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五章 13.シンリシンサ 前編

 シンリーから理不尽に何度も頬をぶたれたが、魔人というのは大概理不尽な存在なので、そういうものだと受け入れる他ない。それが魔人達と上手く付き合っていくコツだ。


「酷いよダーリン、私という女がいながら浮気するなんて!」

「ちょ、待ってくれ、俺達いつから付き合ってたんだよ……?」

「そんなの何百年も前からに決まってるでしょ!」

「えぇー、身に覚えが無さ過ぎるんだが……」


 しかし、さすがに今回の理不尽は限界点を超え過ぎていた。何だよ浮気って、そもそも付き合ってすらいないのに好き勝手なこと言いやがって。

 俺は年齢イコール彼女居ない歴の、四百年間独り身野郎だよ。封印されてた期間を除いてたとしてもそういう関係を持ったことは無いってのに、シンリーは一人で何を勝手なことを言ってるんだか。


「私はダーリンが封印されて眠っている間、ずっと復活を夢見てどんな時も想い続けて来たのよ。こんなのもう付き合ってると言っても過言じゃないでしょう?」

「いやそれは過言だよ!全然俺の合意を得てねぇじゃねぇか!」

「ごちゃごちゃとうるさいわね!いいから私の四百年の想いを受け止めなさいよ!」

「いや無理だ、重すぎて受け止め切れないって……」


 何故付き合っているのか記憶に無いのも当然だった。だってそれはシンリーのただの妄想だったのだから。

 いや、四百年間も俺のことを心配してくれてたのは素直に嬉しいよ。でもな、それでも脳内彼氏にまでされてそれを現実にまで反映されるのは、さすがの俺も許容出来ない。

 申し訳ないけど、シンリーの気持ちは受け止めきれない程に重すぎる。


「そんな……四百年という月日は、私から夢と現実の区別すらも奪ったの……?」

「深く考え過ぎだって。でもまぁ、そんなに心配してくれてありがとうな。むしろシンリーには、勝手に封印されたことで嫌われてるかもと思ってたから嬉しいよ」

「私がダーリンを嫌いになるわけないでしょ。世界が滅びたとしても有り得ないわ……」

「ははっ、相変わらずスケールがでけぇな」


 少しずつ落ち着きを取り戻してくれたシンリーに、俺もつい本音が零れてしまう。

 実際四百年前の俺は、魔人達には何の相談もせず勇者マリスと戦い、その果てに封印されてしまったのだ。だからその後の世界統治は全て彼らに任せっきりになっていた。

 そんなことをされれば嫌われてもおかしくないというのに、それでも俺を想い続けてくれたシンリーのことが俺も大好きだ。もちろん家族としてだが。


「……でも、やっぱり仲間に女が多いっていうのは納得出来ないわ。だからこの私が見定めて、相応しくない奴は金輪際ダーリンに近付けないようにしてあげる」

「はぁ?見定めてって、お前何するつもりなんだよ……?」

「そんなの決まってるでしょ、ダーリンの仲間に相応しいかどうかこの私が直々に審査してあげるのよ!」


 落ち着いてはくれたがそれでも納得はしてくれなかった様で、シンリーは妙なことを口走り仲間達の元へずんずんと歩いていく。全く面倒なことになってきたものだ。

 てかあれ?そう言えば俺は他にも大事なことをシンリーに聞かなきゃいけないはずだったんだが、何だったかな?


「まずはそこの勇者一族よ!何であなたはダーリンと一緒にいるの?」

「えぇっと、ぼ、僕は虐められっ子だったのを救ってくれた兄貴に憧れたんだ。だから兄貴の為に強くなりたくて、兄貴の力になりたくて一緒に居るんだよ」

「ふん、周りに助けられてばかりの弱虫がよく言うわね。私に惨敗したのをもう忘れたのかしら?」

「ざ、惨敗なんかしてないよ!ちょっと油断しただけさ……!」


 何か大切なことを忘れているような気がしたので必死に思い出そうとしていたのだが、それよりも二人の会話が俺の意識を引き寄せてくる。

 シンリーの問い詰めにセロルはどうにか抵抗している感じではあるが、それでも追い詰められて冷や汗が流れていた。シンリーのあの立場、まるで嫌われ役の姑みたいだな。


「じゃあ次はあなたよ、あなたはどんな理由でダーリンにくっついてるの?」

「私はアカリ君に、私の不運を一緒に背負ってくれると言って貰えたんです。自分の存在を認めてくれたアカリ君の仲間として、私は一緒にいます」

「ふーん、よく分からないわね。でもそれってただダーリンお荷物になってるだけなんじゃないの?」

「それはそうでしょうけど、アカリ君だって時々私達に凄い厄介を押し付けてくるんですから、お互い様です。仲間というのは、そういうものですよ」


 シンリーを言い分がだんだんと過剰になってきたので注意するべきかと思ったが、ネネティアはそれにきっちり反論してきた。魔人を前にしてなかなか出来ることでは無いし、彼女の芯の強さが伺える。


「……まぁまぁな答えね。じゃあ次はそこの二人よ。見たところ戦闘力は皆無みたいだけど、何でそんな連中がダーリンのそばに居るわけ?」

「わ、私は以前アカリ様に助けて頂いたお礼を伝える為にこの地に来ました。でもまさかこんな戦闘になるとは思わず、ご迷惑をおかけしたのは申し訳ないと思っています……」

「あたしはお兄ちゃんに遊んでもらったのー!だからお兄ちゃんのことが大好きー!」


 ネネティアの回答には多少納得した様で、シンリーが次の標的に決めたのはカーリスとルトリィの姉妹だった。姉は迷惑を掛けたという負い目があるからか申し訳なさが出ており、ルトリィは対極に天真爛漫に答えている。

 カーリスの戦闘になるとは思わなかったという意見に関しては、俺も全く同意だし彼女に非は一切無いんだけどな。


「ふん、申し訳ないと思ってるならとっととダーリンの傍から消えればいいだけのことでしょ」

「それは出来ません。私はアカリ様の婚約者候補ですから!」

「はぁ?ちょっとそれどういうことなのよ!?」

「どうもこうもそういうことですよ。世の中には、どうしても抗えないことが沢山あるんです」


 シンリーに役立たずは帰れと言われたカーリスは、なんとそれに反論してきた。しかも随分と強気な態度でだ。

 もっとしおらしい性格だと思っていたが、言う時はちゃんと言うんだな。ただ、俺は別に婚約者候補もまだ認めてはいないから、そこにはちゃんと自称を付けてほしい。


「へ、へぇー、それはじっくり聞きたいところだけど、今は後に回しておくわ。それよりも問題は……ねぇダーリン、どうしてさっきからこの幼女だけには随分と優しくしてるのよ!」

「急に俺に振ってきたな。別に子供相手に優しくするなんて当然だろうが」

「ダーリンは本当に何も分かってないのね。その小娘は純粋無垢を装って、ダーリンを少しずつ陥落しに行ってるのよ!」

「はっはっは、何を馬鹿なことを。そんなこと有り得るわけないだろうが」


 ルトリィのことに関しては何故か俺に噛み付いてきたのだが、何かと思えばルトリィが俺を陥落しようとしているだと?全く、何を馬鹿なことを言っているんだか。確かにルトリィは優秀ではあるが、こんな幼い子供がそこまでのことを考えているわけないだろうが。


「はぁ、相変わらず人の心はてんで読めないみたいね。まぁそこがダーリンの良い所なんだけど」

「これって俺貶されてると受け取っていいのか?」


 シンリーは何故かやれやれといった様子で肩を竦めてくる。何故こいつに上から目線で人間関係をとやかく言われなければならないのか謎だな。お前だって俺が連れ出さなかったら、永遠に森に篭ってたニートだろうが。


「そ・れ・よ・り・も!同じ外見なんだから、なら私にももっと優しくしてよ!」

「いやそれは無理だ。お前は外見は幼女だけど中身は大人だろ。子供扱いは出来ねぇよ」

「何でよー!ダーリンのバカー!」

「ぼばぁっ!ま、またしても、か……」


 シンリーにルトリィと同じ扱いをするなど到底無理な話ではある。だがそれを断った影響で再び俺はシンリーの怒りを触発してしまった。やはり彼女は危険だ。だから他の魔人達も会いに来るのを拒んだのだろうと、身をもって痛感している最中である。


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