二章 3.チームメイトの近況は最悪
セロルの攻撃面に関する確認は終わったので、次は防御面を確認する。
一応実技試験ではトップの結果を残した俺の攻撃を凌げればかなり優秀なのだが、この世界に来てからそれが出来た人物は一人もいない。さすがにそこまで望むのは酷というものか。
「行くぞセロル!」
「うん!」
まずは手始めに、セロル目掛け軽めのストレートを放つ。
対するセロルは、俺の拳に上手く木剣を合わせることで鮮やかに防いだ。これくらいの攻撃なら余裕そうだな。
「まだまだ続けるぞ!」
「くっ、ふっ!」
右や左、あらゆる方向から俺は連打を繰り返し、セロルはその拳を木剣でかろうじて凌ぐ。
直撃は今のところ無いが、木剣を通しての衝撃がセロルの体にダメージを与えている。このまま攻撃をし続ければ、いずれ俺が勝つだろうな。
「よし……一発全力のやつを打ち込むか」
このままだらだらと攻め続けても何も発展は無さそうなので、本気の一撃を与えてこの戦いを終わらせる。
そう考えて俺は全力の一撃をセロルへお見舞した。
「おらぁ!」
「っ!うぐっ……!」
だが俺の予想に反し、まさかのセロルは俺の全力を木剣で防いでみせたのだ。
「防がれた……セロルの奴やるじゃねぇか」
さすがに威力が強過ぎたせいで木剣は容易くへし折れてしまったが、セロル自身の反応速度はなかなかのものである。もし防いだのが魔剣だったなら、そのまま反撃も容易だったはずだ。
「大丈夫かセロル?」
「う、うん、やっぱり兄貴は強いね……」
衝撃で地面に倒れ込んでしまったセロルに俺は手を差し伸べる。
木剣で防いだお陰か、彼自身も問題は無さそうだ。
「よくあれを防いだな。俺の全力に反応出来たのはセロルが初めてだぞ」
「そ、そうなんだ。僕は昔からよく虐められてたから、攻撃する人の動きがなんとなく予測出来るんだよ」
「まじかよ、それってめちゃくちゃすげーじゃん!」
「はは……ただ出来るだけ痛くないように受ける努力をしてた結果なんだけどね。だから見えはしても避けることは出来ないんだ……」
俺の全力の一撃をガードしたセロルの反応速度は、恐らく一番の武器になるはずだ。
あとはその反射に順応出来るだけの身体能力があれば、もう怖いものはない。
「体が追いつけないなら、追いつけるようになるまで強化すればいいんだ。魔力操作が出来るなら身体能力の強化も容易だろ?」
「う、うん、一応僕も身体能力は強化出来るけど、でもそもそも魔力が少ないから意味無いんじゃないかな……」
「いや、そうとも限らねぇよ。俺に一ついい考えがある」
セロルの言う通り身体能力を強化するにも、そして魔剣を扱うにも魔力は大量に必要だ。それをセロルに求めるのは不可能であった。
だが、魔力が少ないセロルでもそれら全てをこなす方法が一つだけある。
「いい考えって何?」
「それはな……魔力を使わなければいいんだ」
「……んん?」
さっきは魔力使えと言いながら、今度は魔力を使うなという矛盾した俺の発言に、セロルは頭の中が混乱したのかクエスチョンマークが見える気がする。
一言で纏めるのは無理だから少しずつ説明するか。
「いいか、セロルは魔力が人より圧倒的に少ない。それなのに戦闘では魔力がどうしても必要になる。ここまでは分かってるな?」
「うん、だから僕は今まで負け組だったんだ……」
「ならその解決方法は何か。それはな、魔力を節約するんだ」
「魔力の、節約?」
魔力の少ないセロルに常人のような戦い方は向いていない。彼は極限まで魔力の使用を控えた戦闘方法こそが向いているんだ。
「相手を斬る直前まで魔剣は出さない。避ける直前に身体能力を強化し、それ以外は魔力を使わない。相手の攻撃をガードしない。この三つを徹底して行えば、セロルの強みを一番生かせるはずだ」
「ギリギリまで魔力を温存するんだ……確かにその戦い方なら僕にも出来そうな気がする。で、でも、それってかなり危険なんじゃない……?」
「その通り、魔力が要の戦闘で魔力を使わないということは、それだけ身を危険に晒しているということだ。相当の覚悟がなければ出来ることじゃない」
俺の提案した戦い方は、魔弾や魔剣が入り乱れる戦場を裸で歩けと言っているも同然な方法だ。もちろん部隊で動く時は必ず俺がフォローに入り、出来るだけ危険が少なくなる様立ち回るつもりではいる。
だがそれでも、どうしても一定の危険は付きまとうだろう。だからこの戦法を実践するかどうかは、セロル自身が決めることだ。
もし無理ならまた別の方法を考えればいいことだしな。
「……僕、やるよ。その魔力を節約する戦法、やってみる!」
「本当にいいのか?話しといてなんだが、かなり危険な戦法だぞ?」
「いい、それぐらいの覚悟が無くちゃ、一族を見返すことなんて一生出来ないだろうから。だから兄貴、その戦法を僕に教えて下さい!」
「……分かった。ならこれから剣舞会までの三ヶ月間、その方針で俺がみっちり鍛えてやる!」
セロルの瞳には強い決意の炎が燃えていた。そこまで覚悟が決まっているなら、もう俺から何か言うことは無い。
俺が考えるべきことは、三ヶ月でどれだけセロルを強くできるのか、ただそれだけだ。
「よーし、続けるぞセロル!」
「うん!」
セロル育成の方針がある程度固まり、俺達はその後ひたすらに模擬戦を繰り返し続けた。
――
セロルとの特訓を開始してから一週間が経過した。今日は実技演習で部隊毎の訓練がある為、久しぶりにうちのチームも全員揃っている。
「アカリ、セロルの特訓はどうだ?」
「まぁぼちぼちだよ。方針は決まったから今はみっちり鍛えてる最中だ」
「そうか、なら一安心だな……」
ガゼルもセロルのことは気になっていたらしく、すぐその話題になった。最近は寮でもどちらかが寝てたり居なかったりとすれ違いが多く、あまり話す時間も無かったからな。
それにしてもガゼルの方は心無しか元気が無いようにみえる。何かあったのだろうか。
「どうしたガゼル、調子悪いのか?」
「いや、体調は問題無いが、魔法の方が行き詰まっていてな……」
「確かここ最近は図書館に籠って、魔法に関する本を探してたんだったっけ」
「ああ、だが以前アカリの教えてくれた詠唱に関する記述がどこにも無くてな。魔法の本自体もそこまで多いものではないこともあって、手詰まりしてる状態だ……」
ガゼルは以前俺が魔法に関する話をしてから、毎日のように図書館通いを繰り返していた。
だが、それだけ努力しても未だ成果はゼロらしい。
「ガゼルさんも苦労してるんですね……」
「おいおい何だよ、その様子だとネネティアもか?」
「はい、私は放課後は射撃場で魔道兵器の腕を磨いているのですが、なかなか訓練が出来なくて……」
どうやらネネティアも、ガゼル同様何か行き詰まっているらしい。うちの隊は伸び悩んでる奴が多いな。
「にしても、訓練が出来ないってのはどういうことだ?」
「そうですね……例えば昨日では、魔道兵器を借りたはいいんですが、射撃場に着いてから弾倉がカラなのに気づき、わざわざ補充の為にレンタル場まで戻ったんです。普段なら満タンまで装填されてる筈なんですけど……」
「あー、それは不運だったな」
確か射撃場とレンタル場はそこそこ距離が離れていた記憶がある。一往復するだけでもかなりの時間をロスしてしまったのだろうな。
「それでその後は、弾を補充してすぐまた訓練場に戻ったんですが、その時には既に射撃場の空きが無くなってしまってまして、結局一発も撃てないまま終わってしまったんです……」
「うわ……不幸度合いが極まってるな」
「お互い苦労が耐えんな」
「はい、昨日以外も似たような理由であまり射撃訓練は捗らなかったです」
その日は調子が悪くて的を外したとかならよくある話だろうが、そもそも撃つことすら出来なかったはさすがに笑えない。
彼女はなぜそこまで不運なのか。
実技演習が始まる前から、うちのチームは空気が沈んでるな。




