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三章 5.学園トップの実力

 セロルをブレイディア家の養子にする為に、マルクは条件を提示してきた。一体何を要求されるのだろうか。


「条件とは、何でしょうか……?」

「そこのお前、今から俺と一戦手合わせしろ。それで俺に参ったと言わせられたら、セロルを養子にする件認めてやる」

「え?俺、ですか?」

「そうだ」


 どんな条件を出されるのかと思ったら、まさかの俺との模擬戦をご所望とは、この兄は何を考えているのやら。

 だがそれは今はいい。模擬戦なら俺の得意分野、これは願ってもない好条件だ。


「分かりました、それでは一戦手合わせ願います」

「ちょっと、いいのアカリ!?お兄さんは今最も勇者に近い男と呼ばれてるのよ!?」

「関係ねーよ。俺を相手にはな」


 マルクの申し出を受けた俺をマリナは止めようとしてくるが、ここでやめる訳にはいかない。

 この男に勝たなければ、セロルに勇者の道は無くなってしまうのだから。

 だから俺は、マリナの制止を振り切り兄のマルクと対峙する。


「いい覚悟だ。お互い準備があるだろうから、今から一時間後ここに集合だ」

「了解しました」


 助かった。そのまま即戦闘となると、クウはまだ頭の上にいる為マジックストレージに保管してある魔力を使う必要があった。

 ストレージにある魔力は出来るだけ温存しておきたいので、準備が出来るならクウをモンスターボックスに戻してくることも、マントを着て融合も出来る。


 そうして一時間後の模擬戦の為、その場は一旦解散となった。


「アカリ、本当に兄さんは強いのよ。大丈夫なの?」

「そうよ〜、あれに勝てる人間は今の勇者くらいしかいないというのに、よくやるわね」


 マリナとセルシー先輩は、俺に勝ち目が無いと思っているのかやたら心配してくる。

 まったく、もう少し信頼して欲しいものだな。一応俺は魔王だぞ。


「セロルがやられた借りを返すにもちょうどいいし、きっちり勝って勇者に戻してやるよ」


 剣舞会予選の終盤、セロルはあの男に敗れて敗退寸前まで追い込まれていた。そのリベンジを果たすにはいい機会だ。

 それに未来を予知するっているテンス持ちだと、以前マリナから教えて貰っていたからな。それがどんなものかも楽しみではある。


「分かってない様だから何度も言うけど、兄さんは本当に強いわよ」

「へーきへーき、こっちには切り札もあるんだし負けは無いさ」


 クウの空間魔法を使えば、正直誰にも負けることは無い。初代勇者との戦いだって、伝説竜二匹が揃っていたら圧勝していただろう。

 それ程までにクウという存在は計り知れない強さを持っているのだ。


「よしっ、さっさと準備して戦うか!」

「クアッ!」


 そうして俺は、意気揚々と模擬戦に向けて準備を進めていくのだった。










 ――










 一時間後、再び俺はあの誰もいない寂しい雰囲気の鍛錬場へと戻って来た。そこには既に準備は整っているとでも言いたげなマルク先輩が待ち構えている。

 俺は悩んだ末に、今回はマントを着込み融合しての戦闘に決めた。切り札を使うなら融合してなきゃ意味無いからな。


「よく逃げなかったな後輩、その度胸は褒めてやろう」

「へへっ、セロルの将来が掛かってんだから当然ですよ」

「セロルの為、か……本心は自分がこの俺と戦いたかったからじゃないのか?」

「えっ、ま、まぁ、それもありますけど、あくまでセロルの為ですから……!」


 マルク先輩に俺の考えを見透かされ思わず動揺してしまった。確かに学園トップともいつかは戦ってみたいと思っていたし、剣舞会でのあの活躍を遠目に見ていた時うずうずしていた自覚はある。

 まさかこの男、未来が見えるだけでなく人の心まで読めるというのか。


「アカリ、あんたの本心なんて見てればバレバレよ……」

「え、そうなの……?」

「うん、今のアカリくんは誰が見ても同じ感想を抱くわね」

「まじかよ……」


 どうやらマルク先輩に心を見透かす能力があるのでは無く、単純に俺が分かりやすかっただけらしい。そんなに顔に出てただろうか。


「さて、お喋りはここまでだ。後輩、どこからでもかかって来い」

「それでは……遠慮なく!」


 まぁ俺の内心がバレていようがいまいがそんなことはどうでもいいか。今はこの男との戦いに集中だ。

 俺はマルク先輩の言葉通り、遠慮なく最速で距離を詰め渾身のストレートをお見舞する。


「ほぅ、速いな」


 だが、俺の全力の一撃を前に、マルク先輩は動揺すら見せず軽やかに回避した。俺の攻撃が当たらないとは、久しぶりに本物の強敵だ。あの時のゴリラなんか目じゃないくらいに。

 これが、未来を見通すマルクの眼という訳か。


「ぐっ、まだまだぁ!」

「近接戦の腕も良い、ここまでの実力者が今まで眠っていたとは驚きだ」


 その後も俺は蹴りや殴りを連打するが、それらをマルク先輩は何事も無いかのように回避する。

 ここまで俺の攻撃が当たらないのは本当に珍しい。やはり未来予知の力は相当強かった。


「では、そろそろこちらも反撃開始だ」

「どわっ!っぶね〜……」


 俺の連撃の合間を縫う様にマルク先輩は超高速の居合を放ってきたが、それを辛うじて回避する。セロルやマリナら魔剣持ちと模擬戦を続けてこなかったら、確実に斬られていた一撃だろう。

 回避も攻撃もこれまで戦ってきた相手とは桁が違った。


「凄い、お兄さんの一撃を避けるなんて……」

「マリナもマルク先輩とは何度か模擬戦をしてきたんでしょ?戦績はどうだったの?」

「全戦全敗よ。私のテンス「魔力解放」を使っても今まで勝ったことは一度も無いわ……」

「対人戦最強のマリナでも勝てないんだ……」


 マルク先輩との激しい攻防の最中、マリナとセルシー先輩のそんな会話が耳に入ってきた。

 マリナのテンスはかなり優秀なものだと思っていたが、まさかそれを軽く凌駕するとは。

 未来予知、想像以上に厄介だぞ。


「くそっ、こっちの攻撃が全然当たらねぇ……!」

「貴様を最初見た時はもう少しやる奴だと思ったのだが、この程度か。これ以上何も無いのなら続ける意味は無いな」

「へっ、舐めやがって……!」

『クウ?(アカリどうするの?)』


 未来予知に悪戦苦闘している俺に対し、マルク先輩は既にこちらの動きを完全に捉えている。

 先輩の言う通りこのまま戦い続けても意味は無いだろう。


「仕方ない、こうなったらストレージの魔力を使うか」


 マジックストレージに保管されている魔力は、俺の世界で魔獣達から預かっている貴重なものだ。無闇矢鱈に使う訳にはいかないのだが、この状況では仕方ない。打てる手は全て打たなければ敗北してしまうのだから。


「……っし、これでもう負けはねぇ」

『クウー!(やっちゃえアカリー!)』


 クウの声援が脳内に響く中、膨大な量の魔力を身に纏う。

 クウとの融合で使っていたのとは比較にならない程膨大な魔力が俺の体を突き動かす。あまりの速さから、俺の背後にはいくつもの残像が軌道を描く。


「なっ、急に動きが変わった……これが貴様の本気という訳か……!」

「ああ、そうだ。もう先輩に勝ち目はないっすよ」


 加速する俺の動きにマルク先輩も先程までの余裕は一瞬で消え失せ、全力で俺の動きに対応してくる。

 未来予知のお陰でどうにか耐えきれているが、それでも防ぐのに全力を注いでいる影響で反撃する余裕は無さそうだ。

 このまま攻め続ければ押し切れる。


「ちぃっ!未来予知を……甘く見るな!」


 だが、勝てると思ったその刹那、マルク先輩は俺の動きを完璧に読み切り正確無慈悲なカウンターを仕掛けてきた。


「ぐおぉっ!ま、まじかよ、この速度に合わせてカウンターを入れてくるのか……!」


 このまま勝てると思ったが、さすがは学園トップの超エリート。そう簡単には勝たせてくれない様だ。

 反撃のカウンターを受け、俺は大きく吹き飛ばされ鍛錬場の壁に激突する。膨大な魔力を身に纏っていたお陰でダメージはゼロだが、この攻めでも勝てないのは予想外だ。

 まさかこの速度まで見通すとは、恐れ入ったよ未来予知。


「仕方ねぇ、こうなったら切り札を切るしか勝機は無いな……」


 このまま戦い続けても埒が明かない。そう判断した俺は、禁断の技をもってこの戦いを制すると覚悟を決める。


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