二章 24.マリナの脅し
マリナに頼まれて、俺はここ数ヶ月の活動を全て話した。ただセロルの成長に関しては、剣舞会前に敵に情報を与える訳にはいかないということで伏せさせてもらっている。
それ以外のガゼルやネネティア、そして俺の魔道兵器のことに関しては全て伝えた。
「なるほど〜、この前のあの変な射撃を実用化出来るようにしたんだ」
「魔法と魔道兵器の融合……そんなのよく思いついたわね」
俺とガゼルの専用魔道兵器を話すと、二人は感心するように静かに驚いていた。
そう言えば、あの技術を思いついたのはこの二人と任務をこなしてる時だったからな。二人ともその威力はよく知っていた。
「ここ一ヶ月半くらいは、お察しの通り魔物を狩って訓練を積んでたんだよ」
「一年はまだ学内での訓練しかしてないはずなのに、あなた達の部隊だけぶっ飛んでるわね」
「いいな〜、どうせなら私も誘ってくれればよかったのに……」
セルシー先輩は、俺達の訓練に一緒に参加したかったらしい。だがいくら訓練とはいえ、俺達は禁止区域に足を運んでいたのだから、先輩を校則違反に付き合わせる訳にはいかないだろう。
「俺達は禁止区域で訓練してましたから、来ない方がよかったと思いますよ」
そう先輩の身を思って発言したのだが、これがまた、マリナの地雷を踏み抜いてしまったらしい。
「はぁ!?あなた達禁止区域に行ってたの!?」
「そ、そうだけど、何そんなに怒ってんだよ……」
「だって禁止区域には、中、上位魔物がうじゃうじゃいるのよ!そんな危険な場所に何他の一年生を巻き込んでるのよ!」
「大丈夫だって、ちゃんと安全第一で訓練してきたんだし、現にこうして誰も欠けずに今日まで生きてきてるぜ」
「そういう問題じゃない!」
ガゼル達を死なせるなんてこの俺が許すわけないだろ。そういった危険はちゃんと判断して尽く潰しながら訓練してたんだから何も問題は無い。
それに後半は、ガゼル達自身であそこの魔物は対処出来てた訳だし。
「アカリくん、あなた達のやってたことは訓練じゃなくて、もはや本番じゃない……?」
「本番?何言ってるんですか、俺達は強くなる為により強い練習相手を求めて……あれ?確かにあそこにいる魔物って結構強い奴らなんでしたっけ?」
「やめなさいセルシー、この馬鹿に何を言ったってきっと無駄よ……」
おいおい酷いなマリナ。相変わらず俺を頭悪いキャラに仕立てあげようとしてくるのか。
でも今回に限っては、確かにセルシー先輩の言う通り、あそこの魔物は練習台では無く本番の敵だったかもしれない。
これから一年は、あそこの連中よりずっと弱い下位の魔物を相手に任務をこなすのか。もしかしてこれ、順序間違えたのかな。
「それよりもまずいのは剣舞会ね。この馬鹿が他の子達と同じようにセロルを鍛えてたのなら、恐らくこれまでとは比べ物にならないほど強くなってる筈。そうなると……私が負ける可能性も出てくるわ……」
「さすがにマリナより強くなってはいないと思うけど……」
「いえ、この馬鹿が、あの禁止区域で鍛えてたのよ。十分ありえるわ」
「確かに、可能性はあるかも……」
さっきからこの二人、俺に対しての信頼度が酷過ぎないか。それじゃまるで俺がセロルを魔改造したみたいじゃないか。
ちゃんと勇者として強くしたんだから何も心配はいらないぞ。
「……よし決めた。アカリ、剣舞会までの一週間私の特訓に付き合いなさい」
「はぁ?何で俺が――」
「セロルだけ鍛えて、他の勇者一族を一網打尽にしようったってそうはいかないわよ」
「何だよそれ、まるで俺が魔王みたいじゃないか!いや、でもほんとに魔王だから間違っては無いのか」
魔王が勇者と戦うのは通説だし何も間違いは無い。ただそれは物語上の話であって、本物の魔王である俺は勇者討伐なんて微塵も興味無いんだがな。
てか、それじゃまるでセロルが魔王の放った刺客みたいじゃないか。セロルにも俺にも失礼だぞ。
「とにかく、セロルだけ鍛えたなんて贔屓私は認めたさないわ。剣舞会までの一週間だけでいいから、私に付き合いなさい」
「えぇー、面倒臭いなぁ……せっかく楽しそうな街に来たんだから、自由にさせてくれよ」
「誰がアカリの封印を解いたんだっけ?まさかその恩を忘れた訳じゃ無いわよね……?」
「ぐっ……ベタな脅しを使いやがって!」
封印の話をされたら俺は弱い。マリナにはそのことでは返しきれないほどの恩があるから、逆らうことなど出来るはずも無かった。
仕方ない。セロルには申し訳ないけど、マリナの特訓に付き合うか。たった一週間なら大して成長もしないだろうし。
「わーったよ、なら剣舞会までの一週間は俺が特訓相手になってやる。ただしやり方はセロル達と同じものだからな」
「ふふ、なら明日からお願いね」
「面白そうだから私も見に行っていい?」
「もう構いませんよ。好きに見てってください」
封印の話を出されたら俺は断れない。仕方なく一週間限定でマリナの特訓に付き合うこととなった。
まぁ特訓といっても、俺が全力で相手をするだけなのだから、そこから何を学ぶかはマリナ次第である。
「じゃあ今日のところはこの辺でお開きにしましょうか」
「そうね、もういい時間になってきたことだし。アカリくんは先にお店出てていいわよ。ここの会計はこっちで済ませとくから」
「じゃあお言葉に甘えて、今日はご馳走様でした!」
セルシー先輩の言葉に従って、俺は明るく返事をした後颯爽を店を出ていく。
さぁ、今日の恨みをここで盛大にぶつけてやろう。クウの無限の食欲を味わうがいい!
「じゅ、十五万ポンド!?」
「な、なんでそんな高いのよ!」
店を出てしばらく待っていると、マリナとセルシー先輩の悲鳴が轟いてきた。
「くははっ!いい気味だな。クウの食いっぷりを思い知ったか!」
「クウ〜(お腹いっぱいでもう眠いよ〜)」
「沢山食べたもんなー。さて、マリナ達に怒られる前にここはとっとと退散するか!」
マリナ達が来たら確実に怒られるだろうし、見つかる前に逃げることにする。
こうして、アルテラでの初日の夜は華麗に幕を閉じたのだった。
――
翌日、朝日が眩く大地を照らす中、街外れの荒野で俺は現在マリナと対峙していた。
その目的は昨晩話した特訓の為なのだが、どうも様子がおかしい。明らかにイラついた雰囲気を纏っているのだ。しかもセルシー先輩も同じ雰囲気を纏っており、明らかに普通ではない。一体どうしたのだろうか。
「なんか機嫌悪いけど、どうかしたの……?」
「うるさいわね、とっとと始めるわよ……」
理由を聞こうにも、こんな感じで一向に答えを聞けずじまいである。
一体俺が何をしたのだろうか。正直に言うと、昨日マリナと居た時の記憶が朧気だった。覚えているのは、何故か彼女と特訓の約束をしたことぐらいで、それ以外の記憶が一切無い。
「行くわよアカリ!」
「よく分かんねぇけど、やるしかないみたいだな……!」
状況をイマイチのみ込めないまま、俺とマリナの戦闘は始まった。
取り敢えず約束していた特訓はこなさなければならないので、マリナの振るう魔剣を軽く回避する。魔剣持ちとの戦闘はセロルで予習済みの為、ある程度目は慣れていた。
「やっちゃえマリナー!」
「えぇ!昨日の代金のつけはここで払わせてもらうわ!」
「代金つけ……?あれ、そう言えばなんか昨日食事代で問題があったような……」
マリナ達の会話の端々に、何かが頭の中で引っ掛かりを覚える。もう少しで何かを思い出しそうなのに、でも全く思い出せないそんなもどかしさが俺の脳を苦しめていた。
「くそっ、一体昨日何があったんだよ……!?」
後に俺は、昨晩レティアソルトによって記憶をやられていたことに気づくのだが、それはまだ先のことである。




