二章 5.ネネティアの戦う理由
訓練場をボロボロになるまで破壊してしまった結果、俺達の部隊は再び居残り掃除を言い渡されてしまった。
今回は教室よりも広い上に破壊による跡が散乱しているので、居残り掃除史上最も過酷なものとなるだろう。
「きびきび動いてさっさと終わらせるぞー」
「分かっている」
「はい、皆さん私のせいでごめんなさい……」
「気にすんなよ。運はどうにもなんねぇんだしさ」
ネネティアは自分の責任だと思い込み、だいぶ気を落としてしまっている。
確かに全ての発端はネネティアにあるのかもしれないが、結局あれは事故なのだからあまり気にしなくてもいいのに。
「しかし、ネネティアの不幸ぶりがここまでだったとはな」
「そうだなー、作戦決める時は何か起きた時に対処すればいいとか悠長なこと言ってたけど、これは改める必要がありそうだ」
部隊の戦術を決める時は楽観視していたが、ネネティアの不運は想像以上だ。
これは本格的に何か対策を打たないと、実戦で今日みたいな事態に陥ったら命にも関わってくる。
「やっぱり私なんかが戦場になんて出るべきでは無かったのでしょうか……」
「うーん……まぁ、嫌なら無理に続ける必要は無いだろうな」
ネネティアは落ち込み過ぎたせいか、戦うことすら諦めかけている。
隊長なら引き止めるのが正解なのだろうが、無理やり命を張らせる訳にはいかない。戦いが嫌になったなら、早く辞めた方が本人の為だ。
「アカリ、それは少し冷た過ぎないか?」
「無理やり戦わせたって誰も得なんかしねーよ。ネネティアが辞めたいって言うなら、俺は止めはしない」
「……」
ネネティアからすればかなりきつい言い方をしたからな。彼女も黙り込んでしまった。
「なぁ、ネネティアは何で魔物と戦おうと思ったんだ?」
「……戦う理由、ですか?」
「そうだ。ガゼルは魔法の為、セロルは勇者一族を見返す為、それぞれ理由があるから戦い続けられるし、己を鍛えていけるんだ。もし、命を懸けるだけの理由が自分の中にあるなら、俺は続けるべきだと思うが」
「私の戦う理由……私にも、あります。」
ネネティアはそう呟いた後、一瞬間をおいて少しずつ語りだした。
「私にも戦う理由はあります。でもそれはガゼルくんやセロルくんの様に立派なものではありません。私は……魔物に復讐したいんです」
「復讐?」
「はい、私は私から大切なものを奪った魔物が許せない。だからある魔物を消すまで、私は戦いを辞めるつもりはありません」
そう語るネネティアの瞳には、強い意志が感じられた。彼女に何があったのかは分からないが、それだけ強い意志があるならば、彼女は今後仮に一人になろうとも戦い続けるだろう。
「その気持ちがあるなら十分だ。ネネティアはこのチームに必要なんだ。だから力を貸してくれ」
「でも、私みたいな不純な動機の人間が居ていいんですか?」
「いいに決まってるだろ。復讐だって立派な動機だし、他人がとやかく言うことじゃない。それに、ネネティアにはまだ魔道兵器の扱いを教えてもらってないしな」
復讐心とういうのは当事者の気持ちの問題であって、他人が簡単に口出しできることでは無い。
だがどんな思いであれ、戦いたいという気持ちがあるならうちのチームに彼女は必要だ。
「ふふっ……ありがとうございます。私、まだこの部隊で戦っていてもいいんですか?」
「むしろこっちからお願いするよ。まぁ今日の演習は上手くいかなかったけど、これからもよろしくな」
「ああ、最初の失敗など気にする必要は無い」
「うん、僕ももっと強くなって皆の役に立つように頑張るよ!」
「はい、はい……皆さんありがとうございます!」
ネネティアは何か吹っ切れたように眩しい笑顔を見せた。目の端には小さく輝くものが見えたが、もう迷いは無さそうだ。
正直ネネティアはこの部隊唯一の常識人だから、居なくなるとかなり困るし残ってくれて助かった。
「しかし、ネネティアの不運は想像以上だぞ。これからどうするつもりだアカリ?」
「正直俺もなめてたよ。不運は起こった時にどうにかすればいいとか言ってたけど、そんな呑気なこと言ってる場合じゃない。早急に手を打つ必要がある」
ガゼルの言う通り、ネネティアの不運は速急な対応が必要だ。だがその肝心の対応方法が分からない。
「具体的には何をすればいいのかな?」
「うーん……ダメだ。こればっかりは全く分からない」
「運は鍛えてどうこうなる問題では無いからな」
何か手は無いかと考えてみるが、正直何も浮かばない。運なんて今まで気にしたこともなかったから、方法があるのかさえ不明だ。
「ネネティアはこれまでどう対策してきたんだ?」
「私は、運の赴くままに身を任せていました……」
「そ、そうか、それは苦労しただろうな……」
ネネティア本人も打開策は無いらしく、ただなすがままに受け入れていたらしい。
もうこうなったら仕方ないな。分からない奴ら同士で悩んでいても埒が明かないので、誰かに相談することにしよう。
「おいお前達、掃除は捗ってるか?」
「あ、セリーダ先生お疲れ様です。まぁ掃除は見ての通りですよ」
ネネティアの対策を考えていると、セリーダ先生が状況を見にやって来た。
まぁ掃除の進捗はあまり芳しくない。だらだら話していたからというのもあるが、そもそもこの訓練場が広過ぎるせいで全く進まないのだ。
「ふむ、さすがにここは広過ぎるか。今日一日では終わりそうにないな」
「明日もやります?」
「いや、ここの掃除はもう十分だ。お前達よくやってくれた」
「おっ、どうしたんですかセリーダ先生〜?今日は随分と優しいですね」
このまま終わるまで毎日居残り掃除かと思ったが、どうやら罰は今日で終わりらしい。セリーダ先生もどういう風の吹き回しだろうか。
ちなみに俺も、ようやく目上の人に対する敬語がまともになってきた。まぁまだ魔王時代の名残があって、偉そうな態度は消えないが。
「ここが早く使えないと講義に支障が出る故、業者に頼むだけだ。それに罰はこの辺りで十分の様だしな。まぁアカリだけはこのまま掃除を続けてもいいんだぞ?」
「ちょっ!それは勘弁して下さい……」
「ふふっ、冗談だ。さて、それでは全員ここに集まれ。今日の演習の総評をさせてもらう」
「「「はい」」」
セリーダ先生も最近は俺の扱いが分かってきたのかよく笑う。この雑なあしらい方、マリナそっくりだ。
「では今日の実技演習の振り返りを行う。まず部隊全体の評価だが、この隊は個々の力は優秀なのにそれを上手く発揮出来ていなかったな。伸び代は大きいが、今のままでは魔物数匹を相手に全滅も有りうる。連携をもっと意識するように」
セリーダ先生の部隊に対する評価は適切だろう。俺もこの隊はまだ纏まりが無く、継ぎ接ぎだらけで未完成だと思っていた。
俺は死ぬことは無いだろうが、他のメンバーは先生の言う通り危険だと思う。
「次に個々の立ち回りだ。まずガゼル、お前は魔法の威力は十分だが、魔力の消費が大きい分戦える時間が短過ぎる。方法を変えない限り今後魔物討伐への参加は認められないぞ」
「はい……」
セリーダ先生のガゼルへの評価は非常に厳しいもので、ガゼル本人もそのことは自覚しているらしく悔しそうにしている。
まぁその問題は前々から分かりきっていたことだし、その対策として魔法の勉強や魔道兵器の練習なんかもしてるから、ガゼルは大丈夫だろう。
「次にアカリだ。お前は足が速く体も丈夫である為、それを上手く活かしてはいた。だが、隊長として動くならばそれだけではダメだ。お前は戦闘になると視野が狭まり、結果ネネティアの暴発に気づくのが遅れただろう?それではもし後方に何かあった際、即時対応は出来ないぞ」
「了解です……」
俺へのダメ出しもかなり重いものだ。確かに俺はセロルと共に前に出てからは、後方への配慮が全く出来ていなかったし、魔道兵器が爆発した時も気づくのが遅かった。
そんなことでは、今後隊員を死なせることになる可能性が高い。曲がりなりにも隊長になったのだから、これからは隊長としての立ち回りも学んでいかなければ。
「次にセロル、お前は比較的よく動けてはいた。己の出来ることを最大限発揮していたのは見事だ。だが、やはり魔力の低さが敗因に繋がることが多い。今後も精進してその弱点を隠す技術を磨いていくように」
「はい……!」
確かにセロルは部隊の中では一番よく動いてくれていた。俺の教えた通り魔力の節約も上手くなってきていたおかげで、戦闘でも遅れをとることも減っいるしな。
後は強力な一撃や範囲攻撃への対策を立てていけば、もう立派な勇者になれるだろう。
「さて、最後はネネティアだ。今回はお前が一番足を引っ張っていたな。その理由は分かるか?」
「はい……私の運が無いからですよね」
「いや、違う。確かにお前の運は酷く悪いのかもしれないが、今回の事故に限っていえば、運は関係無い」
「え、ど、どういうことですか……?」
てっきりセリーダ先生も、ネネティア運が悪いなみたいなことを言うのだと思っていた。
だがそんな予想は容易く裏切り、先生ははっきりとネネティア本人が悪いと告げたのだ。
運以外の要因とは一体何なのか。




