表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/371

一章 9.さらば俺の世界

 俺達から少し遅れてやって来たマリナは、魔獣が地に倒れている光景を目の当たりにし、口をあんぐりと開けて驚いていた。


「な、なんなのよこの地獄絵図は……!」

「てへっ」


 見渡す限り広がる惨状にマリナは顔を青ざめる。

 俺は少しでも気を取り直してもらおうとおどけた感じで答えたのだが、あまり効果は見られなかった。そんな場合ではなかったらしい。


「これ、魔王がやったの?」

「いやー、まさかこんなことになるとは」

「ほんとに何したのよ……」


 あくまでふざけた調子で答えるが、マリナは全く乗ってはくれない。というかむしろ、目付きが鋭くなってきた気もするな。

 あんまりこういうノリは好きじゃないらしい。今後は気を付けるとしよう。


「さて、お前らいつまで倒れてんだ。さっさと起きろ!」


 いつまでもこの状況を放置しておく訳にもいかないので、俺は魔獣達にそう呼び掛けた。

 俺の声が響いた瞬間、魔獣達はノロノロと体をフラつかせながらも起き上がりだす。

 うん、皆優秀優秀。


「灯、この世界を出て行くとは本当なのか……?」

「ああ、そのうち帰ってくるだろうけどいつになるかは未定だ」


 イルは震える声で再度確認をとってくるが、俺はそれにはっきりと答えた。


「灯ちゃん、どうしてなの?あの世界は私達にとって何も良いことはないのよ?」

「だろうな、あっちの世界は百害あって一利なしだ。でも俺にとっては……」


 その先の言葉は言えない。それはこの世界に暮らす全ての者を否定する考えだからだ。

 俺はこの世界も好きだが、あっちの世界にも大切な人は沢山いた。そして俺自身も人間であり、この世界からしてみれば異端な存在であることに間違いはない。

 だから、俺の本来いるべき世界はあっちなんだろうが、魔獣達を前に言うことは出来なかった。


「なら、我らも灯と共に向かうぞ」

「ガウガウ!(そうだ!一緒に着いてくぞ!)」

「ダメだ。それじゃ俺がこの世界を創った意味が無い。それともお前ら、四百年経って俺の目的も忘れたのか?」


 魔獣達がこう言い出してくることは予想していた。だからこそ俺は強い口調で彼らを突き放す。

 それで例え嫌われることになろうとも、俺はこいつらの安全を脅かすことなんて出来ないのだから。


「だめよ、灯ちゃんだけ行かせて今度こそ失うことになったら、私達は自分を恨むだろうし自害する者も出るわよ」


 俺のキツい口調に皆が一歩引く中、エキドナだけが怯むことなく前に出てきた。さすがに母親は強いということか。

 だが、だからこそ俺はちゃんと妥協案も考えていた。


「へっ、ほんとにお前らの忠義には頭が上がらねぇよ。分かった、なら皆を連れて行かない代わりに、皆の魔力を俺に貸してくれ」

「魔力……?」

「皆も行けないのは不満だろうが、皆の魔力があれば俺は誰にも負けるつもりは無い。それはお前らが一番分かってるだろ?」


 俺は現在6つの魔道具を装備しているが、その中には魔獣達から得た魔力を保存しておく魔道具も存在する。

 今回はそれを使うつもりだ。自分が着いて行けなくとも、自分の魔力が俺を守るならばということで、納得してもらうのが狙いだ。

 事実こいつらの魔力は膨大で、それらを預かれば俺に敵は居ないからな。


「魔力、ね……。なるほど、灯ちゃんも色々と考えるわねー」

「それなら我らも納得しよう。だが、それでも灯を一人で行かせるのはやはり……」

「それなら安心しろ、クウには俺に着いてきてもらうことにしてる。こいつは俺の相棒だからな」

「ふむ、それなら何も問題は無いな。皆!灯に魔力を捧げるぞ!」

「「「――!」」」


 クウだけは連れて行くと聞いてか、エキドナとイルもようやく納得してくれた。魔獣を指揮しているこの二人が了承したことで、他の魔獣達も多種多様な雄叫びを上げて同意する。

 これで魔獣達のアフターケアも完了だ。


「そんじゃまずは、皆モンスターボックスに入ってくれ!」


 俺はそう呼びかけるのと同時に、首に下げている檻の形をした、野球ボールが入りそうなサイズの立方体のネックレスを空に掲げる。

 すると、モンスターボックスを繋いでいた鎖が弾け飛びその扉が開いた。

 そしてその中へ、次々とそこに集まっていた魔獣達が吸い込まれ、少しした頃には辺りに平然とした空気が流れる。


「え、今何したの?さっきまでここに居た魔獣達はどこに消えたの……?」

「ああ、それなら全員この中だよ。モンスターボックスは魔獣をこの檻に入れて管理できる……だったかな。そんな効果があるんだ」


 ただし、モンスターボックスは対象の魔獣と親密な関係でなければ発動せず、俺が使うまで使用出来る者はほとんど居なかったらしい。

 便利な道具にはそれだけ欠点があるあるということだ。


「そしてモンスターボックスにいる魔獣達から、こっちのマジックストレージで魔力を貰うってわけだ。皆頼むぞ!」


 俺は更に腰に巻いている、マジックストレージと呼ばれる小さめのボンベの様な形をした魔道具に手を触れる。

 マジックストレージはモンスターボックスと併用する魔道具で、モンスターボックス内に居る魔獣達から魔力を分けてもらい貯めることが可能なものだ。

 俺は本来魔力を持たないただの人間であるが、この魔道具を使うことで魔力の使用が出来る様になる。


「おっ、マリスと戦ったせいですっからかんになってたけどだいぶ溜まったなー。これならもう切らすことは無さそうだ」


 魔力の量を数値で現す方法は無いが、具体的には通常の人間数十万人分の魔力がストレージに保存されてた。

 一人の持つ魔力としては、明らかに破格の量である。


「さーて、そんじゃマリナ、そろそろ行こうぜ!」

「あ、うん、分かった……」


 まだ状況を上手く飲み込めていないのか、マリナは放心した様な顔をしつつも頷きとぼとぼと歩き始めたので、俺はその横に並んで歩く。

 魔獣はこの場でまたモンスターボックスから出すと街を混乱させてしまうので、一旦郊外に出てから解放すればいいだろう。


「着いたわ、ここから私は来たのよ」

「へー、まぁなんつーか……ただの森だな」

「そうね、ちょっと活き活きしてる気はするけど……」

「ははっ、そりゃあいつのおかげだな。ありがとうよ」


 森に関しては、俺の仲間にエキスパートな奴が居るので、恐らくそいつの影響だろう。

 エキスパート過ぎて何年も引き篭ってたけど。封印が解けてからはまだ再会してないが、元気にしているだろうか。


「殿、こちらの世界はあしに任せて存分に暴れてくるぜよ!」

「おう、暴れはしないが了解だ!」

「魔王様、何かあった際はすぐにご帰還下さい。私達獣人族は全て、魔王様のお心のままに動きます」

「お前らは考えがだいぶ重いけど、心配してくれてんだよな。ありがとう」


 別れの時がきたので、カイジンやバレリア達と挨拶を交わす。


「あっ、そうそうバレリア、これお前に預けとくよ」

「え?わっ!」


 俺はバレリアにそう言うと同時に、頭に被っていた冠を放る。


「これは、魔王様の魔道具!そんな、私なんかが預かっていいものでは……!」

「いいからいいから。そいつは俺の持ってる魔道具を繋ぐ要みたいなもんだから、ここに預けとくんだよ。俺が居なくなったら不安になる奴も出るだろうから、当分はそれを代用してくれ」

「……そういうことでしたら、ありがたく預からせて頂きます」


 冠を受け取ったバレリアは、恭しくそれを掲げながら深く頭を下げる。

 俺が居なくなって悲しむ獣人族も出てくるかもしれないからな。これはその為の代わりだ。


 その後は魔獣達とも別れを済ませる為に、モンスターボックスから全員を呼び出した。


「灯ちゃん、体には気を付けるのよ」

「我らの力をあの世界に知らしめてやってくれ」

「あいよ、そっちも元気でな」


 エキドナ、イルとも別れの挨拶を終える。


「ガウガウ!(クウ、灯を頼んだぞ!)」

「!(お願いしますね)」

「クアッ!(任せて!)」


 ちょうどクウもマイラ達と別れを済ませているようだ。

 俺も最後に親しい魔獣達とスキンシップを取ったので、これで思い残すことはもう無い。準備は全て完了だ。


「じゃあ頼むぞマリナ」

「はぁ……、もうどうとでもなれだわ。魔力解放!」


 なぜかマリナはやけくそ気味になりながらそう叫んだ。

 その瞬間空にベタ塗りの黒い穴が空き、マリナと俺とクウはその中へ吸い込まれていく。


「そうだ殿!現在あし以外の魔人は全員そちらの世界に居るので、何かあった際はそいつらを頼るといいぜよ!」

「はぁ!?」


 穴が完全に閉じる寸前に、カイジンのやつとんでもない言葉を残していったな。

 そういう大事なことは、もっとはやくに言ってほしかったものだ。


「なかなか出てこねぇと思ってたら、全員あっちの世界に行ってたのかよ……!」


 俺はカイジンの言葉を頭に反芻させながら、世界を繋ぐ穴を進む。

 穴の中は上下左右が分からず平衡感覚を奪ってくる。そろそろ体が耐えられなくなってきたかと思った次の瞬間、眩い光に照らされ気づいた時には俺は地面に倒れ伏していた。


「つ、着いたのか?」

「クウ?」


 俺は脇に並んでいるクウにそう問いかけてみるが、クウも状況をよく分かっていない様子だった。

 一番理解しているてあろうマリナを探すと、彼女は既に立ち上がっており、ある方向を見つめていた。

 その表情は恐怖からか青く染まり、あまり芳しい状況では無いのが伝わってくる。


「おいマリナ、ちゃんと戻ってきたの……、か?」


 俺もすぐさま立ち上がると、確認の為にマリナの横に駆け寄りながら問い掛ける。

 だが、その途中で俺はマリナが見つめているものに気づき、驚きで言葉に詰まってしまった。


「ウホオオォォォォォォオオ!」


 そこに居たのは、全長七メートルはありそうな巨大なゴリラだったのだから。


「また……、またなのね……!」


 なぜこんな所にバカでかいゴリラが居るのかは分からないが、それでもマリナの反応からあまり良い状況で無いことは察せられる。


「いきなり問題発生ってわけか……」


 世界を移動して早々の戦闘勃発に、俺は武者震いから全身を静かに震わせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ