一章 36.任務完了
魔物の正体がガイアントであると知っている。この情報を握っていながら報告に上げなかったということは、十中八九こいつが悪さをしていたことは確定だ。
まぁこれだけボロを出してたら、誰でも気づいてしまうだろうがな。
「さーておっさん、そろそろ話を聞かせてもらおうか。今日は奢ってくれるらしいしな」
これ状況でもまだ反論の手があるというのなら、こっちも本気で調べ上げて確固たる証拠を手に入れるだけだ。
俺は自分の推測を全て話し終えたので、軽い調子でおどけてみせる。
「く、クソガキが……大人の商売に口出ししてんじゃねぇー!」
「おっ、やる気か――」
「そこまでにしなさい」
怒りに目を染めたおっさんが遂に俺に殴り掛かってきたので反撃しようとしたが、俺よりも早く動く人物がいた。
マリナとセルシー先輩だ。
「自分の利益の為に人々を恐怖させたあなたを私は許さないわ」
「あなたの行いは兵団に全て話させてもらうわね。もちろんあなたの身柄も拘束した上で」
「ひいっ、ち、ちくしょう……」
マリナとセルシー先輩はいつの間にか魔剣と魔道兵器を構えており、おっさんを鬼のような形相で睨んでいた。
この二人を怒らせるとここまで怖いものなのか。
ともかくこうして、おっさんの身柄は拘束され事件は全て解決となった。
――
おっさんを拘束し兵団に連行し終えた俺達は、再びベェランドに乗って今度こそ学園へ帰還していた。
「アカリくん、よくあの男が犯人だって分かったわね〜」
「たまたまですよ。あからさまに怪しい情報が点在してたのでカマをかけてみたら、上手くはまっただけです」
「それでも十分お手柄なんだから、もっと自分を誇りなさいよね〜」
帰りの道中セルシー先輩は俺の推理を褒めてきたが、正直こんなもの誰でも気づける簡単な事件だったので、そこまでのことをしたつもりは無い。
「今回はよくやりましたわねアカリくん。これなら魔道兵器を壊したのを考慮してもお釣りが来ますわよ」
「うっ、ま、まぁそれならよかったけど、でもどうせあの事件は遅かれ早かれ、誰かが真相に気づいていたと思いますよ」
シーラも俺のことを褒めてくるが、魔道兵器のことを混じえてくるあたりは相変わらずだ。その辛口な部分さえなければ教師としても人気が出そうなものだが。
とまぁそれは置いておいて、事件に関してもあれだけ怪しい情報が転がっていたのだから、きっと俺が気づかなかったとしても誰かが犯人を特定していたのは間違いないだろう。
「何言ってるのよ。気づくのが遅かったら犯人はとっくに町の外へ逃げてたに決まってるんだから、立派な功績じゃない」
「えぇ、町の外まで行かれてしまえば、犯人を追うのは難しかったでしょうからね」
「うーん、そういうもんなのか?」
「そういうものよ」
シーラだけでなくマリナまでもが俺を褒めてくる。それだけ褒められると悪い気はしないが、本当に大したことをしたつもりは無いのでなんだかむず痒い気分だ。
「クウー(アカリは頭良いからね〜)」
「お前も俺のことを褒めてくれるのか〜?ありがとうなクウ〜」
「何でクウの賞賛は素直に受けるのよ……」
マリナが無粋なツッコミを入れてきたがそんなものは無視だ無視。
せっかくクウが褒めてくれてるんだから、その言葉はありがたく受け取るに決まってるだろうが。
「それにしても、あの犯人も馬鹿よね。すぐ逃げればアカリくんに捕まることも無かったのに」
セルシー先輩の言う通り、あの男もすぐ町を出ていれば捕まることは無かっただろう。
ガイアントの群れ程度ならすぐ討伐もされるだろうに、なぜのんびり酒を飲んでいたのかは甚だ疑問だ。
「こんなに早くガイアントを退治出来ると思ってなかったんでしょ。私達も驚いたくらいだし」
「まぁ確かにそれはそうね」
「え?ガイアント程度なら、討伐もそんなに時間掛からないんじゃないですか?」
「……はぁ、たまにこういう発言するからほんとに自信無くすわ」
俺の発言を受けて何故かマリナはゲンナリしたように頭を抑えていた。
一体何故だ、ガイアントは数自体は多かったけど個々の強さは大したこと無かった気がするのだが。
「アカリくんは知らないかもだけど、ガイアントみたいに群れで行動する魔物は本来、複数の部隊で戦ってようやく半日以内に殲滅出来るレベルなのよ」
「へ、へぇー、複数の部隊で……」
セルシー先輩は何故か、同情するような視線で色々と説明してくれた。
お陰でようやく先程マリナが呆れていた理由が分かったのだが、今更遅かった。
「あなたはいい加減、自分のバケモノじみた強さを自覚しなさい!」
「ばっ、バケモノじゃねーって……!」
「いいえ、あなたはバケモノよ!普通戦ってる時は、あんな気味悪い笑い声上げないから!」
「ぐっ、そ、それはついテンションが上がっただけだろうが……」
マリナに指摘されて、俺は笑いながら魔道兵器の引き金を引いていたことを思い出した。確かにはたから見たら、狂気を感じてもおかしくは無いかもしれないな。
今後笑いながら戦うのは控えよう。
「それで話戻すけど、あの男はガイアントが倒されるまではまだ数日掛かると読んでた訳でしょ。ほんとにムカつくわね」
「あー、本来なら数部隊で半日ですからね。人を集める時間も考慮すると、まだ数日は余裕がある筈だったのか」
「えぇ、だから今日中にガイアントを殲滅し終えて、更に事件の原因を作った犯人まで捕まえたんだからアカリの功績は大きいってことよ」
通常数日掛かる案件をたったの数時間で片付けてしまったのだから、マリナ達が呆れるのも仕方ないかもしれないな。
久しぶりに暴れられるからと調子に乗ってしまった部分はある。それに魔道兵器の新しい使い方も見つけてしまった訳だし。
「今回はアカリくんの功績が大半を占めている訳ですし、一段落着いたら魔道兵器の特注生産を推薦してあげてもいいですわよ」
「いいですねそれ!アカリくん魔道兵器の使い方かなり荒かったから、頑丈な物でも造ってもらわないと毎回壊しそうだものね」
突然のシーラの提案にセルシー先輩が食いつく。
なぜセルシー先輩の方が楽しそうにしているのか。この人はあれか?魔道兵器とかマジカロイドとかが大好きな、そっち系のオタクなのか?
まぁセルシー先輩のことは置いておいて、特注という言葉の響には確かに惹かれるのだが、そんな特別扱いを受けていいのだろうか。俺は最底辺の五組の人間だぞ。
「その申し出は嬉しいですけど、ちょっと気が引けますね。なんか俺なんかには勿体ないみたいな……」
「何言ってるのよ、むしろ特注してもらわなきゃアカリじゃ毎回魔道兵器壊すでしょ。いいからありがたく受け取っときなさい、その報酬を受け取るだけの働きはしたんだから」
「お、おぉ……そこまで言うなら、じゃあ遠慮なくお願いするよ」
マリナの言い方はちょっとトゲトゲしいが、それでも俺のためを思って言ってることだ。ならここは素直に受け取っておこう。
それにせっかく特注で造ってもらえるんだから、色々と注文して魔改造するのも悪くないかもな。
「アカリくん、顔が不気味よ……」
「ぶっ、不気味は酷いですね。そこまで変な顔はしてなかったはず――」
「してたわよ。どうせ何か悪巧みでもしてたんでしょ……」
「なっ!悪巧みとは失敬な、俺はただ純粋にどんな風に造ってもらおうか考えてただけだっての!」
知らぬ間に顔に出てしまっていたのか、セルシー先輩とマリナに辛辣な指摘をされてしまった。
そこまで酷くは無いだろうに。
「はいはい、もう学園に着いたんだからアホな発言はそこまでにしなさいよ〜」
「アホじゃねーって!」
「あははっ、やっぱりアカリくんといると楽しいわね〜」
シーラにまで馬鹿にされて、思わず心からのツッコミを入れてしまった。
なんかどんどん俺の扱いが酷くなっていってる気がする……。
とまぁそんな感じで色々あった訳だが、こうして俺は無事マリナからの依頼を達成したのだった。




