八章 41.種明かしと新たなる戦場
氷の魔人を打破した女性陣五人は、現在リリフィナの噴射する炎を囲って暖を取りながら、先の戦いについて色々と腑に落ちなかった点を話し合っているのであった。
「それで、まずあなた達はどうやってあの魔物の群れを討伐してきたのですが?」
早速バレリアが、まずどうやって魔物の群れを倒したのかを尋ねてきた。
実際トリーリアとネネティアだけでは、足止めは出来ても討伐自体は不可能という戦力差があったのだ。だというのにその事実を覆し全てを殲滅しきったことが、どうにも腑に落ちないといった様子である。
「それを話すには、まず私のテンスの話からしないとですね」
「……ああ、運値のこと?」
「うんちって言わないで下さい!」
バレリアの問いに答える為には、まず自身のテンスの説明をする必要があるとネネティアは答える。
シンリーの森に同行していたリリフィナは、そこでミュレインが見抜いた運値のことを思い出した。しかしそれはミュレインが勝手に命名したものであって、ネネティアは全く認めていなかったた為強く反論する。
「うんち?一体何の話をしているのですか……?」
「ネネティアちゃんのテンスっていう特殊能力の話だよ。ネネティアちゃんは自在に運を操作出来る能力を持ってるらしくて、今回はその幸運に助けられたんだ」
「んふんっ!はい、その通りです。私は運を操作出来るので、超幸運になることであの逆境も跳ね返したという訳です」
「な、なるほど、運を操れるですか。それは凄い力ですね……」
運値という単語の意味が分からず困惑するバレリアに対しトリーリアが説明し、そこへネネティアが息を整えた後更につけ加える。
実際氷の魔人もただの運のみで見つけたので、その力が本物であることは十分に実証されていた為、彼女も素直に感心し認めるのであった。
「……でも、ネネティアはいつテンスを使えるようになったの?まだ制御できてなかったでしょ?」
「はい、実際私が使いこなせるようになったのはついさっきのことです。それまでは初期設定の運最低値だったので、極限の不幸状態のままでした……」
「初期設定は最底辺の不運なのですか?それはそれで難儀な能力なのですね。しかし、でしたら何がきっかけで使いこなせるようになったのでしょうか?」
「恐らくは過去のトラウマが甦ったからでしょう。私には自分の不運のせいで、魔物に家族を皆殺しにされた過去があります。その過去が今回の戦いで連想されて、もう二度とあんなことを繰り返したくないと強く願い、その結果能力を操れるようになったのだと」
リリフィナとバレリアにテンスを使えるようになった理由を尋ねられたネネティアは、自分の過去を語りそしてその思いからテンスを克服出来たことを語った。
辛く悲しいか過去があり、その記憶がフラッシュバックしたからこそ、同じ思いはしたくないという強い気持ちがテンスを使いこなす為の一助となったのだ。
「それで凄かったんだよネネティアちゃん。武器を爆撃用のに変えると、魔物の群れの中心に砲撃を初めてたんだ。そしたらあいつらのいた所の真下がちょうど大きな空洞になっててさー、氷の大地が陥没して全員その下に落ちていっちゃったんだよー!」
「本当に、運の良い勝ち方でした……」
「なるほど、しかしだからこそ使いこなせた時の効果は抜群ですね。最早ネネティアさんに敵はいないのでは?」
「……うん、今のネネティアは最強」
そしてどうやって魔物の群れを討伐したのかは、トリーリアが非常に興奮した声音で力説してくれた。その戦いの模様は正に運がいいからこそ成せたものであり、そこに運値の真髄がありありと感じられる。
「それじゃあネネティアがいれば、この寒い所からも上手く脱出出来そうだね」
「確かにその通りですね!頼りにしてますよネネティアさん!」
「は、はい、期待に応えられる様に頑張ります……」
ドロシーがポツリとそう呟くと、バレリアは大いに賛同してきた。そのテンションの上がりようにネネティアは若干引きつつも、取り敢えずは頷いておく。
ともあれそうして、氷の魔人との戦闘を終えた五人は十分に暖を取ると、そのまま氷河地帯脱出に向けて動き出すのであった。
――
爽やかな草がなびく平原。そんな穏やかな大地で戦闘に身を委ねるのは、星の魔人と溶岩の魔人、空の魔人だ。
三名の魔人が奏でる戦いの主旋律は、静かな草原には相応しくない酷く荒々しいものであった。
「燃え尽きやがれぇ!」
「吹き飛ぶぜよ!」
大地から豪快な溶岩を噴火させ豊かな草原を荒らしつつ攻めるガンマと、天から暴風を吹き荒れさせ草花を散らすカイジン。両者の強烈な一撃は、一身に星の魔人目掛け放たれるのであった。
「あらあら、随分と豪快な攻めねぇ。そういうやんちゃなところ、嫌いじゃないわよ〜!」
しかし、どれだけ攻撃を浴びせようとも星の魔人は微動だにせず、二人の攻撃を受けても余裕の笑みを浮かべている。
防御の姿勢などみせることは一切なく、身体の至る所に擦り傷は作りつつも、どれも致命傷からは程遠かった。
星の魔人は、ガンマ達から放たれる攻撃をとても幸せそうに受け、この戦いをこの上なく楽しんでいるといった様子である。
彼の浮かべる醜悪な笑みは、ガンマとカイジンの背筋に恐怖の冷や汗を流させ、怖気から身震いを禁じ得ないものであった。
「んとに化け物みたいな耐久してんなこいつ……!」
「あしらの攻撃を受けてここまで微動だにしないとは、並大抵の敵では無いぜよ」
「どうやってこいつの耐久を崩すかが問題だな。今は何もしてくるつもりは無いみたいだが、攻撃に転じたら厄介だぞ」
「うむ、そうなる前に致命傷を与え、早めに勝負を決なければならんぜよ」
星の魔人の異様な耐久性にガンマとカイジンは思いの外手こずってしまっている。その上そこから敵が攻撃を始めれば、勝てる道筋はどんどん狭くなってくことを二人は理解していた。
だからこそ、まだ相手が戦いを楽しんで手を抜いているこの隙に、どうにか決定打たる致命傷を与えなければならないのだ。
「とにかく何がなんでもやるしかねぇ。お前が陽動で俺が本命だ、いくぞカイジン!」
「承知したぜよ!」
機動性の高いカイジンが星の魔人を翻弄し、その隙に火力の高いガンマが全力の一撃を叩き込む。そんな風に簡単に作戦を決めた二人は再び攻撃に転じるのである。
そして、そんな魔人同士の戦いとは別に、この平原に飛ばされたアカリの仲間達もまた、現在とある人物との戦いに苛まれていた。
その男の名はマルク・ブレイディア。勇者一族本家の長男にして、魔王を倒すという一族の悲願に呪われた一人である。
「マルク様、今度はあなた自身がその力を使うんですね……」
「ああ、弱い貴様では魔王を倒すには至らなかった。ならばやはり、魔王はこの俺の手で自ら倒す他ない。その為に俺は、この聖剣を手に取ったのだ」
「それは、闇の聖剣は危険過ぎる。そのことを身をもって理解しているからこそ、ならばあなたを止めるのは僕の役目だ!」
「来い、貴様を倒しその暁に俺は魔王を必ず斬る。その為の前座として死んでもらうぞセロル!」
マルクと対峙しているのは、同じく勇者一族の血を引く少女セロルである。
彼女は今マルクが手に取っている剣、闇の聖剣によって命を失う程の悲劇に見舞われた。そんな彼女だからこそ、マルクを止めるべく己の剣を引き抜く。
この戦いに勝つことこそが、今の自分の使命であることを強く確信した様なその瞳と共に。
「良い覚悟でちね。力を貸すでちよ」
「ありがとう聖剣様。助かるよ」
「うん、一緒に頑張ってあの馬鹿を止めるでち!」
そんなセロルに寄り添い隣に立つのは、幼女の姿をした七色の聖剣である。未だ本来の力を手に入れることが出来ていない幼女でも、封印能力は健在だ。
幼女はセロルをサポートし、闇の聖剣とマルクに立ち向かうことを決める。
「俺と妹も協力する。後ろは気にせず自由に突っ込め」
「えぇ、必ずお背中はお守りしますからご安心下さい」
「ガゼルの御先祖様達もありがとう!」
そして、アカリによって蘇らせられたゼクシリアとメルフィナもこの場に飛ばされており、二人は後衛からセロルを支えるから安心して突撃する様促してくる。
こうして頼もしい仲間達を従えたセロルは、因縁の相手であるマルクと闇の聖剣を相手に対峙するのであった。




