表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/371

プロローグ 魔王復活の日

「う、んん……」


 ジェンシャン魔獣人国の建国四百周年記念祭が間近に迫るという今日、七色に輝く巨大なクリスタルが砕け散り、その中に封印されていた魔王は数百年振りに外気を浴びた。


「ここは、どこだ……。俺は……」


 しかしまだ意識が覚醒しきっていないのか、魔王は現状を理解するのに幾分かの時間を要していた。

 そんな魔王の復活を見届けた者は二人いる。

 一人は魔王の封印されているクリスタルを安置していた教会の管理者、兎人族のバレリア。

 そしてもう一人、この人物こそが魔王の封印を解いた張本人である、勇者一族の末裔にあたるマリナ・ブレイディアだ。


「お、俺は確か……、勇者と戦っていたはず……」


 少しずつ頭が働きだし、魔王の頭の中に記憶が蘇っていく。

 長い眠りを経ての突然の覚醒で、目覚めだす身体の反動に頭を抑えながらも、己の身に起こったことを一つづつ紐解いていった。


「ああ、そうか、思い出した……。そういや俺は勇者に、マリスに負けて、クリスタルに封じ込められたんだったな……」


 勇者と魔王が戦ったのは、今から四百年も前のことである。

 帝国を支配し世界侵略を宣言した魔王に対し、国を、世界を守る為に王国の勇者は、国境である海の上で決戦した。

 その結果魔王は勇者に破れ、勇者の装備していた剣の力によって七色に輝く巨大なクリスタルの中に封印されたのだ。

 腹部には今も尚、あの時貫かれた勇者の剣が深々と突き刺さっている。


 だがその後勇者がトドメを指す前に、魔王の仲間であるドラゴンによって魔王は自身の世界に逃走した。

 そして今日までの間、長きに渡りクリスタルの中で眠っていたのである。


「ま、魔王様が復活なされた……。この日を、この日をどれだけ待ち望んだことでしょうか……!」


 バレリアは魔王の封印が解けたことに歓喜で身を震わせ、両手を組んで跪く。彼女の眼には涙で雫が溢れ出していた。


「ん?おいおいあんた、誰だか知らないが俺を拝むのは止めてくれ」

「何を言いますか!魔王様を前にして無礼な態度など取れる訳がございません……!」

「えぇ……」


 拝むバレリアとそれを嫌がる魔王。二人の主張は平行線で答えは出そうになかった。


「あのー、そろそろいいですか?」

「え?ああ、どうぞ……」


 終わりの見えなさそうな二人の議論に割って入ったのは、勇者の末裔であるマリナであった。

 彼女の割り込みに、魔王とバレリアもようやく静かになり視線を向ける。


「貴方が私の御先祖様であるマリス様と戦った魔王で間違いないですか?」

「それは……、間違ってはいないけど、御先祖様ってどういうことだ?お前まさかマリスの子どもなのか?」

「いいえ、マリス様は初代勇者でありますが、私はその数世代先の子孫です。マリス様はもうこの世にはおりませんよ」


 魔王と戦った初代勇者の名はマリス。長い歴史の中で何代にも渡り勇者という称号は引き継がれてきたが、彼がその始まりであった。


「な……!獣人族のフリをして、貴様はあの憎き勇者の子孫だったのか!」


 マリナは現在、頭にカチューシャの様な付け耳を付けていた。

 その為バレリアは同族だと勘違いし、みすみす人間である彼女を魔王の前へと通してしまった訳だ。


「少し落ち着きなさい。私は貴方達と敵対する気はありません」


 勇者の末裔だと分かった途端敵意を剥き出しにするバレリアを前に、マリナは冷静に彼女を宥めようとする。


「貴方の言うことなど信じられません!」

「わざわざ敵の親玉を復活させに来る馬鹿がどこに居るのですか。私は勇者の血を引いてはいますが敵では無いですよ」

「ぐ、それは……」


 頭に血を昇らせていたバレリアであったが、マリナの言い分を多少は納得したのか敵意を抑える。

 しかしそんな二人の喧騒も一切無視して、魔王は一人認めたくないある事実に直面していた。


「え……、ちょ、ちょっと待って。俺がマリスと戦ってから何年経ったの?」

「だいたい四百年間ですね」

「はぁ!?四百!?」


 恐る恐る年数を尋ねる魔王に、マリナは淡々と答える。

 流れる様に膨大な年数を伝えられた魔王は、復活して初めて腹の底から声を張り上げて驚愕していた。

 そんな魔王とマリナの問答に敵対関係を感じられなかったバレリアは、毒気を抜かれた様に戦意を喪失する。


「俺、四百年間も水晶の中で寝てたのかよ……」


 封印されている間、意識を失っていた魔王は体感的には少し寝た程度であるので、その間に四百年も経っているということが信じられずにいた。


「魔王様が困っておられる!ど、どうしたらいいのでしょうか……!?」


 魔王の姿にバレリアは体調を崩してしまったのかと勘違いし、顔色を青く染め慌てふためく。

 だが、奇しくも魔王は自分よりも動揺している彼女を前にしたお陰で冷静さを取り戻した。

 彼女の願いは偶然にも叶った形となる。


「で、そんな勇者の子どもが一応敵の親玉である俺の封印を解くとは、何が狙いだ?」

「それは……」


 魔王の当然の疑問に、マリナは一拍置いてから自身の目的を口にする。


「魔王、貴方に私達の世界を救ってほしいんです」

「……は?」


 どんな願いが来るのかと構えていたら、よりにもよって魔王を相手に世界を救ってほしいとマリナは公言する。まさかの答えに今度こそ魔王は、本気で間の抜けた声が出てしまった。

 ともあれこうして、かつて異世界転移して魔獣とともに世界を旅していた魔王、本名竜胆(りんどう) (あかり)は四百年の時を経て蘇ったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ