一章 13.切り札は取っておくもの
小船の上でマリナと話し込んでいたら、いつの間にか俺達は陸地へと辿り着いていた。
あの港が昔のどの辺に位置しているのかは分からないが、やはり四百年前とは外観がかけ離れているのが遠目で見てもよく分かる。
「着いたわよアカリ、あそこがガーデニア連合ボウルサム区の港町「リースリ」ね」
「ボウルサム区か……なるほど、一応帝国の名残は残ってるんだな」
「え?何か言った?」
「いや、何でもねーよ」
俺は知っている単語が出てきたことに、思わず安堵から独り言を呟く。
ボウルサムとは、かつての帝国の名だ。国は滅んだとはいえ、その名まで完全に失うということは無かったらしい。
「それより、クウをこのまま出しとくのはさすがに不味いよな。クウ、モンスターボックスに――」
「ああ、それなら平気よ。頭でも肩でも乗せて堂々と歩きなさい」
この世界にはもう魔獣は数える程の種類しか残っておらず、存在も認知されていない。だからクウをそのまま連れ歩いていたら、魔物と間違われる可能性はある。
そうならない為に俺はクウをモンスターボックスに戻そうとしたのだが、マリナはその必要は無いと言い出した。
「おい、どういうことだよ?」
「話してもいいけど、もう到着するんだ自分の目で見た方が早いわね。さぁ、行きましょう!」
「大丈夫なのか……?」
マリナの言葉に一抹の不安を覚えつつも、取り敢えずは指示通りに肩にクウを乗せて下船する。
「クウ、何かあったら速攻で逃げるぞ」
「クウ!」
クウを危険な目に合わせる訳にはいかないので、そう宣言してからマリナの後に続き港町を歩き始める。
そして町を散策し始めて数分、俺はマリナがなぜ平気と言ったのかその真意を理解した。
「どうなってんだこれ?魔獣に似た変な生物が町中を歩いてるぞ?」
町の至る所で俺が目撃したのは、明らかに通常の動物ではない生物の存在だった。
形、色、大きさ、様々な種類の生物がこの町を闊歩している。
そしてそれら全てが、人間の指示に従い完全に支配下に置かれていた。まるでそうすることを本人達が望んでいるかのように。
「ふふっ、驚いた?あれは魔石を動力にした最新の魔道具、その名も「マジカロイド」よ!」
「マジカロイド……、そんな物まで発明したのかよ……」
魔道具だと説明されても、あの生物のように動く外見を見ては全く信じられない。
それほどまでにマジカロイドという魔道具は、精巧に作られていたのだ。
「ほら、あれが運搬用のマジカロイドで、あっちの飛んでるやつが郵便用ね。他にも土木工事用とか色々いるのよ」
「ああ、そりゃ見たら分かるよ。どんだけマジカロイド作ってんだ……」
マリナが紹介してきたのは背が平べったい四足獣の運搬用と、ペリカンの様な見た目をして、口の中に手紙を入れて運んでいる郵便用のマジカロイドだ。
他にも少し周囲を見渡しただけでまだまだ色々なマジカロイドが目に止まる。
確かにこれだけ変な生物もどきが跋扈していたら、クウを連れていても心配いらないな。
向こうが勝手にクウをマジカロイドと勘違いしてくれるってことか。
「さて、それじゃ今後の方針だけどアカリは何かしたいことある?」
「そうだな、やっぱもう少しこの世界の事情を知っておきたい。じゃないと救うに救いきれなさそうだからな」
「ふふん、そう言うと思ってその辺はもう考えてあるわよ」
マリナの問に俺がそう答えると、彼女は何やら悪巧みをする様なあくどい顔をする。
あまりいい予感はしないな。
「安心して、この世界の生活に溶け込みつつ事情を学べるその条件にぴったり合う場所が、たった一つだけあるわ!」
「それは?」
「ガーデニア学園よ!」
どんな答えが返ってくるのかと身構えていたが、まさか学園とは。
そう言えば四百年前も魔法学園とかいうのがあった気がするが、色々あって結局行けてはいなかったな。
「今更学校か……」
「なによ、不満でもあるの?」
「いーや、条件としちゃ完璧だし問題無いよ」
不満は無い。だが、眠っていたとはいえ四百年も経った自分が通うというのはちょっと、いやかなり抵抗がある。
まぁそれでも、少しは楽しみな気持ちはあるけど。俺は元いた世界では高校二年生になりたてだったから少し懐かしい気もするし。
「ならこれで決まりね!ちょうどもうすぐ入学試験もあるし」
「試験?おいおい、学問系なら四百年前の記憶しかない俺は圧倒的に不利だろ!」
「確かにそれもあるけど、うちの学園は実力第一だからアカリなら大丈夫よ」
「ほんとかー?てかマリナも通ってんのかよ」
学科試験のみなら俺は詰んでいたところだが、どうやら実技試験もあるようだ。
知識に関しては異世界人でしかも四百年前と絶望的なので、実技の方できっちり合格を狙っていきたい。
「クウー!(また戦うの?クウ頑張るよ!)」
「おっ、クウも気合十分だな。俺達の実力なら試験なんか楽勝だぜ!」
クウもやる気満々といった様子で鼻息を荒くしている。
まったく、クウは何をやっても可愛いな。
「あっ、一応言っておくけど試験ではマジカロイドの持参は禁止よ」
「え?」
「だから、マジカロイドのフリをしてるクウも参加は出来ないのよ」
「えぇー!?」
「クウー!?」
クウと共に試験に向けて気合を入れた矢先、マリナに衝撃の事実を突きつけられた。
なぜだ。なぜなんだ!
せっかくクウがこんなにやる気を出してるってのに、何でそれを折るようなことするんだ!
「おいマリナ!どうにかなんないのかよ!」
「無理に決まってるでしょ。それにクウが居なくたってアカリは十分に強いんだからいいじゃない」
「そういう問題じゃねーよ!ほら見ろ、クウが落ち込んじまったじゃねーか!」
「クウ……(え、アカリと一緒に戦えないの……)」
さっきまでの元気はどこへやら、クウは今にも枯れそうなほどげんなりとしてしまった。
これも全て持込み禁止だとか言ってる試験が悪いんだ。
なら、どうにか許可を貰えるよう力づくでも――
「はぁ……ほんとに馬鹿ね。いい?クウの力は確かに強大だけど、それ故にその力を使うと変に悪目立ちして後々きっと面倒なことになるのよ。それでもいいの?」
「くっ、そ、それは……でも」
マリナの意見は最もだ。確かにクウの力は凄すぎるが故に変に目立ってしまうだろう。
だが、それでも俺はクウに元気を出して欲しいんだ……!
「それに、クウの力は切り札としていざという時まで取っておいた方がかっこいいと思うけどな〜」
「ん?切り札、だと?それはまぁ……確かにそうかも」
「クウもアカリが困った時に颯爽と現れて鮮やかに解決した方が、本当の相棒って感じがするわよ」
「クウー……(本当の相棒かー……)」
クウとは一緒に戦えないと言われ思わず熱くなってしまったが、冷静に考えてみればその方が世間的にもいいし格好がつくな。
いや、かなりいい考えなんじゃないか?
「クウー!(クウはアカリの相棒だからアカリが困ってる時に助ける!)」
「そ、そうか、クウもそっちのがいいのか……。よし分かった!ここはマリナの口車に乗っかってやろうじゃねーか!一応言っとくが、別にカッコ良さとかに引かれたわけじゃないからな!決して!」
「はいはい、じゃあそれで頼むわね……」
クウがどうしてもという顔をしてきたので、俺は仕方なくマリナの提案に乗ることにした。
決して、決してカッコ良さを求めた結果じゃないことだけはここではっきりさせておく。
「はぁ……単純で助かるけど、本当にこのバカに世界を託して良かったのかな……」
「ん?何か言ったか?」
「別にー、何でもないわよ」
「そうか?まぁいいや。それじゃクウ、これからいざという時は頼んだぜ相棒!」
「クアッ!(うん!任せてアカリ!)」
マリナはまだ何かボソボソと言っていたが、そんなことは無視してクウと新たにそう約束を交わした。
これからクウは、俺が何かあった時に助けてもらう真の相棒だ!




