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八章 14.乱入者

 ビル一階にある正面入口へと降り立った俺達はそのまま中へ入ろうとしたが、そこですぐ警備員に止められた。まぁ入館証も入館の予約もしていないのだから、当然の話だ。ここには区長もいるのだし、警備も当然手厚いのだろう。


「本日は当館へはどの様なご用でしょう?」

「シュナーベル区長に会いに来ました。アカリ・リーシャンが来たと伝えてもらえますか?」

「申し訳ございません。事前に御予約のない方をお繋することは出来ませんので、お帰り頂きますようお願い致します」


 警備員のお兄さんは丁寧な言葉で応対してくれたが、しかしその目は全く笑っていなかった。暗に、お前みたいな小汚い奴を通す訳ないだろとか、区長がお前みたいな怪しい奴と会う訳がないだろみたいな念が伝わってくる。

 これは正面から正式に入るのは難しそうだ。こっそりと忍び込む手法に変えるべきか。


「あれ?アカリお兄ちゃん?どうしてここにいるのー?」

「ん?おおルトリィか、久しぶりだな」


 真正面からの入館は諦めようかと思ったその時、建物の奥から一人の少女が現れた。区長の次女で、少し前に迷子になっていた時一緒に遊んであげたこともある、あのルトリィである。


「区長に会いたいんだけど、ここ通してもらっていいか?」

「パパに用があるの?分かったー」


 ちょうどいいタイミングでルトリィに出会えたので、そのまま中へ通してほしいと頼み込んだ。いかに警備員と言えど、区長の娘が入館を許可した客人を通行止めなど出来まい。

 彼は明らかに不機嫌になりながらも、仕方ないという様子で俺達の通行を許可してくれた。


「久しぶりだねお兄ちゃん!パパとの用事が終わったらまた遊んでくれる?」

「そうだな、落ち着いたらたっぷり遊ぼうか」


 ルトリィや区長らと最後に別れたのは、俺がメルトの世界へ行く前だったか。となるともう一ヶ月以上も経っているので、久しぶりだというのも頷ける。彼女は俺と遊びたそうに手を握ってきたが、今はゆっくりしている時間は無いのでそう答えておいた。

 何だかんだで迷子の相手をしていた時は楽しめたから、また街に買い物にでも出掛けたいところだ。


「魔王様、この馴れ馴れしい子供は何者ですか?」

「区長の娘だよ。こうして無事に入れたんだから、下手に噛み付くなよ?」

「承知致しました……」


 手を繋いで幸せそうな笑みを浮かべているルトリィに対し、バレリアが呪い殺しそうな程の視線で睨みつけていた。今は目元深くまでフードを被っていることもあってか、凄みがいつもより増している気がする。

 流石に手を出すことは無いだろうが、それでもこんな幼い子供にまで嫉妬心を燃やすのはどうかと思うぞ。


「そういやルトリィは何してたんだ?一人でぶらついてたらまた迷子になるぞ」

「だってー、パパ達仕事の話ばっかでつまんないんだもん」


 どうやら家族が仕事で忙しい為、退屈だからとまた抜け出してきたしい。そんなしょっちゅう脱走していたら、いつか本当に取り返しのつかないことになりそうで、俺まで不安になってくる。


「仕方ない奴だなお前は。しかし自分の家でも仕事の話をしてるとは、区長も忙しいんだな」

「何言ってるのアカリお兄ちゃん?ここは私達の家じゃなくて仕事の為の建物だよ」

「えっ?ここが区長の家じゃないのか?」

「当たり前じゃーん。こんな変な建物に住む訳ないよ」


 てっきり区長達がここにいるから、ここが家なんだと思い込んでいた。でも冷静になって考えてみれば、やはりオフィスビルに住むなんておかしな話である。それこそそんなことをするのは、泊まり込みで働いている黒い方々くらいのものだ。

 カイジンがやたら偉そうにしていたから流されてしまったが、結局俺の最初の見立てが正しかったと言うとか。


「ほらなカイジン!俺の予想通りここは区長の家じゃなかっただろ?」

「うむうむ、流石は我らが殿じゃ!ここが屋敷でないと見抜くとはお見事ぜよ!」

「何でこいつは負けてもなお偉そう何だよ。ムカつくな……」


 先程勝手に負け扱いしてきたカイジンに向かって、俺は自分のほうが正しかっただろと主張する。しかし奴は一切悔しがる素振りも見せず、むしろ上から目線で褒め称えてきやがった。

 もうこいつと張り合うのはやめよう。勝っても負けても俺は嫌な気持ちしかしない。


「パパはこの奥に居るよー」

「そうか、案内ありがとうなルトリィ」


 そんな風にカイジンと無駄な張り合いをしていると、あっという間に区長のいる部屋へと到着した。俺はやや疲れ目な声音で、案内をしてくれたルトリィに礼を言う。


「パパー、アカリお兄ちゃんが来たよー」

「えっ!ア、アカリ様!?そんな、突然お見えになるだなんて、まだ心の準備が……」

「おやアカリ君、私の街まで遠路遥々よく来てくれたね。歓迎するよ」


 ルトリィがノックもせずそう言いながら扉を開けると、彼女の姉であるカーリスが何やら異様な慌てぶりを披露してくれた。そんな姉とは対照的に、区長は突然俺が訪問したというのに明るく出迎えてくれる。


「魔王様、あの女危険な匂いがします。あまりお近付きにならないように」

「いや、別に危険じゃねーから。一応はお姫様みたいな立場なんだから、変な気は起こすなよ」

「はっ、十分に目を光らせておきます」

「いや、そういう意味じゃないんだが。ダメだこいつ、何も分かってねーな」


 カーリスを見た途端バレリアが耳元でそんなことを言ってきたので、相手はお偉いさんの娘なのだから余計な手出しはしない様に釘を刺しておく。

 こいつの目には、俺に話し掛けた奴は全員敵にでも見えているのだろうか。これだから狂信者は扱いにくくて叶わん。


「すみません、お忙しい中事前連絡もせずに突然来てしまって……」

「なに、気にすることはないさ。恩人であるアカリ君なら、いつだって大歓迎だよ」


 アホなバレリアは放っておいて、俺は区長にそう挨拶する。

 ルトリィの言っていた通り区長は仕事中だったらしく、部屋には俺の会ったことのない面々も複数人見受けられた。区長は優しく受け入れてくれたが、他の人達は不信感や苛立ちを募らせた視線をこちらに向けて来ている。まぁこれは非常識なのは俺の方なので、甘んじて受け入れるしかない。


「それで今日はどうしたのかな?急ぎの様でもなければ歓迎の宴でも用意させて頂きたいと思うのだけど」

「ご招待ありがとうございます。では折角ですので、詳しい話はその時にでも」

「こちらこそ気を遣わせてすまないねアカリ君。ではカーリス、そういうことなら夜までアカリ君達に街を案内してあげなさい」

「はい、任せて下さいお父様!」


 仕事の邪魔をしてまで、己の要件を伝える様な無粋なことは出来ない。この非常識な突撃は区長に会うことだけが目的だったので、それも果たされた今これ以上無茶する必要は無かった。

 区長が後でちゃんとした席を用意してくれると言ってくれたのだから、それだけで今は十分だ。


「それじゃあ失礼します」

「うん、また後でねアカリ君」


 無事に区長とのアポイントを取り付けた俺達一行は、そのままカーリスに促されてその部屋を退室し、ビルを後にするのだった。











 ――











 〜アカリが去った後の会議室にて〜



「区長、あの男は一体何者なのですか?」

「何やら親しげに話しておられましたが、区の重要な取り決めを行っている最中に乱入するとは無礼千万。礼儀知らずにも程がありますぞ」


 アカリが去った後、部屋に残っていた面々は口々にアカリの無礼を批判し出す。彼らからしてみれば、突然現れた若造が区長と親しげに話していたのだから、その生意気な態度に腹を立てるのも当然な話である。


「あはは、確かにいきなり来たのは驚いたけど、あまりきつく言わないでもらえると助かるかな。アカリ君は私や娘が攫われたのを助けてくれた、命の恩人なんだ」

「あの少年が例の襲撃事件を解決したのですか?」

「うん、アカリ君には返しても返しきれない程の恩があるんだ。だからここは私の顔に免じて許してほしい」

「にわかには信じられませぬが、区長がそこまで言うのなら納得しましょう」


 会議室にいた面々は、アカリをただの不審人物としか思っていなかった。だがそこで区長がかつての剣舞会襲撃事件にて、あわや誘拐されそうになった所を救ってくれた張本人であると告げると、その印象も一気に緩和していく。

 そして何よりも、剣舞会の事件がどれ程壮絶なものだったかは全員周知の事実であり、それを解決した強大な力を持つ人物を敵に回したくはないというのが本心であった為、全員それ以上アカリを悪くいうことは無くなった。


「さて、それじゃあ会議を続けようか」

「そうしましょう」

「今は先の未来を検討することが何よりも大切なことですからな」


 全員表には出さなかったが明らかにアカリのことを避けるようになり、そうして会議は再開されるのだった。区長による思考誘導の賜物である。


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