八章 12.学園潜入
俺は再びガーデニア学園へと戻って来た。約半年間過ごして来た学園だが、ここ最近はほとんど来ていなかったこともあってか、なんだか懐かしい感じがする。
虚無の魔人を倒したらまたのんびりとした学園ライフを送りたいものだが、それももう難しいのかもしれない。無断欠席が多いから、退学になる可能性は高いだろう。
「ここにシーラが居るぜよか。ふむ、確かにあやつの気配を感じるぜよな」
「多分職員室にいると思うよ」
「あやつが教師とは、教わる側も不憫ぜよ。はっはっは!」
「確かにあいつの毒舌には生徒の大半が恐れおののいてるらしいから、不憫と言えば不憫だな……」
「なっはっは!それは愉快ぜよ!」
シーラが生徒から恐れられているというエピソードを聞いたカイジンは、上機嫌に笑い出した。内輪だからこそ言えることなのだろうが、本人が聞いたら百倍くらいの勢いで返してきそうだ。
「おい騒がしいぞ!どこの馬鹿だ、授業中に廊下ではしゃいでる奴は!」
「おやセリーダ先生、いい所に。ご無沙汰してます」
カイジンが馬鹿みたいにでかい声で笑っていたせいで、職員室から一人の教師が鬼の様な形相で飛び出してきた。一瞬びっくりしてしまったが、しかしすぐにその人物が担任の先生であることに気づくと、途端に緊張もほぐれてしまう。
「むっ、リーシャン!?なぜお前がここに……、クリサンセマム区に向かったんじゃないのか?」
「勇者一族の件ならもう解決したんで、戻って来たんですよ」
「まだお前が去ってから一週間と少ししか経過していないはずだが、一体何を解決したというのだ……」
そう言えば勇者一族の騒動はセリーダ先生から教えてもらい、それを解決する為に俺は出立したんだったな。となると先生は俺がまだ戦いの渦中にいるものだと思っていたらしく、今俺がここにいることに戦慄しているということか。
実際、あれを解決するのにかかった日数は一日で後は寝てただけだと言ったら、更に驚かれるんだろうな。
「まぁ勇者一族のことはもういいんですよ、それよりシーラ先生は今どこにいます?」
「ああ、彼女なら今は授業中だな。用があるなら後で話を通しておこう」
「なるほど、そうして下さると助かります」
セリーダ先生と話したいことも色々とあるが、のんびり雑談を楽しんでいる暇はない。
だから勇者一族のことは一旦置いておいてシーラの居場所を尋ねたのだが、どうやら彼女は今授業の真っ最中だそうだ。流石にそこに乱入して邪魔するなんて無粋なことは出来ないので、終わるまで待つとするか。
「先程から何様のつもりだ貴様?魔王さ――んんっ!アカリ様に向かってその言葉遣い、無礼にも程がある」
「ん?私はリーシャンの教師だ。教師が生徒よりも上の立場なのは学園の決まりであり、それを部外者にとやかく言われる筋合いは無いな。そもそもお前こそ一体何様だ?部外者なら即刻学園から追い出してやるが――」
「ちょーーーっと待って下さい先生!彼女達には今言い聞かせてきますから!」
のんびりシーラを待とうかと思ったその直後、先程から黙って静観していたバレリアが、突如としてセリーダ先生に噛みつきだした。俺に対しては絶対に崩さない敬語も無関係な相手となれば形無しで、先生を相手に真正面から圧をかけだしたのだ。
しかしそんなプレッシャーにもセリーダ先生は一切臆することなく、堂々と正論を返してくる。
このまま続けると大惨事になりかねないので、俺は先生の言葉を遮る様に無理やり間に入ると、バレリアら三人を連れて一時後ろに引き下がった。
「おいバレリア、ここでは余計な口出しはするなって言っただろうが!俺を魔王と呼ばないことはギリギリ守ってくれたみたいだけど、もうそれどころじゃなくなってるから!」
「も、申し訳ございません。魔王様に対するあの生意気な態度を前にして、反射的に怒りが込み上げて来てしまいました……」
俺は小声で怒鳴るという器用な方法でバレリアを説教した。
学園に入る前に俺は、彼女達三人に二つの禁止事項を設けていたのだ。まず一つ目が俺のことを魔王とは呼ばないこと。そして二つ目が、どんな奴が絡んでこようともお前達は一切余計な口出しをしないこと。
そして今回バレリアは、その禁止事項のうち二つ目の方を見事に破った訳だ。つくづく思うのだが、どうして俺の仲間は俺のことを慕ってくれても、俺の言うことは一切聞かない奴が多いのだろうか。
「はぁ……、とにかく次からは気を付けろよ。相手が何を言っても、お前らは絶対に口出しするな!」
「はい!お任せ下さい魔王様!」
「本当に分かってんのかなこいつ……」
長々と説教をしても仕方ないので、俺はもう一度バレリア達に釘を刺しておいた。返事だけは立派なので、本当に理解しているのか不安になってくる。
ただ、これでもしまた約束を破る様なことがあれば、今度は問答無用で違反した奴を国に還そう。例えどれだけ実力があろうとも、言いつけを守れないような奴は戦場じゃ邪魔になるだけだからな。
元気に返事をしてくるバレリアに一抹の不安を抱えながらも、俺はセリーダ先生の本へと戻っていく。
「いやー、申し訳ございませんセリーダ先生。こいつらは俺の故郷の知り合いでして、学園に興味があるって言ってたので見学でもさせてあげようかと思い、こうして連れて来たんですよ。しかし何分田舎者ゆえ、教師がどういう立場なのかを理解していたなかったのです。たった今教師の立場をきっちりと教え込んでやりましたので、ここは多目に見て頂けませんか?」
「お、おぉそうか、恐ろしい程の早口だな。まるで前々からこう言おうと決めていたかの様だ……。だがまぁ、リーシャンにも何か事情があるのだろう。分かった、今はそういうことにしておいてやる」
「ありがとうございます」
長文を一切の淀みも無くつらつらと言い切った俺に、セリーダ先生は不信感を覚えていたが、それでも一応納得はしてくれた。
言い訳については事前に考えておいたのだが、何分俺は嘘が苦手であるので簡単に見破られてしまったのだろう。でも見破った上で目を瞑ってくれた先生には、きちんと感謝しておかなければ。
「で、お前はシーラ先生に用事があるんだったな。会議室を一室用意してやるから、そこで大人しく待っておけ」
「何から何まで助かります」
「気にするな、私はお前の担任だからな」
セリーダ先生はなんと、待っている間の会議室まで用意してくれた。空気を読んだ上で気まで効くとは、流石は俺の担任だ。セリーダ先生のクラスで本当に良かったと、心からそう思うよ。
「シーラ先生は私が呼んでおいてやるから、来るまで静かにしていろよ」
「了解しました!」
シーラはセリーダ先生が呼んできてくれるらしいので、そうして俺達はしばし会議室で待機することとなった。
――
会議室でのんびり待ちぼうけしていると、扉が小さくノックされた。入室を許可すると、そこから目が覚める程に真っ青な髪を、腰まで流した豊満な体型の女性が優雅に入ってくる。
海の魔人シーラ、彼女との再会は約一週間振りだ。
「お早いお帰りでしたわね貴方様。しかも騒がしい面々まで引連れて、いつの間にお国へ帰られたのですか?」
「つい昨日のことだよ。事情があって今は戦力集めに奮闘してるんだ」
「あらあら、そうすると私を呼んだのもその関係ということでよろしいのですかしら?」
「そういうことだ。お前の力が必要だから着いてきてほしい」
シーラは会議室内を見渡し、本来この世界に居るはずの無い面々を前にしてすぐに事情を察してくれた。物分りの良さならやはり彼女が魔人一だな。
「分かりました、そういうことならわたくしも協力させて頂きますわ」
「助かるよ」
「いえいえ、元々わたくしが学園で過ごしていたのは、貴方様を復活させる手段を探す為でしたので。その目的がもう果たされているとなれば、ここに居る意味はありませんもの」
一緒に来て欲しいという俺の願いを、シーラは快く受け入れてくれた。こうして俺達は無事魔人との合流を果たしたのだ。残るは最後の一人、泥の魔人ドロシーのみである。




