二章 30.家族(因縁)との再会
控え室にいる勇者一族がぞろぞろと闘技場へ出て行くのを見かけ、セロルはその波に乗るように後に続いて行く。
今年の出場者は約四百人。その膨大な人数が、いかに勇者一族が繁栄しているかを物語っている。
「出場者は魔剣のチューニングを済ませとけよ!ダミーモードにしてないで人を斬ったらきっちり犯罪者扱いになるからな!」
闘技場の出入口付近では、何人かのガタイのいい鍛冶師がそんな呼び掛けを何度も行っていた。
剣舞会では死人が出ないように、毎年魔剣を擬似戦闘モードに切り替える必要がある。
このチューニングを怠って殺人を侵した勇者一族は、一族を追放され未来永劫身内殺しの汚名を背負うこととなるのだ。
そしてそのチューニングを行っている人物の一人は、学園でも人気者のガンテツであった。
「ガンテツさん、お久しぶりです」
「おうセロル、お前も出場するんだったな。ほら、俺がチューニングしてやるよ」
「ありがとうガンテツさん」
アカリ経由で二人は知り合ったが、仲は良好でセロルも楽しげに返しながら魔剣を手渡す。
チューニングを行うと、魔剣を持つ者以外には攻撃の影響が一切無くなり、更に魔剣を持つ者の同士が斬り合っても、互いの魔力が削られるだけで物理的ダメージはゼロとなる。
そして、魔力を全て失った者は気を失って倒れるだけという、非常に安全設計に配慮した大会だ。
「ほら、これで完了だ。頑張ってこいよ!」
「はい!」
セロルはガンテツに魔剣を預け手早くチューニングを済ませてもらうと、応援を受けながら闘技場へと足を踏み入れる。
「それにしても、宝探しって一体何を探せばいいんだろ……」
今回の剣舞会予選は「宝探し合戦」だが、説明では宝を探しより多くの点数を獲得したものが決勝本戦へ出場出来るとしか聞かされていない。
宛もなく街中へ放り出されることへの恐怖が、出場者達の不安と緊張を煽っていく。
「よぉ、セロル!お前まだここに出場してたのかよ」
「に、兄さん……」
そんな緊張感の漂う中、能天気にセロルに絡んで来た突然絡んで来た彼は、アインディア家三男のロット。セロルの実の兄で、歳が最も近く一番セロルを虐めていた筆頭である。
「もう家追い出されたんだから、お前は勇者一族じゃねーだろうが。この一族の恥さらしが!」
「違う、例え家を追い出されても、僕は勇者一族だ……」
「あぁ?お前、誰に向かって口答えしてんだ?」
「僕はもうこれまでの僕とは違う。今日はそれを証明する為にここに来たんだ!」
セロルは、昔のようにただ怯えるだけの存在ではもうない。アカリとの特訓で得た力と共に、強い自信を手に入れている。
そして本物の恐怖をアカリから教わった結果、今ではロットの脅しにもビクともしない程、強靭な精神を手に入れていたのだ。
「このっ、調子に乗ってんじゃ――」
「その辺にしておけロット。ここじゃ目立つ、言いたいことがあるなら剣舞会で語れ」
セロルの態度が気に入らず手を上げようとしたロットだが、その行動は後ろから来た男によって止められた。
彼の名はリムフォ・アインディア。セロルやロットの父にして、アインディア家現当主である。
ただリムフォがロットの行動を止めたのは、セロルに対する優しさからでは無い。単純に一族が多く集まるこの場で騒動を起こし、下手に目立ちたくないが為だ。結局は自らの保身の為に行動したに過ぎない。
「ち、父上……」
「……ふん、行くぞロット」
リムフォはセロルに一瞥向けるが、特に言葉を交わすことなくその場を去っていく。
そんな父の背中を眺めながら、セロルは本当に自分という存在が必要無くなったのだと、改めて実感していた。
「大丈夫、あんな家族いなくたって、僕には兄貴達がいるんだから……!」
セロルは自らにそう言い聞かせるように呟くと、両頬を強く叩いて気合いを入れ直す。
アカリのおかげで強くなれたからといって、身内に対するトラウマが全て無くなった訳では無い。己の内に秘める家族に対する恐怖を払い除けるように、セロルは剣舞会に意識を集中する。
そしていよいよ、予選開始時刻がやってきた。
「それではこれより、勇者剣舞会予選「宝探し合戦」を開始する!」
ドオォン!
審判員が空へ向けて開始の合図を示す魔道兵器を放ち、白い煙が立ち昇る。そしてそれと同時に、勇者一族は一斉に闘技場の外へと駆け出した。
「ぼ、僕も行かなくっ――どわわっ!」
セロルも遅れを取らないように慌てて闘技場の出口へ向かおうとするが、人の並にもまれて足元がもつれてしまい、盛大に転んでしまう。
だが、この転倒こそセロルにとっては幸運であった。
「ぐあぁっ!」、「や、めてくがあぁ!」、「何でこいついきなり……!」、「ダメだ戻れ!この出口は――ごふっ……」
セロルが地面から起き上がったのと同じタイミングで、様々な悲鳴が出口から聞こえてくる。
状況が理解出来ず混乱していたセロルだが、その理由は実況が教えてくれた。
『ああーっと!これはいきなり大波乱だぁ!なんと、勇者一族分家レインディア家長女イアム選手が、出口を塞ぐ様に他出場者次々と薙ぎ倒している!これでは外へ出ることすらままならないぞー!』
「イアムさん、何て無茶苦茶な……」
レインディア家は、本家ブレイディア家とは非常に仲の悪い家系である。その理由は、レインディア家こそが勇者一族本家だという主張をしているからであり、年々この剣舞会では何かと問題に発展していた。
今回もレインディア家が何をしでかすのか、それが観客の楽しみの一つでもある。
「おいおい、序盤から荒れてるな……」
「レインディア家はいつもあんな感じだ。何かと理由を付けて他の家々と揉め事を起こすことが多い」
「剣舞会自体はそれでいつも盛り上がるんですけど、出場者からするとたまったものじゃ無いですからね……」
イアム・レインディアの通行止めには、観客席から傍観していたアカリ達も驚き呆れた発言が止まらない。
だが、序盤からこんな事態になるなど誰も予想していなかったのだから、それも仕方ないだろう。
「宝探しが目的だってのに、あの女ルール完全無視かよ」
「だが、他者を妨害するのはルール違反では無い。ともかくもうあの出口は使えないな。残りは三箇所か、セロルは無事だといいが……」
「あっ、大丈夫みたいですよ。あの辺で転んでます……」
「おぉ本当だ。良かった〜……けどかっこ悪いな」
セロルの無事を確認し三人は安堵するも、格好が悪く素直に喜べずにいた。だが、序盤から脱落という自体は避けれたので安心感の方が大きい。
「とにかくイアムさんのいる出口は危険だ。別の場所から出よう!」
地面から這い上がったセロルは、敢えて街から一番遠回りな出口を選択して脇目も振らず駆け出す。
宝探しというルールにしてみれば、街へ出る時間が遅ければ遅いほど不利ではある。だが、またいつレインディア家の邪魔が入るか分からない現状、妨害される確立が最も低い出口を選ぶのは重要であった。
事実、セロルと同じ発想に至った者達が数人後を追うようにその出口へと向かっている。
「よしっ、ようやく出られた!さぁ宝探しを始めるぞ!」
セロルの作戦は功を奏し、レインディア家の妨害も無いまま、安全に闘技場を脱出することに成功する。
だが、これで予選は終わりでは無い。むしろ街に出てからが宝探し合戦の本番であった。
こうして、アカリに鍛えられ生まれ変わったセロルによる、初の剣舞会は盛大に幕を開けたのだ。




