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八章 27.決戦の幕開け

 虚無の魔人の襲来により、仲間達は散り散りに分断された。クウが居ないこの状況では探しに向かうにも時間は掛かるし、そもそもこの魔人を放置してどこかへ行くなど不可能に近い。

 ならば今俺がすべきことは、この魔人と戦い勝つことだ。他の皆もきっと上手くやってくれるだろうと、それだけを信じて。


「しかしこっちの要望通り場所を変えてくれるとは随分と優しいな。どういう風の吹き回しだ?」

「あははは、僕だってそんな無慈悲な魔人じゃないからね。死に場所くらい選ばせてあげるさ」


 俺達は現在、アルテラの街を少し離れた荒野へと移動している。あのまま出会ってすぐ戦闘かと思ったが、こいつは俺の要望を聞いて戦場を移動してくれたのだ。

 何が狙いかは知らないが、あのまま街で戦いを始めてしまえば再び剣舞会騒動の二の舞となる。だからここは素直に助かったと言っておこう。


「移動してくれたのはありがたいよ。でも別に、死に場所を選ぶ為に移動した訳じゃねーからな。俺達はお前を倒す為に、今日まで準備を進めてきたんだ」

「ふーん、そうなんだ。どうやら無駄な足掻きをしているみたいだね。ならその努力もすぐ無に帰してあげるよ!」


 戦場へももう到着しているので、これ以上の会話は不要とばかりに、虚無の魔人は緑色に輝く巨大な鎌を出現させ、それを思いきり振り被り振り回してきた。振り抜いた鎌の刃は空を斬る刃となり、三日月状の斬撃痕を空に描きつつ向かってくる。

 とうとう虚無の魔人との決戦が幕を開けた。


「この程度の攻撃なら、避けるまでもないな」


 俺は迫り来る刃を前にして、避ける素振りなど見せず真正面から受けきってみせた。

 全ての魔獣の力を手に入れた俺は、今やどんな攻撃にも対抗しうる術を持っている。全身に強力な外皮を纏う魔獣と融合すれば、雑な攻撃ではビクともしない強靭な体にすることも出来るのだ。


「ん?おかしいな。また空間能力で移動するかと思ったから、それを見越して攻撃したのに……」

「言ったろ、こっちも備えてるって。以前までの俺と同じだと思ったら、痛い目見るぜ!」

「なるほど、これは一筋縄ではいかなそうだね」

「今度はこっちの番だ。喰らえ……、豪炎!」


 俺の変化を前にして、虚無の魔人は羅針盤の上から不敵な笑みを一瞬崩す。

 俺はそんな奴に向けて右手を向けると、そこから轟々と燃えたぎる灼熱の炎を噴射した。竜系魔獣のブレス、そしてマイラの火炎放射を合わせた最大級の豪炎だ。まともに受ければ、いくら魔人と言えど骨も残さず塵へと還るだろう。


「うはー、これは凄い炎だ。危ない危ない、まともに受けたら僕でも死んでたかも。火力なら炎ちゃんと同威力かな?」

「ちっ、平気な顔して焦ってんじゃねーよ。慌てるんならもっとそれに見合った顔しやがれ」

「ごめんごめん、僕って感情表現が苦手でさ」


 灼熱の豪炎は確かに虚無の魔人のいた空中を焼いた。だが、奴には超高速で発動する空間能力がある為、こちらの攻撃など楽々と回避されてしまう。

 やはり虚無の魔人にこちらの攻撃を当てるには、隙をついた攻撃とそして何よりクウのアシストが必須である。


「ふむ、本当にアカリくんも強くなってるみたいだね。なら僕も多少は本気を出さないと、少し危なそうだ」

「本気だと?」


 俺達が前回とは段違いのレベルで強化されていることを悟った虚無の魔人は、ようやく真面目に戦う気になったらしい。つまりは、ここからが本当の戦いという訳だ。


「前回の戦いの時、僕は体力を回復する為に能力を併用していたでしょ?今度はそれを攻撃にも応用するんだよ」


 虚無の魔人の本気、それは能力の併用だと言う。それはすなわち、俺と戦闘スタイルが同じということだ。俺も魔獣達の能力を何重にも掛け合わせて、その力を増幅させている。用はそれを奴もやると、ただそれだけのことだ。


「なるほど、そういうことか。でもいいのかよ?敵に手の内を最初に明かして」

「うん、全然問題ないよ。だって知っていたってどうせ対処なんか出来ないから」

「舐めやがって、そういうことは勝ってから言え!」

「勝つさ、だって僕は世界を統べる最強なんだからね」


 生意気な言動を崩そうともしない虚無の魔人に苛立ち、俺は真正面から突撃した。

 こいつには銀粉による超高速の空間移動があるのだから、下手に裏をかこうとしても意味は無い。クウの居ない現状ならば、回避しきれないほどの攻撃密度によって奴を圧倒するのみである。


「吹き飛べ虚無の魔人!剛腕!」

「うわぁ、アカリ君の腕が面白いくらいに巨大化してる。それどういう仕組みなの?」

「ちっ、避けやがったか。ジロジロ見てんじゃねぇよ……!」


 俺は正面から巨大化した腕を渾身の速度で叩き落としたのだが、それは易々と回避されてしまった。しかものんびり観察する余裕すらもあるとは、本当にムカつく野郎だ。

 俺の剛腕は腕力に自身のある、近接戦闘主体の魔獣を複合させた合成腕なのだが、それだけでは速度が足りなかったということか。


「なら今度は速さで勝負だ。加速!」


 今度はライチの子孫や、高速で飛び回る虫型の魔獣イビル等、その他足の速い魔獣と融合し俺自身の素早さを極限まで高める。俺の速さが奴の空間移動速度を上回れば、こちらの攻撃も回避は難しくなるだろう。


「おぉー、今度は物凄く速くなった。まるで羽虫みたいだね、あははははっ」

「この野郎……、遊んでられるのも今のうちだ!」

「うんうん、素早い動きからの高速蹴りかー。なかなか良い攻めだね。でも残念ながら簡単に防いじゃったけど」


 余裕の表情を崩さない虚無の魔人目掛け、俺は最速の蹴りを叩き込んだ。だがそれは、奴が目の前に出現させた茶色く濁った魔石の壁によって阻まれる。

 魔石の壁は想像以上に頑強で、俺の蹴りでは微かにヒビが入る程度であった。速度にステータスを全振りした為力が不足していたとはいえ、それでも速さの乗った蹴りは十分な威力を発揮するはずである。だと言うのに止められたということは、その壁がどれだけ強靭であるかを物語っていた。


「だがな、これで終わりじゃねぇんだよ。打尾!」

「ぐおぉっ!?な、なんだぁ……?」


 茶色い魔石の防壁で俺の初撃は防いだつもりだろうが、その後の追い討ちには気づくこともなく無様にもその一撃を奴はくらった。

 打尾は、魔獣の尻尾を結集させて振るう殴打の攻撃であり、防壁の横をすり抜けてそれを虚無の魔人の腹目掛け振り抜いたという訳だ。

 正面の攻撃は防げても真横からの奇襲には気付くのが遅れ、奴もとうとう攻撃を受けたのである。


「はっはっは!ようやく良い一撃が入ったなぁ!」

「なかなかやるねアカリ君、まさかそんな攻撃が飛んでくるだなんて、完全に予想外だったよ……」


 打尾を受けて大地を転がった虚無の魔人は、俺の尻尾を見て心底驚いた様な顔をしていた。人間の体から生える、禍々しく蠢く複合獣の尻尾が珍しいのだろう。

 実際こんな姿は、俺と本気で戦い合える奴しか見ることが出来ないだろうから、貴重な一瞬だ。


「もしかしてアカリ君は、人間を捨てたのかな?」

「別に人間を捨てたつもりはねぇよ。俺は魔獣と心身を共有し生きることが出来る、唯一無二の存在ってだけだ」

「へぇ、それがアカリ君の力か……。いいね、益々欲しくなったよその力、絶対に奪ってみせるから!」

「冗談じゃない、絶対に渡すかよ!」


 他者の能力を奪うことが出来る虚無の魔人は、その能力故に他人の持つ力には敏感であった。奴が今最も欲しているものは、俺のテンスと魔獣達の力である。複数の力を持つことが出来る奴にとっては、俺という存在は能力の群生地という訳だ。

 だが、奴にとってはただの能力の集まりだとしても、俺にとっては皆一匹一匹大切な仲間達なのだから、絶対に渡す訳にはいかない。仲間達を守る為にも、俺は負けられないのだ。


「さぁアカリ君、もっともっと戦おう!勝った方が相手の持つ全てを奪えるんだよ!」

「上等だ、お前に勝って、お前が奪った能力全て、そして世界の全てを取り返してやる!」


 勝者が全てを手にする。

 こうして俺と虚無の魔人は、賭け事なら負ければ全損という、一世一代の大勝負を繰り広げるのであった。


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