一章 35.犯人は誰?
ガイアントの群れを殲滅し終えた俺達は、再びベェランドに乗車し町へと帰還していた。
ちなみにもう融合は解除済みで、クウは俺の膝の上で気持ちよさそうに眠っている。久しぶりに運動して疲れたのか、小さく刻まれる寝息が非常に心地良い。
「で、気になることって何?」
ベェランドに乗ってすぐ、マリナはそう尋ねてきた。
「そうだな……まず不思議に思ったのは、ガイアントは既に認知されている魔物だってのに、その報告が上がっていなかったことだ」
マリナに問い掛けられ、俺は気になっていたことを口にする。
「確かにそうね、私達は未知の魔物が現れたと報告を受けて来たけど、被害者にガイアントを知ってる人間が居なかったのは不自然ね」
「言われてみれば……ガイアントは生息地こそ限られてるけど、有名な魔物の一種だものね」
俺の答えにセルシー先輩とマリナは共感してくれた。
実際既に知られてる魔物を未知の魔物と勘違いするなんて、不自然極まりないからな。
仮に見た本人がその魔物を知らなかったとしても、情報を正確に伝えていれば、誰かが判明してくれる。
だが、それが出来なかったということは、誰かが作為的に情報を伏せた可能性が高いということだ。
「でも一体誰がそんなことしたの?」
「それはもちろん、今回の騒動を起こしてメリットのある人間に決まってるだろ」
「魔物が襲って来るのに、どんなメリットがあるってのよ」
確かに魔物が襲ってくることにメリットなんか無い。
だから魔物が襲ってきたのは、ある利点を得たが故の副作用の様なものだ。
「確かガイアントは元々、別の区域に生息している魔物なんだよな?」
「えぇ、そうだけど」
「わざわざ生息域を出て来た理由、それはな……誰かが奴らを刺激する様なことをしたからだよ」
ガイアントの暮らしていた生息域を刺激し襲われてまで欲しい利点、それは恐らく魔石だろう。
強い魔物からならより強い魔石が手に入る。そして、魔石を手に入れた奴はすぐにそれを売って大量の金を手に入れるはずだ。
なぜなら俺もそういう暮らしをしてきたからな。
「てことは、あの町に犯人が居るってこと?」
「ああ、因みにその犯人も既に見当はついてるよ」
今回の事件の犯人、それは既にセルシー先輩が見つけていた。
臨時収入が入ったとか言って、酒場で浮かれていたらしい商人だ。
おそらくはそいつが無理に魔石を手に入れようとしたせいで、ガイアントを刺激して生息域を拡大させたのだろう。
「犯人って誰なのよ?」
「もう町に着いたことだし、すぐに会わせてやるよ」
のんびり俺の考えを話していたらいつの間にか町に到着してしまったので、犯人の正体は一旦伏せておく。
いきなり会わせた方が楽しいしな。
「セルシー先輩が行った酒場はどれですか?」
ベェランドから下車した後、俺はセルシー先輩にどの酒場に入ったのかを尋ねる。
「あそこよ、あのちょっと古びたバーね」
「おー、いい雰囲気ですね」
バーは木造の建物で、西部劇にでも出てきそうな古風な雰囲気の店だった。
ただ扉だけはガラス戸できっちり閉められていたので、俺はドアノブを捻り押し開く。
耳障りのいいドアベルの音と共に、俺達はバーへと入店する。
「いらっしゃい」
「ん?おお、セルシーちゃん!え、もう仕事は終わったのか?」
「えぇ、優秀な後輩のお陰で楽させてもらえたわ」
店に入ると、無愛想なのか無表情な店主に歓迎された。
更にセルシー先輩は客の一人にも声を掛けられている。なかなか顔の広い先輩だ。
「ほほぅ、あのガイアントの群れを倒すたぁ若いのにやるじゃねぇかー。よしっ!なら今日は祝勝会ってことで、おじさんが一杯奢ってやるぜ!」
客のおっさんは気前よく、俺達に祝勝会と称して一杯奢ってくれるらしい。
はい、これで犯人の特定は完了。
「祝勝会?ははっ、何言ってんだ。それを言うなら、あんたの尻拭いに対するお礼の間違いだろ?」
「なっ!何だとこのガキッ!?」
俺の煽りを受けて、先程まで上機嫌だったおっさんは一瞬で顔を赤く染めて怒りを露わにする。
いや、顔色は元々赤かったか。
「ちょっ!アカリくん何言って――」
「なぁおっさん、魔物の巣を突っついて人様に迷惑かけて儲けた金で飲む酒は美味いか?」
俺の発言をセルシー先輩は注意しようとしてくるが、片腕を上げて俺はそれを制す。
説教なら俺の推測が外れた時に頼むよ。
「おっさん、あんたここ最近臨時収入が入ったらしいけどよ、それってどうやって稼いだんだ?参考までに俺に教えてくれよ」
「ふ、ふん!商売方法をおいそれと他人には話せねぇな……」
商人がどんな収入を得ようが、それは知ったことではない。
だがこの男に限って言えば、これだけ条件が揃っているなら怪しさは満天だ。
「そりゃ残念。じゃあもう一つ確認だ。ハチミツはそんなに儲かるものなのか?」
「ハチミツ?何言って――はっ、お、お前、どこまで知ってやがる……!?」
「どこまでねぇ……なら、一つずつ説明してやるか」
ハチミツというワードにおっさんは何か心当たりがあるのか、急に動揺を見せ始めた。先程まで酒の影響で火照っていた顔も、今では見事に冷め切っている。
いつまでも探り合うのは時間の無駄なので、ここらで俺の予想を全て語らせてもらおうか。
「まず最初に怪しいと思った点は、ハチミツ壺だ。町長曰くハチミツ壺を持っている奴が頻繁に襲われたらしい。だが、マリナは戦闘中常にハチミツ壺をそばに置いていたが、集中して狙われている様子は一切なかった」
ガイアントとの戦闘が始まってから、マリナは足元に例のハチミツ壺を置いていた。だが、ガイアント達はそんなマリナになど目もくれず、上空で戦っていた俺達ばかりを狙って来ていたのだ。
これでは町長の証言と話が食い違っているが、そもそも魔物とは本来魔力を多く持つ人間を襲う習性があり、あの場で一番魔力を持っていたのは俺なのだから、当然の結果ではある。
ならなぜ今回の事件では、ハチミツ壺を持った人間が多く襲われていたのか。それは、魔物の狙いがハチミツ自体では無かったからだ。
「ガイアントの狙いは、ハチミツ壺ではなくそれを持っていた商人の方だ。じゃあ、なぜハチミツ壺を持っている商人だけが襲われたのか。それはな、ハチミツ壺を持っている商人共が共同して危険域に踏み込んで、ガイアントの巣を刺激したからだ」
これは俺の想像だが、恐らく商人共は高額な報酬欲しさに目が眩んで、中、上位種の魔物の魔石を求めて危険域に踏み込んだと考えられる。
そうして入手した魔石は見つからないように運ぶ為、大方移動時に全員ハチミツ壺にでも潜ませていたのだろう。
だが、魔石を得る途中で誰かがガイアントの巣を刺激してしまい、その結果ハチミツ壺を持った商人が襲われるという報告が町長の耳に入ったのだ。
「そ、そんなこと俺は知らないし、仮にそうだとしても分かる訳ないだろうが……!」
「馬鹿かお前。お前が最近売買した物を調べればそれくらい簡単に分かるんだよ」
「なっ……だ、だとしても、それが証拠になる訳ではないだろ。売れたものに文句を言われちゃ、儲けてる商人は全員怪しいってことになるだろうが!」
俺の考えに対し、おっさんはただ黙っている訳もなく反論してくる。まぁ確かに収入の元を辿ったとしても、それが確たる証拠になる訳ではない。
だが残念ながら、おっさんがそう返してくることは計算済みである。だから俺は次の手札を切ることにした。
「なぁおっさん、何であんたは俺達が戦った魔物がガイアントだって知ってるんだ?」
俺達がこの店に入った時、このおっさんは確かにガイアントと口にしていた。
この町の町長ですら未知の魔物としか報告を受けていないはずの、先程戦闘を繰り広げて来たばかりで俺達しか知らないはずの情報を。
「ぐっ、このガキィ……!」
俺がそう告げた途端おっさんは明らかに顔色を悪くし、分が悪いと理解したのかみるみる表情を歪めていく。
どうやらこの勝負は俺の勝ちみたいだな。




