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1.マリナの成長期

 勇者マリスと魔王灯による壮絶な決戦から約四百年の時が流れた現在、代々続く勇者の家系にまた一人の少女が誕生した。

 少女の名はマリナ、後に魔王復活への一翼を担う彼女は、二十一代勇者マージュ・ブレイディア家の長女として生を受けたのだ。


「構えろマリナ!」

「はい!父上!」


 勇者の家系に生まれて五年が経った頃、父マージュ指導の元マリナは代々続く剣術の指南を受けることとなった。

 木剣を握り締め、何千回も同じ型を反復練習する。時には父や兄弟との打ち込み稽古で青アザをいくつも作りつつ、ひたすらに剣を振るうだけの日々が続いたのだ。


「はぁ、はぁ……」

「よし、今日の稽古はここまでだ!」

「は、はい……、ご指導ありがとうございました……」


 剣術の稽古を初めてから五年が経過しても、マリナは毎日終わり際にはへとへとになって地面に倒れ込んでいた。

 父マージュの訓練は各年代に最も適したメニューとなっており、常に体の底まで力を絞り出すよう組まれている。

 故にマリナはどれだけ必死に努力しようとも、毎日訪れるこの疲労感からは逃れられないのだ。

 だがそんな繰り返しの日々の中で、世情を少しずつ学んでいっているマリナは、ある一つの疑問を抱いていた。


「あの父上、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「何だ?」


 その日、鍛錬を終えた夕食時にマリナは意を決した様子でマージュに問いかける。


「この世界には魔動兵器という優秀な武器があるというのに、なぜ我々は旧時代の武器である剣の鍛錬をなさってるのですか?」


 魔動兵器とは、魔力が結晶化した石、通称魔石を動力源とした兵器のことである。

 その形状は金属製の筒に持ち手と引き金が付いた、いわゆる銃に似た兵器だ。ただしそこから放たれるのは鉛玉ではなく、魔力を弾丸の形に凝縮したものになる。

 かつて魔力を剣や盾、矢等に変化させた武器である魔道具から大幅に強化されたのが、魔道兵器だ。

 そんな強大な力を持つ魔動兵器という物がありながら、なぜ剣術などという古い戦術を学んでいるのか、それがマリナの疑問であった。


「ふむ……、確かマリナは今年で十歳になるのだったな」

「はい、そうです」

「そろそろ話すにはいい時期か。よし、ならば食事が終わったら私の部屋に来い。我らブレイディア家がなぜ剣を振るうのか、その真髄を教えてやる」

「は、はい……!」


 何気なく尋ねた質問だったが、父の放つ重い雰囲気にマリナは少しのまれつつ、答えを知れることに気持ちが昂った。


「んぐっ……、よし!」


 少しでも早く答えを知りたいマリナは、いつにも増して素早く食事を終えると、そのまま父の私室へと駆け足で向かった。

 扉の前までやって来ると、少し上がった息を整えた後にノックをし入室する。


「失礼します父上」

「ああ来たか。では先程の話の続きをしよう。まずお前はなぜ剣が魔動兵器に劣っていると思った?」

「それは、剣での攻撃は相手に至近距離まで詰める必要があるのに対し、魔動兵器は長距離からでも相手を簡単に仕留められる力を秘めているからです」


 マージュの問いに、マリナは今一度頭の中で自身の感じた疑問を整理し口にした。

 そしてその答えは真理ではある。


 ただし、こと勇者一族にあたっては正解ではなかった。


「マリナ、確かにお前の言う通り魔動兵器は強力な武器だ。ただし、唯一我々勇者一族に限ってそれは当てはまらない。その答えがこれだ」


 マリナの答えに頷いたマージュは、そのまま片手に握っていた剣先のない柄だけの棒を前に掲げる。

 三十センチ程の持ち手のみの剣に何の意味がるのか。マリナにその意味は分からなかったが、すぐに答えは出る。

マージュが魔力を注いだ瞬間、本来剣先があるであろう場所に青く輝く、細く鋭い刀身が出現したのだ。


「っ!な、何ですかこれは!?」


 マリナは突然目の前に現れた光り輝く剣に、目が釘付けになる。


「これは魔力で剣を形成する、勇者一族にのみ代々伝えられる秘伝の武器、魔剣だ」

「魔剣……!」

「そうだ、この魔剣は魔動兵器以上の攻撃力を持ち、その強靭な刀身は魔動兵器の魔弾をも容易く跳ね返す力がある」


 マージュは抜いた魔剣で軽く素振りをしながらマリナにその性能を説明する。

 魔剣を薙ぐ度に光の軌跡が弧を描き、雷が轟くような、電気が鳴くような音が室内に響いた。


「マリナも十歳なら、我々人間が何と敵対しているのかは知っているな?」

「はい、魔物ですね……」


 魔物とは体が全て魔力で構成された、未だ存在が謎に包まれた生命体のことである。

 この世界も昔は国同士での戦争が耐えないものであったが、二百年前に突如出現したこの魔物という存在にって状況は一変した。


 魔力の塊である魔物は、魔力を体内に多く内包する人間をエサとして狙い、多くの都市を襲撃しだした。

 人類は第三の驚異が現れたことにより強制的に争いを中断されたのだ。

 それ以降二百年間、人類はどこから現れるかもわからない無限に沸いてくる魔物との戦いを繰り広げていくこととなった。


「そうだ、そして魔物との戦闘において熟練した勇者一族は、たった一人で魔動兵器を装備した一軍隊に相当する。だからこそ私はこれまでお前に剣術を叩き込んだという訳だ」

「そう、だったのですか……」


 剣術など意味の無いものだと疑い始めていたマリナは、マージュから伝えられた勇者一族の役割を何度も頭の中で反芻させる。

 剣術に隠されたその真の意味に、心震わせていたのだ。


「この剣はお前にやろう。マリナ、明日からは実際に魔物と戦っていき、経験を積んでもらう。より一層厳し鍛練になるだろうから、覚悟しておけ」

「はい!」


 マリナはマージュから魔剣を受け取ると、眩いほどにキラキラと目を輝かせて何度も刀身を出したり閉まったりして楽しんでいた。

 どんな世界でも新しい物に惹かれてしまう気持ちは変わらない様だ。

 そうして父から魔剣を授かったマリナは、その後魔物との実戦を繰り返して更に剣の腕を磨いていくのだった。











 ――











 そして、マージュより剣を授かってから更に六年の歳月が流れ、マリナは現在十六歳となっていた。

 美しい湖の様に清らかな色の髪をポニーテールに束ね、額に汗を滲ませながら彼女は今日も剣を振るっている。


「せやぁっ!」

「ガルゥ……!」


 真っ黒な体毛を生やした犬型の下位魔物、ガルファングは、魔剣によって胴を真っ二つにされ絶命した。

 その瞬間ガルファングを構成する魔力は空気中に霧散して消え失せ、亡骸のあった場所には小さな黒い結晶、魔石のみが残る。


「ふぅ、これでこの近隣の魔物は全て討伐したわね」


 ガルファングを斬り飛ばした張本人であるマリナは、魔剣と魔力との接続を切るとそのまま腰に着けているホルスターに収め一息着く。


「マリナ様!毎度のことながら魔物を討伐して下さりありがとうございました!」

「いえいえ、また魔物が現れたらいつでも頼って下さいね」


 魔物を討伐したマリナに駆け寄って礼を述べたのは、彼女の家の近隣に位置する村の村長である。

 ここ二年ほど、マリナは父マージュから許可を得て単独で近隣の治安維持に務めていた。

 この村を襲う魔物を討伐するのも、これで既に四度目である。


「いやはや、しかしあんなに小さかったマリナ様もいつの間にか頼もしくなられましたな。嬉しい限りでございます」

「もう、いつの話をしてるんですか。私だって今年から学園に通うんですからね」

「はは、そうでしたな。時が経つのは早いものです」


 魔物が出現してから二百年の時が経つが、未だに魔物の正体も出現する場所も判明してはいない。

 その原因を糾明する為の最先端の知識が結集したものが、「ガーデニア学園」であった。


「ようやくここまで来ました。必ず学園の頂点を取って私も兄さんの様な立派な剣士となってみせます」


 歳はマリナの一つ上でブレイディア家長男の兄は、歴代最高の剣術使いと謳われており、今最も勇者に近い存在であった。

 その名前はマルク。

 妹であるマリナは兄の高みに追いつくべく、学園での生活に野望を抱いているのである。


「待っていて下さい兄さん。成長した私の姿を見せつけてあげますから」


魔王復活まであと四話

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