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一章 8.魔獣大集合

「いやーしかし、ようやく殿も復活ですな。これでこの世界も安泰ぜよ!」


 カイジンは改めて俺の復活を祝うように、満面の笑みでそう話しだした。殿という呼ばれ方には相変わらず慣れないけど。

 確かに俺もこの世界を創ってからすぐに封印されてしまったので、どんな感じになっているのかのんびり見て回りたい気持ちはある。

 だがそれよりも先に、マリナの頼みをどうにかしてやらなければ。


「それなんだけどさ、俺あっちの世界に行こうかなと考えてんだ」

「え、それって――」

「ど、どういうことなんぜよ!?」


 俺の発言にマリナが何か言おうとしてきたが、それは全てカイジンの声が飲み込んだ。

 そんな大声で反応するようなことでもないだろうに、大げさな奴だな。


「マリナにあっちの世界を助けてくれって頼まれてるからな。封印を解いてもらった恩もあるし、行かない訳にはいかないだろ」


 向こうが今どんな状況なのかは知らないが、それでも恩知らずな真似はできない。

 俺は四百年も眠っていたんだ。なら、このまま一生眠り続けていたなんて可能性も十分ありうる。だから出来るだけ彼女の要望には応えたいと思っていた。


「だからってわざわざ殿が出向くことはないぜよ!そういう雑務はあしに任せて、ゆっくり休んでいてほしいぜよ!」

「だからこそだよ」

「ど、どういうことぜよ?」

「四百年も経ってんだ、最早この世界はお前らの物であって、今更俺の出番なんかないってことだよ。それに、休んで欲しいって言ってくれるなら、何をしたって俺の自由だろ?」


 俺が封印されている間に、この世界ではすでに四百年という長い年月を掛けて歴史を刻んできた。

 ならば今さら古人の俺がでしゃばっていいものでは無い。


「では……、あしもお供させていただくぜよ!」

「わ、私も行かせていただきます!魔王様のお世話は私の役目ですから!」


 俺の決定は揺るがないと悟ったのか、カイジンと更にはバレリアまでもが同行を懇願してきた。

 だが俺は二人の同行を、と言うよりは誰の同行も認めるつもりは無い。


「いや、それはダメだ。俺はあっちの世界に誰かを連れて行くつもりはない」

「な、何故ぜよ!?」

「俺がこの世界を創った目的を忘れたのか?」

「ぬっ、そ、それは……!」


 どうしても着いて行こうと言い張るカイジンに、俺は重い声音でそう告げる。

 マリナとのことは大切だが、それ以上に俺はこの世界の奴らことの方が大切だから。


「ぐっ、分かったぜよ。ならばあしは、この世界で殿のかえりを待つ……」

「悪いな、まぁヤバいと思ったらすぐに逃げてくるし、お前らの手も借りると思うからその時は頼むよ」

「承知したぜよ!」


 俺の気持ちを汲んでくれたのか、渋々納得してくれたカイジンに俺は礼を告げる。

 バレリアもカイジンが納得したことで、これ以上は言ってこない。


「クアッ!(クウは灯と一緒に居る!)」

「クウ、お前もここに居ろ」

「クウー!(嫌!もう灯とは絶対に離れないってあの時から決めてるの!)」

「あの時……ああ、そういうことか」


 おそらくクウは俺と勇者マリスが戦った時のことを言っているのだろう。

 あの時クウには別のことを頼んでいたから、一緒に戦ってはいなかった。そして俺はクウの居ない所で負けて、封印されたんだったな。

 だからクウはもう俺と、片時も離れたくは無いということらしい。


「分かった、ならまた一緒に来てくれるか?」

「クウ!(うん!)」


 カイジンやバレリアらは説得できようとも、おそらくクウだけは無理矢理にでも俺に着いて来ようとするだろう。

 クウとは一番付き合いが長いから、言って聞かないのは俺が一番分かってる。

 なら、また一緒に行こう。本当は俺もクウとは共にいたいから。


「あのー、色々決めてるとこ悪いんだけど、無理してこなくてもいいわよ?」


 クウと一緒に向こうの世界へ行くことを決めた直後、マリナがそんなことを言い出してきた。

 一体どういう心境の変化なのか。


「何でだよ?別に遠慮しなくていいんだぞ?」

「いや、遠慮というか、なんかあなた思ったよりもヤバそうだし――」

「た、大変だぞバレリア!外が――って、な、何で魔王様が!?」


 マリナが理由を話そうとした瞬間、獣人族の男が大慌てでこの場に入ってきた。

 随分と焦った表情だったのに、俺を見た途端更に驚いた顔に変わる。

 人間あそこまで顔を変えられるものなんだな。


「族長、どうされたのですか?」

「えっ?あ、ああ、そうだ!外が大変なことになってるんだ!なぜかこの聖堂に魔獣が集まって来てて、大混乱になってる!」

「ああ、そういうことね」


 魔獣が集まってると言われれば、その原因は俺にしかないだろう。

 四百年経っていようとも、俺の体質は相変わらず健在らしい。

 俺のこの、生物に無尽蔵に好かれる体質が。


「……本当ね、外から凄い数の生き物の鳴き声が聞こえるわ」

「それなら俺が原因だろうし、ちょうどいいから会いに行くか」

「えっ!?だ、大丈夫なの?」

「へーきへーき」


 若干怖がった声音で尋ねるマリナに対し、俺は散歩にでも行くかの様なテンションで、外へ向かって歩きだきた。

 そんな俺の肩にクウは乗っかり、カイジンは後を着いてくる。バレリアに族長と呼ばれていたおっさんは、数間遅れた後駆け足で追いついてきた。

 最後にはマリナ一人だけが、ただ呆然と立ち尽くしている。


(何なのあいつ、大して強くもないのになんであんなに自信だけはあるのよ……?)


 マリナだけを置いて歩いて行った俺達が聖堂を出ると、そこには見渡す限り一面に魔獣の姿があった。

 地面だけでなく建物の壁や屋根張り付いていたり、更には空までも埋め尽くされている。

 しかしそんな明らかに異様な光景の中で、この聖堂の周辺だけは不自然に空間が空いていた。

 見えていないから確証は無いが、恐らく水中系の魔獣も出来るだけ近くに集まってるんだろう。


「おー、結構な数だ。改めて見るとちょっと恐ろしいな」


 恐ろしいと口にしながらも、内心ではこの光景を少し楽しんでいた。

 こいつらは俺に襲いかかるつもりは無いと分かっているからこその余裕だ。

 基本世代交代していて知らない魔獣がほとんどだが、それでも全員俺の体質の影響を受けているから危険は無い。


「しかしやっぱり魔獣も言えどもほとんどの奴らが世代かわってるみたいだな。見覚えのない奴らが結構居るよ」

「ガウガウ!(灯!久しぶりだな!)」

「!(灯―!お久しぶりです!)」

「おっ、マイラにプルム!お前らはまだ生きてたかー!」


 どこかに知ってる魔獣は居ないかと周囲を見渡していると、俺の昔の仲間であるマイラとプルムが駆け寄ってきた。

 マイラは頭がライオン、胴がヤギ、尻尾がヘビのキマイラで、プルムはゼリー状の体が特徴的なスライムだ。

 二匹とも俺が仲間にした魔獣で、どうやら四百年間生き残っていたらしい。


「久しいな灯、心配していたぞ」

「ギギッ!(ご無沙汰しているでござる!)」

「灯ちゃん結構元気そうじゃない」


 マイラ、プルムと戯れていると、そこへさらに声を掛けてくる人物が現れる。


「イルにイビルにエキドナか、お前も元気そうでなによりだよ」


 イルは昔、人間の実験によって複数の昆虫型魔獣と少女が融合させられた、いわゆる人造人間だ。ハエの擬人化みたいな見た目をしている。

 イビルはそんなイルから貰った魔獣で、今では巨大なガの姿をしているが、昔は手のひらに乗るくらい小さな幼虫だった。

 そしてエキドナだが、彼女は魔獣の中で数少ない言葉を扱える種族で、マイラや他二匹の魔獣を子に持つ三児の母である。


「まぁ私達はそこら辺の魔獣より長生きだからねー」

「ああ、しかしようやくこの国の王も復活か。これでこの世界も更に発展するだろう」


 エキドナは自分の寿命を誇る様に胸を張り、その横でイルはこの世界の将来に笑みを浮かべる。

 だが、残念ながら彼女の要望には応えられそうにないな。


「あー、悪いけどそれは無理だ」

「「……は?」」


 イルの頼みに断りを入れた途端、先程まで嬉しさからかだらしない表情を浮かべていた顔が凍る。

 それはイルやエキドナだけでなく、この場にいる魔獣全てが同じ反応をしていた。

 だが、そんな空気の中でも、俺ははっきりと今後の目的を彼らに伝えるのだった。


「俺はこれからちょっくら、あっちの世界を救ってくる。だから悪いけどここは後回しだ」


 俺のその言葉を聞いた魔獣達は数間おいた後、気を失う様に次々と倒れていく。中には泡を吹いて白目を剥く奴まで現れる始末だった。


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