一章 32.情報の擦り合わせ
町長に案内されて役場の一室にやって来た俺とマリナは、そこで魔物に関する情報を入手した。
曰くその魔物は、翼を持っており普段は上空にいるせいか姿を見せないが、食事時になるとどこからともなく突然襲ってくるらしい。
その食事の対象とはもちろん人間のことで、既に何人も被害に遭っているそうだ。
「マリナ、今の話で何か心当たりはあるか?」
「そうね……飛ぶことの出来る魔物だと、下位魔物のボーンバットかスポイーグル辺りが居るわ。後は中位にも似た系統の奴らが居るけど――」
「残念ながら、それらの魔物とは特徴が一致しておりませんね」
俺の質問にマリナはいくつか心当たりのある魔物の名前を上げたが、町長はそのどれとも違うと首を横に振る。
ただ、マリナ自身も何となくそれは予想していたみたいで、特に驚いた様子はない。
「その魔物は他にどんな特徴があったんですか?」
「他は……あっ!確か体は羽毛などの毛ではなく、甲殻類の様に硬い外皮で覆われていたそうです!」
「甲殻類みたいに硬い皮膚をしてて、更に飛べる魔物……それってもしかして鳥じゃなくて虫とかか?」
魔獣なら、似たような特徴を持つ仲間が俺の中には何匹かいた。
魔物と魔獣は生物としては全くの別物だが、恐らく特徴は間違っていないはずだ。
そう思っての発言だったのだが、マリナと町長の反応はイマイチだった。
「うーん、確かに虫系統の魔物も居るにはいるけど、この辺りだと大きくても手のひらサイズ程度で、強さも下位までしかいないのよ。」
「はい、私も虫では無いと思います。虫系統の魔物は基本森でしか暮らしておりませんからな」
「えぇー、まぁ二人が言うならそうなのかな……?」
俺は絶対に虫関係の魔物だと思ったのだが、俺よりも遥かに魔物の知識が豊富なこの二人がそう言うんだから、きっと違うんだろう。
まだ腑に落ちない部分はあるが、それでも一旦は納得しておくことにする。
「では私達の方でもその魔物を探してみます」
「ありがとうございます。それでしたらこれをお持ち下さい」
一通り魔物の情報は仕入れたのでこの場を後にしようと立ち上がった時、町長はある物を取り出してきた。
「これは?」
「ハチミツでございます。襲われた者達は皆これを持っておりましたので、何かの役に立つのではと思いまして」
「なるほど。そういうことでしたら、有難く受け取らせてもらいますね」
どうやら襲われた人達は、特徴として全員ハチミツを所持していたらしい。
魔物は魔力を栄養にしている生物なので、ハチミツをエサにすることは無いはずだ。だから何故それを狙っているのかは分からないが、それでもこれはきっと何かのヒントになる可能性はあるだろう。
「では町長、私達はこれで」
「はい、町の安全をよろしくお願い致します」
町長と最後に軽く挨拶を済ませた俺達は、役場を後にした。
「お二人共、ご苦労さまですわ」
「おぉシーラ……先生、今までどこ行ってたんですか?」
危うくシーラと呼び捨てしそうになったが、そこはギリギリ踏ま留まった。
とまぁそれは置いといて、今まで彼女はどこに行っていたのだろうか。
「わたくしはべェランドを駐車場に止めておりましたわ」
「ああ、確かに放置しとく訳にもいかないか。でも生徒だけに情報収集させるってのはどうなんですか?」
「それは気にしなくていいのよ。元々こういった警備活動は生徒が主体となって行うもので、先生はもしもの時の為に着いてきているだけだから」
「へぇー、そうだったのか」
教師は常に行動を共にするものだと思っていたが、どうやら区域の警備は生徒達が主導で行っているらしい。
こういった知識はまだ習っていないから勉強になるな。
「それで情報収集は上手くいきまして?」
「まずまずですね、後はセルシーの結果次第ですけど――」
「お待たせ皆ー、タイミングはバッチリみたいね」
マリナがそう口にしたのとほぼ同時に、セルシー先輩が姿を現した。
見事にちょうど話題に出したと同時に現れたので、少し気味が悪い。
「どうせ狙ってたんでしょ?白々しい……」
「ちょっ、狙ってた訳ないでしょ!変なこと言わないでよ」
鮮やかな登場から一転し、顔を赤くして抗議するセルシー先輩は何とも残念な雰囲気が漂っていた。あの反応から察するに、やはり図星なんだろうな。
反論しながらチラチラと俺の方を見てくるので、もしかしたら後輩の俺にいい格好をしたかったのかもしれない。そう考えると少し可愛く見えてくるから不思議だ。
「あなた達いつまで言い争いをしてるのですか?早く情報を整理しますわよ」
「「ご、ごめんなさい……」」
いつまでも口喧嘩をしている二人をシーラが止めに入った。
シーラもちゃんと先生をしてるんだな。昔と比べると見慣れない光景だ。
「で、そっちでは何か良い情報は手に入ったの?」
「ふふ、当たり前でしょ。私を甘く見ないでよね」
マリナの問に対し、セルシー先輩はドヤ顔で胸を張って主張する。これはかなり期待出来そうだ。
「そうね、私が仕入れた情報だと、今回の魔獣はどうやら結構な数が居るらしいわよ」
「ふむ、まぁ魔物が集団で行動するのは当然よね。他には?」
「そうねー後は……あっ、確か襲われた人からの情報なんだけど、襲われる直前に何故か辺りが夜になったらしいわ」
「夜?それはちょっとよく分からないわね……」
セルシー先輩の持って帰ってきた情報は、集団で行動することと突然夜に変化すること。
この夜になるというのが厄介だな。もし魔物が魔法の類を扱えて昼と夜を自在に操れるのだとしたら、相当な使い手であることが伺える。
これは俺も切り札を使う必要があるかもしれないな。
「私もよくは分からなかったけど、襲われた人の証言だから信用は出来ると思うわよ」
「そうね、詳細は不明なままだから全員頭の片隅には入れておくように。さて、それじゃあそろそろ現地へ向かいましょう」
「おっ、ようやくか!」
「腕がなるわね〜」
ここで頭を悩ませ続けても事態が解決する訳では無いので、マリナの指示で俺達は現場へ出発することとなった。
移動の為に一同は再びべェランドに乗車する。
――
べェランドに乗って移動を再開してから数分が経過した。
襲撃されたという地点は町からまた少し離れているので、もうしばらくは暇な時間が続く。
「そう言えばセルシー先輩はどこで情報を仕入れて来たんですか?」
ふとセルシー先輩の情報収集源が気になったので、この時間に聞いてみることにした。
「おっ!なになにアカリくん、お姉さんの秘密が気になるの〜?」
「あーいえ、そこまで気にはならないのでやっぱいいで――」
「仕方ないわねー、そんなにどうしてもって言うなら、この優しい先輩が情報の集め方を伝授してあげるわ!」
なんか面倒臭い反応をされたので断ろうとしたがもう遅かった。
セルシー先輩は何故かノリノリで、俺に解説を始めてくる。これは厄介なものに触れてしまったのかもしれないな。
「いい?情報っていうのはね、お偉いさんの所に全てが集まる訳じゃないのよ」
「ん?どういうことですか?」
「情報というのはそれだけで価値のある存在なの。そんな貴重なものをタダで配るなんて勿体ない真似、この世界の人間は誰一人としてしないわ」
セルシー先輩の言うことを整理すると、情報とはすなわち貴重な資金源らしい。
確かにその理論は間違ってはいないが、自分の身に再び危険が迫るかもしれないというのに、そこまで隠すべきことかは疑問である。
「じゃあセルシー先輩は、そういった隠し持っている情報を集めてたってことですか?」
「鋭いわねアカリくん、そういうことよ!」
俺が理解したことが嬉しいのか、セルシー先輩は楽しそうに笑顔を見せる。
そんな笑みを見せられると、俺も悪い気はしなかった。
そうしてその後も、セルシー先輩による情報収集講座は続く。




