一章 33.無双ゲー
「で、その肝心の情報源なんだけど、そういった情報は基本的に居心地のいい酒場や雰囲気の良いバーに集まるものなのよ」
「おー、それっぽいですね」
セルシー先輩による情報収集の解説は今も続いている。現在はそういったものがどこに集まるかについてが議題だ。
酒場やバーとはなかなか男心を擽る情報源である。うちの部隊で行動することがあった時は、是非実践させてもらおう。
「それにしても、普段なら情報に釣り合う金額を払う必要があるんだけど、今日は随分と安く済んだのよねー」
「へぇー、そうだったんだ。何でなの?」
セルシー先輩の呟きにはマリナも気になったのか尋ねてくる。
「どうも今日話を聞いた被害者が、最近稼ぎのいい仕事をしたらしくてね、酒場で豪遊してたから結構目立ってたのよ」
「臨時収入ってこと?」
「そう、何でも魔石が高く売れたとかどうとか言ってたわね」
「ふーん、そんなこともあるのね……」
マリナとセルシー先輩は雑談感覚で話していたが、俺はその内容に何か引っ掛かるものを感じた。
はっきり何とは言いきれないが、喉元から出そうで出ないむず痒さがある。この違和感は何だろうか。
「そろそろ現場へ到着しますわよ」
「はーい、いよいよ戦闘ね!」
「了解です。久しぶりだから腕が鳴るわ」
セルシー先輩達に確認して違和感の正体を払拭しようと思ったが、それよりも早く現場に到着してしまった。
残念だがこの疑問は今は置いておいて、まずは魔物狩りに集中だな。
「やるぞクウ、久しぶりの実戦だ!」
「クウ!(楽しみー!)」
クウも俺の肩の上で力強い鳴き声を上げ、気合いは十分だ。
今回の面子は俺の正体を知ってる奴ばっかりだから、建前上多少は隠す必要はあるが、それでも思う存分暴れられる。
内心久しぶりの戦闘にワクワクしつつ、現地に到着した俺達はそれぞれべェランドから下車していった。
「うーん、特に魔物らしい影は見当たらないわね」
「えぇ、今は夕方だから特別夜という訳でもないし……」
現場に下りたセルシー先輩とマリナは、周囲に魔物が居ないことを不思議に思っている様子だ。
確かに話では突然夜になったりとか聞いていたが、それっぽい雰囲気も皆無だからな。
マリナが手に持っているハチミツ壺も、今のところ役には立っていない。
ただ、それは目視した限りの情報のみでだ。
マリナ達は気付いていないようだが、クウ、俺、シーラはその不穏な気配をいち早く捉えていた。
「クアッ!(来るよ!)」
クウがそう注意する様に鳴いた途端、どこからともなく無数の羽音が聞こえだし、俺達の頭上は一瞬にして夜が支配した。
だが、この夜は魔法等による攻撃では無い。これは圧倒的な物量によって、一時的に空が影で支配されているものだ。
「やっぱりな、俺の予想が正しかった……!」
俺達の上空に突如として現れた無数の魔物の正体、それは黒光りする頑丈そうな外皮を身に纏った、羽の生えたアリ型の魔物だった。
「うそ……あれってガイアント!?」
「ガイアントは中位の魔物で、三年生の管理する区域にしか居ない筈なのに、何でこんな所に居るわけ!?」
予想外らしい魔物の登場に、マリナとセルシー先輩は驚き声を荒らげている。
まぁ確かに中位クラスの魔物が大群で押し寄せてきたら気持ち悪いし、その反応も仕方ないだろうな。しかも虫だし。
「「「ガアァァァァァア!」」」
ガイアントと呼ばれる魔物は、奇妙な鳴き声を上げながら俺達を狙って急降下してくる。
どうやらのんびり打ち合わせをしている暇も無さそうだ。
「これだけ数がいれば、外すこともねぇな!」
俺は腰のホルスターから素早く魔道兵器を引き抜くと、空から飛来してくる無数のガイアント目掛けて魔弾を放った。
今回レンタルした魔道兵器は、前回の試験同様ハンドガンタイプの「セルフ」にしてある。なんだかんだで愛着が湧いてきてしまっていた。
狙いなど定めず適当に撃ちまくるだけだったが、それでも空を埋め尽くす程の数の魔物がいるのだから外すわけが無い。
「「「ガギィィ……!」」」
俺の予想通り何匹かのガイアントは俺の放った魔弾の餌食となり、地面に落下し魔石へと化す。
生き残ったガイアント達もこちらの危険性を理解したのか、襲うのを止めて一旦は上空へと避難しだした。
「やるわねーアカリくん」
「いや、こんなの誰でも当てれますよ」
「確かにそうね、でも問題はこの後よ。恐らく奴らは、次はもっと警戒しながら攻めてくるわ」
「ただの的相手じゃつまらないし、それくらいが丁度いいわよ」
いつの間にか冷静さを取り戻していたマリナとセルシー先輩は、既にそれぞれ武器を手にしていた。
マリナは当然魔剣を持っており、セルシー先輩は長距離狙撃用の魔道兵器「ロングラー」を構えている。飛んでいる魔物相手に、マリナの魔剣は役に立つのか?
「にしてもこの数は厄介よね。全部倒すのに何時間、いえ何日かかるのよ……」
「その前にお互い魔力切れ、魔弾切れを起こすと思うけど」
「う、確かに……」
俺が先行して数匹仕留めたとはいえ、空には未だに光を遮るほど無数のガイアントが飛んでいる。このまま何も手を打たず戦っていれば、長期戦は確実だ。
「のんびり戦ってる暇はないか。クウ、一緒にやるぞ!」
「クウ!(やっと出番だね!)」
俺の呼び掛けにクウは嬉しそうに返事をしてくる。
クウにはここ最近退屈な思いばかりさせてしまっていたからな。ここらで思いっきり羽を伸ばさせてあげよう。文字通り翼をな。
「こいクウ!」
「クアッ!」
俺は右手に装備しているモンスターガントレットを天へと突き上げ、そこにクウを呼ぶ。
クウが俺のガントレットに触れた瞬間、周囲に眩い閃光が煌く。そして光が消えた後に残ったのは、クウと融合した俺の姿だけだ。
「な、なんなのいきなり……!?」
「セルシーも日記を読んだんだから知ってるでしょ。あれが融合よ」
「融合!?え、でも融合って確か魔獣とするんじゃ……あっ!じゃあクウちゃんって魔獣だったの!?」
あ、クウが魔獣だということがバレてしまった。てか隠してたのも忘れてたな。
まぁセルシー先輩は俺の正体も既に知ってるんだし、今更隠す必要も無かったか。
「さーて、久しぶりに暴れるぞクウ!」
『クウー!(やるぞー!)』
そう宣言すると同時に、俺達は天高くで様子見をしているガイアントの群れ目掛け全速力で飛翔した。
現在俺は大き目のローブを着ている為、翼や右腕などの融合している部位は隠してあるが、その状態でも飛行に影響は無い。
というかそもそも、片翼だけで飛んでいるというのがまず不自然極まりないしな。なんで飛べてるかは知らないが、翼は広げてなくても問題は無い。
「うらぁ!」
「ガギィィ……」
蹴って、殴って、また蹴り落とす。
一瞬で群れの中に侵入した俺達は、四方八方を飛び交っているガイアントを片っ端から殴り倒していく。
さながら今のこの状態は、無双系ゲームを実体験している気分だった。
「おらおらぁ!こんなもんかありんこ共!」
「「「ギィィ……」」」
ガイアントは力無い声と共に、次々と地面へ落下し魔石へと変化していく。
中位の魔物だからどれだけ強いのかと思ったが、拍子抜けする程に弱かった。はっきり言って下位と中位の強さの違いが全く分からない。
「何あのデタラメな戦い方……」
「あれが魔王の強さよ。アカリの本気はまだまだこんなものじゃないんだし、早めに慣れた方がいいわ」
「はは、全然慣れたくないけど、きっとそれが最適解なのよね……」
「ともかく私達も参戦するわよ!」
「えぇ、これ以上後輩ばかりに手柄を取られる訳にはいかないものね!」
下でマリナ達が何か話してるかと思ったら、次の瞬間にセルシー先輩の魔弾が飛んできた。
先輩の狙撃は不規則に飛ぶガイアントの眉間を見事に貫いている。こんな状況で狙い撃ち出来るとかバケモノかよ。さすがは推薦組だな。
「俺達も負けてられねぇなクウ」
『クウ!(全部倒すぞー!)』
俺達もセルシー先輩に続くようにガイアントを次々と倒していく。
こうして、ガイアント戦は更に激しさを増していくのだった。




