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五章 8.逃走の身代わり

投稿忘れてました〜!

 シンリーの生やすツルを尽く斬り落として距離を詰めたセロルは、そのまま本体にも攻撃を仕掛けていく。

 だが高速剣技が売りのはずの彼の魔剣は、何故かその速さを著しく失っていたのだった。


「見え見えね、そんな遅い剣技じゃ魔物一匹倒せやしないわよ〜」


 シンリー目掛け振るわれたセロルの剣は速度が非常に遅く、下位の魔物ですら簡単に避けられる程に低下していた。そしてそれを成した原因は、当然シンリーの特殊な植物によるものである。

 戦闘能力が格段に落ちているセロルに対し、シンリーは煽るように小笑いしていた。


「な、何で?体が凄く重い……」

「ん?セロル!あなたの体何か付いてるわよ!」

「えっ?あっ、ほ、ほんとだ!何だよこれ!?」


 動きが遅くなった理由が分からず困惑しているとマリナからそんな声が飛んでき、慌てて全身を確認するとそこには無数の奇妙な粒が体に付着していた。

 引き剥がそうとするがそれらは体にベッタリと張り付いており、力づくで取ることは不可能である。そして体中に付着しているその謎の物体が、体を重くし動きを阻害している正体であることをセロルは理解した。


「あははっ!やっと気づいたの?さっきのツルにはその種がいっぱい実っていて、あなたが馬鹿みたいに斬っで自分から体に付けて行っていたのよ。まさに自業自得ね、そんなお馬鹿さんはこのまま寝てなさい!」

「が、はっ……!」


 体が重くなっていることにようやく気づいたセロルを前に、馬鹿にするようにシンリーは高笑いしながら大木槌でカウンターをお見舞する。

 重厚な横薙ぎの一撃を受けたセロルは重い体を宙に浮かせ、鉛のように勢い良く地面に落下した。落ちた衝撃で体内の空気はほとんどが吐き出され、体を強く打ち付けた痛みが全身を貫き力が一切入らなくなる。

 これでセロルも実質戦線から脱落であった。


「これでまた一人消えたわね。残り全員もちゃんと倒してあげるから待ってなさい」

「ふむ、どうやら次の狙いは私達の様だね……」


 動けなくなった者への興味はもう無くなったらしく、シンリーは次の標的へ狙いを定め歩みを進める。その進行方向の先にはプラチウムらを初めとした区長一家とその警護隊が固まっていた。

 すなわち、次の標的はプラチウム達ということになる。


「いいかいラリヤ、こうなったら私を見捨ててでも君らは娘達を連れて逃げるんだ」

「し、しかしそれでは……!」

「この状況じゃ全員で逃げ切れる保証は無い。ならせめて、私の宝だけでも守ってくれ」

「ぐっ、わ、分かりました……」


 自分達が標的にされたことを察したプラチウムは、娘達だけでも連れて逃げる様ラリヤに指示を出す。それにはさすがのラリヤも反論しかけるが、それよりも早くプラチウムの守って欲しいという願いを押し付けられ断れなくなった。

 父親としては立派な判断であるが、敵の縄張りで相手は魔人ともなると、それすらも叶う可能性は非常に低い。そのことは彼も十分理解していた為、恐怖と緊張で小刻みな震えが止まらない状態でも、自らを囮にすることを覚悟したのだ。


「パ、パパはどうするの……?」

「安心したまえ、私もすぐにルトリィの後を追うよ」


 不安げに見上げてくるルトリィにプラチウムは優しく微笑み頭を撫でると、ラリヤに後を任せそっとその場から送り出す。


「カーリス、もしものことがあれば後は任せるよ」

「わ、私も残って戦います!」

「ダメだ!お前まで残ればルトリィが一人になるだろう。あの子を守ってやれるのはカーリスしかいないんだ、任せたよ」

「は、はい、分かりました……」


 長女であるカーリスは自分も残ると進言したが、妹を守るという使命を与えられてはこれ以上詰め寄ることが出来ない。

 父の覚悟を前にして目に涙を溜めながらも、彼女は己の感情を押し殺すとラリヤ達に続いてその場から走り出した。


「誰がそんな馬鹿正直に敵を逃がすもんですか!」

「冗談じゃないわ、そう簡単にやらせはしない……!」


 堂々と敵前逃亡しようとするラリヤ達を前にして、シンリーは怒りながら植物を操り捕らえようとする。

 だがそんなことはさせないとマリナは素早く斬り掛かり、シンリーの注意を己に引き付けラリヤ達への攻撃をどうにか阻止した。


「ちっ、邪魔しないでよ勇者一族!」

「だったらまずは私から倒してみなさい!まぁそう簡単にやられるつもりは無いけど」

「少し使える能力があるからって調子に乗って……すぐにすり潰してやる!」


 何度も妨害され憤るシンリーは標的を完全にマリナに切り替え強襲する。両腕を大木槌させて豪快に振り回して襲い掛かるが、その乱舞を前にしてマリナは華麗に回避しつつ、魔力解放を用いることでそれらを次々と無力化していった。


「ネネティアちゃん、私達はマリナの援護よ!」

「はい!」


 そしてマリナがシンリーとの近接戦を繰り広げる中、狙撃組の生き残りであるセルシーとネネティアが協力して援護射撃を開始する。

 二人の魔道兵器は長距離射撃用のロングラーである為連射性能は低いが、それでも一撃一撃重い弾丸がシンリーを襲った。連射は出来なくとも、足を集中して狙うことによってシンリー自身のバランスを崩し、マリナの戦闘に貢献する。


「魔弾がさっきから邪魔をして鬱陶しいわね!全然踏み込めない!」

「おっと、花なんか咲かせないわよ。これ以上仲間を減らされてたまるもんですか」

「ぐうぅー、ツルも消される。あんたのその能力が一番厄介……!」


 セルシー達の援護を煩わしく思い先に片付ける為再びツルを伸ばそうとしてきたが、それ等はマリナのテンスによって発動するよりも早く跡形もなく消されてしまった。

 魔力を操って戦う者は、漏れなくマリナという存在がが天敵となる。それ程までに、彼女のテンスは反則級の力を持っているのだ。


「私も協力させてもらうよ皆!」


 そしてそんな戦場に、一人逃走せずに残ったプラチウムが参戦する。彼はラリヤらから譲り受けた魔道兵器を構えるとシンリー目掛け射撃を開始するのだった。


「区長も戦えるんですか?」

「ああ、最近はめっきりだがこれでも一応ガーデニア学園出身だからね。多少は戦えるつもりさ」


 プラチウムが戦えることにセルシーは驚いていたが、どうやら彼もガーデニア学園の卒業生だったらしい。学園の卒業生なら漏れなく戦闘技術は高いものである為、その実力も期待はしていいと彼女は判断した。

 少なくとも、わざわざ守る必要が無いというのは大きな利点である。


「でも、使ってる魔道兵器凄い派手で目立ちますね……」

「はっはっは!これは区長の警護隊しか持てない特注品さ。派手さもそうだが威力も独自に強化を施されているから安心していいよ!なんなら後日ネネティア君にも一丁差し上げようか?」

「いえ、結構です……」

「そうか、それは残念だ」


 プラチウムの持っている魔道兵器は警護隊専用の一級品だ。だがその塗装は、威光を知らしめる意味も込めて全てが黄金に塗装されていた為、自然豊かな森の中ではやたらと際立っている。

 まだ若干立ち込める霧の中でも輝いているその魔道兵器をネネティアも勧められたのだが、彼女にそれを握る勇気は無かった。


「人間はあと四人、逃げた奴らも追わないといけないしここであまり時間はかけられない……仕方ないわね、一度霧を解除して全力で叩き潰してあげるわ!」


 マリナのテンスが想像以上に厄介だった為、シンリーはやむ無く森に展開していた霧を一時解除する。そんなことをすれば逃げたラリヤ達を手助けする形にはなるが、それよりもまずはマリナを倒すことを優先させた結果だ。


「霧が晴れた……視界を良くさせて私達を逃がしてくれる気になったってこと?」

「そんな訳ないでしょ、あなた達を倒すからこそ霧を消したのよ!」

「まぁそうよね、あなたそんなに優しい訳ないものっ!」


 霧が消え視界がクリアになったことにマリナは驚くが、それは当然逃がす為のものではなく、むしろ追い詰めるための更なる一手である。シンリーが本気で自分を倒しにかかってくることを直感したマリナは、額に緊張の汗を流しつつ勇気を振り絞って立ち向かった。


 こうして霧の晴れた森の中で、シンリーとの戦闘は終わりへと少しずつ向かっていくのだった。


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