ってんだよ!」

「なっ!?」


 再び襲いかかってくる奴の左腕をワープで受け止め返してやろうと思っていたが、それはただのフェイントだった。赤髪の男は途中まで全力で殴る体勢に入っていたが、俺達がワープを出した瞬間その動きをピタリと止める。

 そう、まるで俺達がワープを出すのを待っていたように。


「くたばれ」

「ぐあぁっ!」


 左腕で殴るかに見せかけ、奴は足元から無数の魔石の柱を突き出し俺の足元から強襲を仕掛けてくる。正面にばかり気を取られていた俺はそれに反応するのが遅れ、無慈悲な魔石の剣山が直撃した。


『クウ!?(アカリ大丈夫!?)』

「が、はっ……い、今のはまずい、ダメージが大き過ぎる……!」


 奴はこれまで戦ってきた勇者一族や魔物共とは格が違う。そのことは十分理解していた筈なのに、それでも意識外からの攻撃を許してしまった。

 俺の油断だ。奴が地面から魔石を生やせるのは分かっていたのだから、対策は出来たはず。なのにクウの力に頼りきって、考えることを放棄していた俺の失態だ。


「くはは、ようやくいい一撃がはいったか。お前もよく戦ったがここまでだな。そこで大人しく寝てろ」

「ぐふっ、だ、誰が、寝てるかよ……」


 足元からいくつもの柱に貫かれボロボロの状態だが、それでも負ける訳にはいかない。奴のこの強さから察するに、恐らく魔人のドロシーでも勝てるかは五分五分といったところなんだ。

 区長らを守りながらでは勝てる可能性などほとんど無くなる。つまりは、俺の敗北はこの場での負けを意味していた。

 そんな状況で俺が真っ先に折れる訳にはいかねーだろ。


「まだまだ、やれるぜ……」

「ちっ、そんなボロボロの状態で……何が出来るってんだ!」


 ほとんど力の入らない脚で辛うじて立ち上がる俺に対し、赤髪の男は怒声を上げながら突撃してくる。

 何度も立ち上がるしつこい俺にだいぶ嫌気が刺している様子だ。


「ごめん、皆のくれた魔力、ここで全部使っちまうことになるかもしれねぇ……」


 怒りに身を任せ、左腕を振り上げながら襲いかかる赤髪の男を前に、俺は小さくそう呟いた。

 現状立っているのがやっとで、まともに戦うことすら出来ない身体を無理矢理にでも動かす為、俺はありったけの魔力を使う覚悟を決める。

 この場でマジックストレージに保管してある魔力を全て消費してしまうことになろうとも、負ける訳にはいかないのだから。


「はあぁぁぁぁぁああ!」


 ストレージの魔力を全開放させた俺は、それを全て魔力操作によって身に纏わせ最大限に強化する。

 足や肩の痛みも吹き飛んだ。これで俺はまだ戦える。


「っ!な、何だこの魔力は、一体こいつのどこにこれだの量の魔力が溜め込まれていたんだ!?」

「これは俺と仲間達の絆の力だ。俺達の全てを出し切ってお前を倒す!」


 魔力を爆発的に放出する俺を前に、先程まで勝気でいた赤髪の男も驚きから足を止める。

 今俺は何十万もの魔物達から授かった魔力を全身に纏っているのだから当然の反応だろう。だが、この状態も長く続けられる訳では無い。短期決戦でこのまま場の幕を引かせてもらう。


「もう俺に負けはない。諦めて降参しろ!」

「くっ、なめるなよ……多少魔力量に自信があるからといって、それだけで俺を倒せると思い上がるな!」


 膨大な魔力を集約させた俺の右腕と、もはや胴と同じぐらいまでの大きさに強化された奴の左腕が衝突する。

 その瞬間強烈な衝撃波が周囲を覆い、その影響から俺達の足元はクレーターの様に大きく陥没した。


「確かにお前は強い、だがそれでも……この世界では俺達が最強だ!」

「がはっ、ち、力で押し負けただと……」


 赤髪の男は確かに強い。ここまでの強敵は四百年前でもそうはいなかった。

 だが、それでも最強は俺達だ。仮にも魔王と呼ばれる俺がこんな所で負けるなどあってはならない。俺が屈していいのは、真の勇者を名乗るあの男だけなのだから。


「ぐっ、くそが、近接戦じゃ勝ち目が無いか。だったら、また足元から串刺しにしてやる!」

「クウ、飛ぶぞ!」

『クウー!(うん!)』


 殴り合いじゃ勝てないとすぐに理解した赤髪の男は、即座に俺との距離をとって再び足下から攻撃を仕掛けてくる。

 だが、もうその攻撃は通用しない。なぜならこちらには、偉大なる伝説竜クウから授かりし高貴なる翼があるのだから。

 俺は右肩甲骨から生える三枚の片翼をはためかせ、大空に飛翔することで串刺しの刑から楽々ま逃れた。


「なっ!と、飛びやがっただと!?」

「はっはっは!甘く見過ぎたな赤髪の男よ!もう針山地獄は俺には通用しないぞ!」

「このっ、馬鹿にしやがって……まだ手段ならいくらでもあんだよ!」


 空を飛ぶ俺に驚きを隠せない様子の赤髪の男を煽っていると、怒ったのか魔石の弾丸を無数に飛ばしてきやがった。

 確かにそれなら飛んでいる俺にも当たるだろう。

 しかし、それも無意味だ。


「そんな石ころが効くと思うなよ。クウ、頼むぞ」

『クアァッ!(任せて!)』


 下から放たれる無数の魔石に対しこちらは魔力を全開放させた大量の空間魔法で対抗する。

 ワープで半分の魔石を受け止め残り半分に返すことで、魔石同士をぶつけ合わせ相殺させていく。この繊細な技術は、伝説竜のクウだからこそ出来る唯一無二の神技だ。


「ば、馬鹿な……ただでさえ難易度の高い空間魔法を、あれだけの高水準で使いこなしているだと!?」

『クウ!(このくらい朝飯前だよ!)』


 空間魔法とは最高難度の魔法であり、俺が見てきた限りでは複数人で長時間魔力を貯めてようやく一つのワープホールが生み出せるというレベルのものだ。

 それを一瞬でこれだけの数作り出せるのだから、驚くのも無理はない。魔法に対しての知識がある奴なら誰しもが驚く光景だ。


「ふざけやがって、まさかここまでの魔法使いがまだこの世界に存在したとは……!」

「悪いが俺は魔法使いじゃないぞ。正しくは、魔獣使いだ」

「な、何?魔獣だと……?」


 俺自身は別に魔法が使える訳じゃないので、魔法使いと呼ばれるのは相応しくない。正確に言うなら、昔冒険者をやっていた時に名乗っていた魔獣使いが正解だ。

 まぁそんなことはどうでもいいんだが。ともかくこの魔力全開放の時間もそう長くはもたない。だから早いとこ決着をつけさせてもらおう。


「さて、そろそろ幕引きといくぜ!」

「ふざけるな、お前の様なぽっと出の奴に俺達の長年の計画を邪魔されてなるものか!」


 勝負を決める為上空から高速で滑空する俺に対し、赤髪の男は効果の無い魔石を無駄に放つのをやめて左腕に力を集約しだした。

 腕を何十倍にも巨大化させ、赤き魔石が煌々と力を滾らせる。あれが奴の最大の攻撃か。

 ならばこちらも、魔力を右腕に集中させて迎え撃つのみだ。


「うおぉぉぉお!」

「はああぁぁあ!」


 俺の右腕と奴の左腕が再び衝突したその瞬間、先程とは比べ物にならない程の衝撃波が周囲に放たれる。

 ちらりと横を見れば、ドロシーが泥壁を形成してどうにか凌いでいる様子だった。巻き込んで死なれては困るから、無事で何よりだ。


「馬鹿が、よそ見してる暇は無いだろ!」

「うおっと、いや?悪いけどこの勝負は既に俺の勝ちだ」


 俺が仲間達の安否を確認してた隙に力を増して押してくる赤髪の男だったが、もはやこの勝負は既に決している。

 このぶつかり合いに持ち込んだ時点で俺達の勝利は確定しているんだ。


「は?何を言って――がはっ!」


 赤髪の男は、理解が出来ないまま右側から襲いかかってくる攻撃をまともに受け吹き飛んでいく。


「空間魔法は別に守りだけに使える訳じゃねーんだよ。むしろ攻めに使ってこそその真価を発揮するんだ」

「……」


 赤髪の男に向けて言葉を放つが、奴はもう沈黙しており返事は無い。


 こうして、封印から解かれ以来最大級の敵との戦闘に、俺達は辛くも勝利を収めるのだった。


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