二章 25.魔王対勇者一族本家の娘
何故か理不尽に怒りをぶつけてくるマリナとセルシー先輩。原因は分からないが、今は目の前の戦闘に集中するべきか。
「仕方ねぇ……やるぞクウ」
『クウ!』
俺はモンスターボックスに居るクウに呼び掛け、右手のガントレットを起動し融合する。
眩い閃光が俺の全身を包み込み、クウと体が繋がっていく。今日もちゃんとローブは着てきているので、セルシー先輩に融合がバレる心配も無い。
「な、何今の光……?」
ただ融合時に発生する光の方は隠せなかったので、上手く誤魔化す必要がありそうだ。
「ただの目くらましだから気にする必要は無いわ。それより厄介なのは、アカリ本人の方ね……」
「ふぅ……よっし、それじゃそろそろ本気でいくか」
どうしようか考えていると、光についてはマリナがさり気なく誤魔化してくれた。無意識なのか分かっていてなのかは謎だが、ナイスアシストである。
お礼に俺も全力をもって応えよう。本気の殺意を乗せてな。
「っ!か、体が、震えてる……あの時のゴリラと同じ、いやそれ以上の威圧感ね……!」
「な、何あれ……あれが人間の放てる殺気なの……!?」
俺の本気の殺意を受けて、対峙しているマリナはもちろんのこと、後ろで観戦しているセルシー先輩も大きく影響を受けていた。先輩まで巻き込んでしまったのは申し訳ないな。
「さて、マリナは何発まで耐えられるかな?ガゼル達よりは奮闘してくれよ!」
地を全力で踏み抜きひとっ飛びでマリナの目の前まで急接近する。この速度を相手には、並の動体視力じゃ着いて来れない。
「速――ごふっ」
目の前に現れた俺に対しマリナは魔剣を横に構え防ごうと動くが、そんなノロノロした動きを待つほど俺は甘くない。
左に空いた脇目掛け、全力の蹴りをお見舞した。マリナは派手に地面を転がり、数十メートル程飛ばされる。これで終わるか、それともまだ続けられるか。それは全てマリナ次第だ。
「ちょっとマリナ、大丈夫!?」
「え、えぇ、まだ、やれるわ……」
セルシー先輩が慌ててマリナの傍に駆け寄ると、フラフラとしながらもどうにか立ち上がっていた。どうやらまだまだ戦えるらしい。さすがは二年生だ。
「アカリくん!これはやり過ぎじゃない!?」
「俺はマリナの望み通り、ガゼル達にやった訓練と同じことをしただけですよ。止めるか続けるかはマリナが決めることです」
「やるに、決まってるでしょ……もう二度と、私は恐怖に屈したりなんか、したくないのよ……!」
「いい覚悟だ……!」
マリナのやる気は十分伝わった。ならば俺も全力でそれに応えよう。
「それじゃ、もう一発お見舞してやるよ!」
「くっ、魔力解放!」
マリナの覚悟を受け取った俺は、再び跳躍し正面から殴り掛かる。
だが同じ動きで二度目の攻めなので、さすがのマリナも反応してきた。妙なことを叫びながら、魔剣を持っていない空いた左手を突き出す。
「その程度で防げるわけ――は?と、止められた!?」
何の力も篭っていない左手など、脅威でも何でもない。そのはずだったのに、俺の拳はマリナは左手によって力づくで止められていた。
今俺は一体何をされたんだ。
「ふふ、やはりあなたの強さは魔力に依存してるみたいね。それなら私の力で止められるわ!」
してやったり顔のマリナがムカつく。何故俺の攻撃が効かなくなったんだ。何が原因だ。
「どうなってやがる……!?」
『クアッ!(魔力が消えちゃったよアカリ!)』
「魔力が消えた……?どういうことだよクウ?」
『クウー(分かんないけど、マリナの手に触れた瞬間魔力が消えちゃったの)』
クウ曰く、理由は分からないが魔力が突然消えてしまったらしい。だが体の内側にはまだ魔力の存在は大量に感じられる。
なら、殴った拳部分の魔力のみが消されたということなのだろうか。
これはもう一度試す必要がありそうだ。
「分からないならもう一回試してみるさ!」
俺は一度マリナから大きく距離を取ると、今度も全力で跳躍し速度も乗せた重い拳の一撃を放つ。これでマリナのやったことのタネが分かるはずだ。
「何度やっても無駄よ、魔力解放!」
「むっ、また止められたか……」
俺の攻撃は先程と同じく、またもマリナの空いた左手によって軽々と受け止められる。
だが今回はクウのヒントを元に、全身に纏っている魔力に意識を集中していた。そのお陰で、マリナが一体何をしたのかガゼルようやく判明する。
「マリナ、お前俺達の魔力をかき消したな……」
結局答えは最初にクウが言ってた通り、俺達の魔力が消されたのだ。
どういう原理かは知らないが、マリナが叫びながら左手で受け止めた瞬間、全身を纏っていた俺の魔力は煙のように失われた。これが正体だ。
「マリナは魔力を解放して消すことが出来る、優秀なテンス持ちなのよ」
「テンス……?」
セルシー先輩がマリナの力の秘密を説明してくれたが、テンスとは一体何なんだ。そんな単語今まで聞いたことが無いぞ。
「まぁ私のテンスは何故か魔物には効果が無いから、対人戦にしか使えないんだけどね……」
「そう!つまりマリナは対人戦最強ってことよ!」
魔物には効かないと恥ずかしがるマリナを他所に、何故かセルシー先輩がめちゃくちゃ自慢してくる。
確かに魔力を消すという能力は化け物じみた強さだ。そんなもの使われたら、俺なんかただの人間でしかなくなってしまう。
って、そんなことは今別にいいから、今はテンスについて教えて欲しい。
「なぁ、さっきから言ってるその、テンスっやつは一体何なんだよ?」
「あれ?学園の講義でテンスってまだ習わないっけ?」
「確か一年の後半で少しだけ触れるから、まだ習ってないわね。ふふ……知りたかったら私を倒して聞き出しなさい」
どうやらテンスは学園の講義でもいつかは習うらしい。ただ、マリナを倒せばその後で教えてもらえるようだ。
ならば腕ずくでも何でも今すぐダウンさせて、その後じっくり聞き出してやる。
「覚悟しろよ。すぐに捻り潰してやる……!」
「ちょうどいい機会だから、魔王の力をもっと見せてもらおうかしら。以前戦った時はヘナチョコだったしね」
「はっはっは!あの時の俺と今の俺を一緒にしてんなら、ここらで現実って奴を教えてやるぜ!」
前回マリナと戦ったのは、俺の封印が解かれた直後だったか。あの時は魔力が一切無いただの凡人だったので、マリナには惨敗した。
ちょうどいいからあのときの借りをここで返すとしよう。
「速さで撹乱するぞクウ!」
『クアッ!(任せて!)』
マリナの能力は非常に脅威だが、それでも弱点はある。俺の初撃が彼女にヒットしたのがその証拠だ。
恐らく魔力を消滅させるには何かしらの条件があるはず。だからその隙を突けば、俺にも勝機は十分にある。
「くっ、さっきよりも数段速い!しかも動きが不規則で読みにくいわね……!」
動きが不規則な理由は、クウとの融合にある。俺とクウは現在感覚が全てリンクしている為、クウ自身の野生の動きを俺の体で再現することが可能なのだ。
獣の動きを読み抜くなど、余程の山育ちでなきゃ不可能だ。
「……もらい!」
「後ろから来るのはバレてるてる――」
「残念、前からだ」
マリナは俺が後ろから攻めることを予想していたのか、背後に回った隙を狙って魔剣を振るってくる。
だが、それを見越して俺は裏の裏をかき、一瞬後ろから攻めると見せかけて高速でマリナの正面に移った。
さすがにここまでは読めていなかったらしく、結果としてマリナは俺に無防備を晒すこととなる。
これでチェックメイトだ。
「よっと」
「きゃっ!」
素早くしゃがみ足払いをしてマリナの体勢を崩す。最後に倒れかかる隙を狙って、トドメの一撃を放つ。
「これで終わりだ!」
「ぐっ、かはっ……」
左腕で大振りのフックをお見舞し、マリナを豪快に吹き飛ばす。
体勢が悪かったからなのか、それとも威力が高かったからなのか、理由は不明だがマリナの魔力解放は発動せず、もろに俺の全力をその身に受けることとなった。
地面を転がるマリナにもう意識は無い。これで俺の勝利だ。




