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34:冒険者ライセンスいただけますか?

「……なるほどな…。それで私の宝珠を全部配下の魔物に食わせた、と…」


 ガウェインはリアンの話を聞き終えると、苦々しい顔でそのまま頭を抱え項垂れた。リアンの取った、予想外ながらあまりに馬鹿馬鹿しい手段に、呆れて言葉を失ったのだ。ちなみにエルドアは隣で腹を抱えて笑い転げている。


「最高だわリアンちゃん、特に宝珠が出るのを待ってるところが! あははっ…ふっ…ふっははは…!」

「最悪だ…普通そんなこと考えつくか? 呆れて物も言えん…!」

「は、はぁ…」


 おおよそ事の顛末を話し終えたリアンは、二人の反応に首をすくめた。

 リアンとて自分のやった方法が、決して褒められたものではないということはわかってはいたのだ。だが結果としてこうなってしまったのだから仕方ない。困り顔でため息をつくと、まだ温かさの残る茶に口をつけた。

 件の鍵となった元ウルフェン…、フェンリルはリアンの後ろでおとなしく座っている。座っているとは言え、もはやその姿はリアンよりもだいぶ大きい。リアンが振り返って見上げると、こめかみに鼻先をちょんとつけられた。


『リアン、困ッテル?』

「え? ううん、そんなことないよ。大丈夫」

『ソウ』


 そんなフェンリルの様子を、ガウェインは少し複雑そうに見つめた。


「それが私の宝珠の力を吸った魔物か。またとんでもなく強くなったものだな。…しかも念話まで会得したか」

「念話…?」

「お前達、思念を介して言葉を交わしただろう。それを念話という。魔法の一種だ」

「念話。…そういえば魔物って、言葉を話す知能があるんですか? 私はてっきりそういうものはないと思っていて、だから…」


 だから今までは平気で魔物を殺せていたのだ、と良いかけて口を噤んだ。

 フェンリルの前でそう言うのは、流石に気が引けたからだ。だが彼等とは思念が通じている。きっとわかってしまったに違いない。

 ガウェインはそんなリアンの様子に言い噤んだ言葉まで察したようで、「気にする必要はない」と淡々と言った。


「そもそも魔物に高度な知能はないし、言葉を発することも本能以外の感情も持ち合わせてはいない。それは間違いない」

「でもこの子達は言葉を…」

「それは召喚師に従ったからだろう。お前の従僕になったからこそ人に感化され、魔物であっても言葉や感情を覚えたのだ」

「そう…いうもの、なんですか?」

「召喚師は低ランクのクラスの割に選ぶ者が少ない。故に過去の記録も少ないのだが、召喚師の従僕となった魔物が暴走したことも危害を加えたという事例もない。…これは予想だが、お前風に言うならば召喚師の従僕になった時点で、“魔物としての仕様が主好みに変更される”のだろう」

「なるほど…」

「だから一般の魔物とお前の従僕になった者達をひとくくりにすることはない。恐らく彼等自身の方がそれを理解しているかもしれんが…」


 ガウェインはそう言うとリアンの背後に控えるフェンリルを見やった。つられてリアンも見上げると、そのアイスブルーの瞳に宿るのはキラキラと好奇心に満ちた無邪気な光。確かにガウェインの言う通り、彼等は人や物を破壊するだけの魔物とは一線を画している。

 リアンは安堵すると、再び押し付けられた鼻面をそっと手のひらで撫でた。

 いつだって彼等は自分の事を率先して助けてくれた。もしも自分がSランク冒険者になることが出来れば、彼等を見る街の人間の目も変わるだろうか。


「――さて、リアン」

「はい」


 ティーカップを机に置き姿勢を直したガウェインに、リアンもまた背を伸ばした。

 いよいよ最後の試験が始まるのだ。


「話は済んだ。あとは、ここへ来られたのが単なる幸運ゆえではないと、証明して見せてもらおう」

「わかりました」


 リアンはガウェインの言葉に頷くと、覚悟と共に席を立った。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 魔物との戦いは、図書館のような迷宮主の間のさらに奥。ガウェインが予備として作ったおいた空間で行われるらしい。観戦する気満々のエルドアと共に移動すると、そこはドーム状の天井が頭上を飾る広間になっていた。なるほど、ここならガウェインの所有する大切な書物の数々を傷つける心配もない。

 リアンは壁際で止まるガウェイン、エルドアを尻目に広間の中央へと足を進めた。

 軽い緊張感を覚えるが、いつか宿で魔物の群れと対峙した時ほどではない。あの時と比べると自分のレベルもだいぶ上がったし、何より自分には付き従ってくれる仲間がいる。

 リアンは深く深呼吸すると、魔素の流れに意識を集中させた。


「それでは、いくぞ…!」


 ガウェインの声を皮切りに、空間に濃い闇色の魔素が顕現する。

 それは渦を描いて対流した後、二首の巨大な竜のような姿をした魔物へと変貌を遂げた。


 リアンが予想していたとおり、その魔物は今まで見たどれよりも強大な力を秘めていた。ぎざぎざに尖った歯から漏れ出る低い唸り声。ぎょろりとした2対の金色の瞳は、黒い鱗の中不気味な光を放っている。フェンリル達の3倍はあるだろうか。羽は生えているものの飛ぶためではないようで、威嚇するかのように細かく震わせていた。


「みんな!」

『任セテ』


 リアンの影からはフェンリル、ブラッディハティ、マルナガルムの3体が飛び出し、彼女を守るように魔物との間に割って入る。

 リアンが素早く支援魔法をかけると、その間にフィルギアが味方に防御魔法を展開した。金色に輝くこの聖属性の鳥はスリングバットの時は活躍の場がなかったものの、ここへ来てなかなかの器用さを見せている。防御魔法や回復魔法など、リアンが使う魔法を見様見真似で覚えるのだ。属性やレベルにより使えないものもあるようだが、支援をある程度任せられるのはありがたかった。


 今回は攻撃役に狼型の3体。そして防御に熊型のヘイズホーン。サポートとしてフィルギアを当てている。リアンは盾となり立ちはだかるヘイズホーンに寄り添うと、遮断魔法で自身も守りつつ戦いの行方を見つめた。


 フェンリル達はまず己の爪と牙で攻撃を仕掛ける。が、肉体強化を施してもなお黒い鱗に傷を付けることが出来ないと悟ると、今度は魔法攻撃へと切り替えた。天井に銀と漆黒、そこに金色の魔法陣が重なり合うなり、天から一直線に巨大な雷が閃光と共に黒い巨体を貫く。これには流石の竜も堪えたようで、金色の瞳に怒りを滾らせると、2つの口から黒い炎を一気に辺りへと吐き出した。

 その床をも溶かすほどの高温のブレスに、素早くリアンとフィルギアが防御魔法を重ねることで対応するが、それでもなお防ぎ切ることが出来ない。


「あっつぅ…!」


 熱風と黒煙に思わずリアンが呻く。

 だが漆黒の竜の反撃はそこまでだった。


「グァアアアア――――!!!!」


 つんざくような鳴き声と共に、片方の竜の口から血が吹き出る。

 見ればリアンの身の丈ほどもある金色の槍が、恐竜の口から長い喉奥深くを真っ直ぐに貫いていた。どうやらブレスの吐き終わりのタイミングで、マルナガルムが魔法で生成された槍を打ち込んだらしい。

 なおも巨大な魔物の身体が暴れようとすれば、今度はフェンリルの銀色に輝く鎖がもう片方の頭を絡め取り、そしてブラッディハティが天から幾本もの漆黒の雷を放ちとどめを刺す。

 リアンはその眩しさと衝撃に耐えきれず、束の間目を閉じ、そして再び目を開いた時、そのあまりに凄惨な光景に言葉を失った。


「……すご…い」


 衝撃が去った後には、赤々と焼け爛れた地面に消し炭へと姿を変えた巨大な骸が残っているだけだった。だがその骸もやがて魔素の煌めきに変え宙に溶けていく。

 リアンは呆然としたままの瞳でガウェインとエルドアの方を見た。

 2人にとってもこの結果は予想外だったようで、リアンほどではないにせよその顔には驚きが見て取れる。


「…まさかここまでとはな」

「これなら、普通にSランクでいいんじゃない?」

「私の宝珠を食ってなければ、せいぜいAと言ったところだっただろうがな」

「ふふ」


 どうやら、リアンは兎も角魔物達の活躍でなんとか認めてもらえたらしい。

 リアンはほっと一息つくと、元ウルフェン達を呼び寄せた。


『スゴイ? 僕タチスゴイ?』

『倒シタヨ、ラクショ〜』

『アットイウ間ダッタナ』

「うん、すごかったよ。みんなありがとう」


 今しがた凄まじい高火力を知らしめた3頭の様子は呑気なものである。

 戻ってくるなりリアンに頬ずりしてくる彼等を、他の魔物と共に自らの影の中へとしまった。


「…というかリアン、お前一体何匹魔物を飼っているんだ?ウルフェン種はフェンリルだけじゃなかったのか」

「あー、…今は全部で20匹ちょっとですかね。魅了スキルのせいかどんどん仲間になってくれる子が増えていっちゃうんです。これでも統合して減らしたので、少なくなった方なんですけど…」

「なるほど、魅了持ちか。フェンリル一体なら私の召喚した魔物といい勝負になると思ったんだが、あれだけいると流石にキツイな」

「――まさか、再戦しようとか言い出しませんよね…」


 じとっとした目をしたリアンに、珍しくガウェインはからかうような笑みを浮かべて首をかしげた。


「お前がやりたいというなら、やぶさかではないが?」

「いえっ、謹んでお断りします!」

「ははっ」


 心底嫌そうなリアンに笑うと、ガウェインは虚空から宝珠を2つ取り出した。

 これが、これこそがこの迷宮最後の宝珠。Sランク冒険者になるための最後の鍵だろう。

 ガウェインは宝珠をエルドアとリアンの2人に手渡すと、再び感情の薄い試験管としての顔に戻った。


「今日は良き日だ。古き友人に会うことが出来たし、何よりSランク冒険者が2人も生まれた。まぁSランクを取ったら取ったで今後面倒なことも増えると思うが、お前達なら大丈夫だろう。…幸運を祈る」

「ええ、この街に来る時は必ず貴方を訪ねるわ」

「出来ればその時は本を手土産に頼むよ」

「忘れていなければ、ね」


 ガウェインがぱちんと指を鳴らすと、足元に転送用の魔法陣が生成される。

 冒険者ライセンスの試験が終わったのだ…と、この時リアンはようやく実感した。


「あのっ」


 リアンはガウェインに声をかけると、ぺこりと頭を下げた。


「宝珠ありがとうございました。…それと、ズルしちゃってごめんなさい!」

「俺が認めたんだ、気にする必要はない。…お前は人間にしてはなかなか面白い。向こうの世界の話も知りたいし、もし時間が出来た時はまたここに来い」

「はい、是非!」


 ガウェインの能面のような顔に、再び微かな笑みが浮かぶ。

 魔素の光が強まりやがて見えなくなるまで、リアンは暗灰色の瞳を見つめ続けた。

 そして彼の判断が間違いではなかったと言われるよう、強くなろうと胸の内に決意したのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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