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五章 6.魔人との激闘

 森の魔人シンリーは、微かなアカリの気配を辿って森の中を激走し、ようやく気配の元であるアカリの仲間達を発見した。

 有り得ないと理解しながらも、シンリーは心の奥底では僅かに期待を持っていたのだ。もしかしたら本物のアカリが来ているのでは無いかと。

 だがそんな彼女の儚い希望は呆気なく打ち砕かれた。目の前にいたのはアカリと似ても似つかない有象無象の人間達。そんな連中がアカリの気配だけは漂らせている不愉快な現実を目の前にして、シンリーの怒りは爆発したのだ。


「お前達、この森から生きて帰れるとは思わないことね……」


 怒りが限界に達したシンリーは、魔人化を使用してアカリ達の前に姿を現した。その外見は初めて見た者からすれば大木が歩いている怪物のようにしか見えず、その姿を見て怯えない者はいない。


 魔人化とは、五人の魔人が持つ固有の能力であり、海なら海、泥なら泥、溶岩なら溶岩とそれぞれの個性が膨れ上がり巨大化した姿である。

 外見は化け物と言って相違はなく、保持している力も人型の時と比べると格段に跳ね上がっており、環境への影響力も非常に高い。


「妙ね、さっきから森が変な音を出してるわよ……」


 具体的には、現状魔人化しているシンリーなら周囲の草木の生命力を増幅させ、異様なまでの成長を促すことが可能である。そしてそれらを操ることで攻撃や防御にも応用出来るのだ。

 現在進行形で発生している異常事態に、マリナは額に汗を滲ませ恐怖から微かに体を震わせている。


「こ、怖いけど声は可愛い女の子だね……あっ、もしかしてあれがお兄ちゃんの言ってた魔女なのかな?」

「な、何を呑気なことを言っているのですかルトリィ!今はそれどころじゃ無いでしょう!」

「ご、ごめんなさぃ……」


 異様な姿の怪物には見合わない可愛らしいシンリーの声を聞いて、ルトリィは目の前のそれがアカリの言っていた魔女なんだと気付いた。アカリはただの冗談で言っていたのだが、思わぬ形でルトリィの納得を得てしまう。

 だがそんな呑気な発言をした結果、姉のカーリスに叱られてしまった訳だが。


「ねぇ、もしかしてあの大木がアカリ君の言ってた魔人さんなんじゃない?」

「な、なるほど、それは一理あるな。もしそうなら言葉で説得出来るかもしれない……おいあんた!俺達は全員アカリの知り合いだ。こちらに戦う気は無いから少し落ち着いてくれ!」


 突然現れた異様な怪物に、セルシーは魔人なのでは無いかと予想する。そしてガゼルもその可能性はあると納得し、言葉で宥めようと説得に入った。


「知り合い?」

「ああそうだ!だから俺達が戦う必要は無いと思うんだが違うか?」

「……ふざけないで、お前達の言葉なんて信じられる訳が無い!」

「っ!ぐあぁっ……!」


 必死に説得を試みるガゼルであったが、残念ながら彼の言葉がシンリーに届くことは無く、お返しに強烈な枝のムチを貰うだけであった。

 シンリーは基本的に人間を信用することは無い。だからこの場にアカリが居ない状況での説得など、不可能に近いのだ。


「ガゼル君大丈夫!?」

「あ、ああ、どうにかな……痛っ」


 セロルから心配する声が飛んでくる中、ガゼルは心配無いことを片手を上げて示す。

 彼は咄嗟に魔力操作で防御姿勢を取った為、大きく払い除けられはしたが致命傷は間逃れていた。だがそれでも強烈なむち打ちは、ガゼルの体に痛々しい一筋の赤い跡を遺している。


「どうやら言葉での説得は無理みたいだな。なら勝ってから無理やり納得してもらうだけだ」


 ガゼルは己の体に出来た跡を見ながら森の魔人を説得するのは不可能だと理解し、戦う覚悟を決め魔道兵器を構える。


「どいつもこいつもダーリンの気配を感じて本当に不愉快だけど、特にそこの三人からは一段と強い気配を感じて本当に不快ね。絶対に許さないわ……!」

「僕とネネティアちゃんとガゼル君か」

「一応隊員だからでしょうね。信じてはもらえないでしょうけど」


 シンリーは怒れる声音で一番気配の強いガゼル、セロル、ネネティアの三人を指差す。それはすなわち、アカリと一緒にいた期間が最も長い三人であったのだが、シンリーがそれを信じてくれる訳が無いだろうとネネティアは落胆する。


「まずは不快なお前達から消してやる!」

「させないわよ、後輩ばかりに苦労はかけさせないわ」

「魔剣、勇者一族か……」


 まずはアカリの部隊員から倒しにかかろうとシンリーは動いたが、それを遮る様にマリナは魔剣を振るい枝を斬り捌いていく。

 しかし魔剣持ちの勇者一族は、アカリを封印に追いやった原因の血族である為、その事実がシンリーの怒りをより一層触発することとなる。


「憎い、お前達勇者一族は本当に憎い!ダーリンを蘇らせたその暁には、確実にその存在も滅ぼしてやる!」


 シンリーがこの世で最も嫌う存在である勇者一族。その一人が目の前にいるという事実に彼女の怒りはピークに達し、枝の腕を巨大化させた大木による即席の槌で、すり潰そうと勢い良く振り下ろす。


「随分と物騒な考えね。でも私達も死にたくはないから抵抗はさせてもらうわ……魔力解放!」


 だがその攻撃はマリナに通用することは無く、彼女の左手に触れた途端跡形もなく消し飛んだ。


「ふぅ、やっぱり効いたわね私のテンス……」

「マリナ、あなた随分と無茶な賭けするわね〜。失敗してたら今頃ひき肉になってたわよ」

「嫌な言い方やめてよ!あれが先生と同じ存在なら、魔力解放も通用すると思っただけだから」


 物騒な表現をするセルシーにマリナは憤慨しつつ、テンスを行使した理由を語る。先程の道中、アカリから森の魔人と彼女の担任であるシーラは同じ魔人であると話を聞いていた為、それならシーラに通用する魔力解放は魔人全員に効くのではとマリナは予想し実践したのだ。

 結果予想は見事的中し、シンリーの大木槌を鮮やかに掻き消す形となった。


「私の大木が消された……?ぐぬぅ〜!勇者一族は尽く厄介な存在で本当に鬱陶しいわね!」

「私のテンスが通用するなら、まだまだ戦う余地は残っているわ。皆で頑張って耐え抜きましょう!」


 魔力解放があれば、シンリーの攻撃をほとんどを防ぐことが可能である。だから彼女が前線で守りに徹してくれるのであれば、シンリーともどうにかまともな戦いにはなれるだろう。

 それでもマリナの魔力解放は広範囲をカバー出来る訳では無い為、範囲攻撃の得意な魔人相手はまだ厳しいものではある。


「さぁ、魔道兵器組はとにかく弾を撃ちまくるのよ。相手に攻撃する隙を与えなければどうにかなるわ!」

「はい!」

「了解した……吠えろ紅業火!」

「我々も攻めるぞ!」


 魔道兵器組はセルシー先輩が指揮を取り、一斉射撃を開始する。ラリヤらのプラチウム警護隊が加わることによって、ガゼル達もそれなりの弾幕を張れるようになっていた。

 シンリーはそれらの魔弾を森の枝葉や根を操ることで壁にして防ぐが、膨大な火力に木片が次々と飛び散る。


「いいわよー、これならこのまま押し切れるかも」


 セルシー達は膨大な魔弾によってシンリーの築く防壁を次々と破壊していった。防戦一方となっているシンリーを前にして、セルシーはこのまま続ければ勝利も有り得ると全員を鼓舞し士気を上げていく。


「むうぅ……図に乗らないで人間共!」

「させないよ、僕もいることを忘れないでよね!」

「なあぁー!また勇者一族……!」


 強烈な魔弾の雨に痺れを切らしたシンリーは、森の四方から無数のツルを伸ばし動きを封じに掛かったが、それらは全て魔剣使いであるセロルによって切断されてしまった。

 剣技の速さと高い敏捷性を活かした縦横無尽な動きで、ツルは尽く地に落ちていく。


「ふふん、これならアカリがいなくてもどうにかなりそうね。こうなったら皆で魔人に勝つわよ!」


 全員が協力することで最大限の力を発揮し魔人との均衡を保っていた。その状況に勝機を見出したマリナは、余裕が出てきたのか笑みを浮かべながらそう宣言する。

 こうしてアカリの仲間達と魔人による戦闘は少しずつ激しさを増していく。


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