二十五話 平社員のドラゴン退治その4
不老不死となった俺の肉体は即座に両腕を再生させた。
杖を握りしめ大地を駆ける。
「ファイヤーブレイク!」
炎の魔法を連発する。
少しでも奴の意識をこっちに向けさせないと。
見ればルルフェはハンマーを持って立ち上がっており、もっちゃんも少々焼け焦げてはいるが大きな怪我などもなく立ち上がっていた。
「もっちゃん、やるで!」
「がうっ!」
白き狼に乗った幼女が目にも留まらぬ速さで走り抜ける。
エグジオスが前足で押しつぶそうとするも、瞬時に回避して見せた。
もっちゃんが跳躍する。
「魔王の一撃じゃ」
さらに跳躍したルルフェがハンマーを高々に振り上げ、エグジオスの頭部に叩きつけた。
轟音が響き渡りドラゴンは衝撃に耐えきれず顔を地面にめり込ませた。
すかさずもっちゃんがエグジオスの尻尾に噛みつき、とんでもない力で巨体を振り上げて地面に振り落とす。
大地が震え亀裂が入った。
さすがにエグジオスもキツかったのかふらついて立ち上がれない。
今が絶好のチャンス!
俺は背負っていた木箱を下ろして片手で抱える。
そんでもってドラゴンの口の中へと一気に投げ込んだ。
ボ、ブンッ!
広瀬さんが起爆スイッチを押したと同時に、エグジオスの腹が破裂しそうなほど膨らむ。
爆発に目を見開いた巨竜は起き上がって爆炎を天へと吐き出した。
開いたままの口から黒煙が立ち昇り肉の焼ける臭いが辺りに充満する。
「やったか……?」
ギロリ。エグジオスは眼を動かし俺に焦点をあてた。
死んでいない。奴はまだ生きている。
ビビ。ビビ。
トランシーバーが鳴るので取り出して耳に当てた。
『どう? 死んだ?』
「ばっちり生きてますよ! めちゃくちゃ俺を睨んでます!」
『う~ん、火薬が足りなかったのかしら』
「てことはやっぱ撤退ですよね」
『そうなんだけど、アレって飛ぶでしょ? このまま逃げると町や本部が危険にさらされる可能性が高くなるじゃない?』
広瀬さん、何が言いたいんですか?
なんとなく言葉の先を予想はしつつあえて考えないようにしていた。
『援軍を連れてくるからその間、則孝君の方で時間を稼いでいてくれないかな?』
「マジですか」
『大マジよ』
アレを相手に何時間も逃げまくれと?
無茶だ。絶対に死ぬ。
やっぱブラック企業の上司はブラックなんだな。
しかしながら断れることもできず渋々了承することに。
『そう落ち込まないで。もし生きて帰れたら一緒にデートに行きましょ』
「がんばりますっ!」
うぉおおおおおおおおおっ! やったぜ、土壇場でデート権ゲットだ!
やれる! 俺はまだまだやれるぞ! あと三年は戦える!
「ぐぉおおおおおおおっ!」
エグジオスが動き出し、未だ黒煙を漂わせる口を大きく開いた。
怒り心頭ってところか。
「ユルサン、ヒューマン」
「しゃべった!?」
「ワレコソハ、ヨンマリュウノ、ヒトバシラナルゾ。ワイショウナルモノニ、キズツケラレルトハ、サイダイノクツジョク」
奴は後ろ足だけで立ち上がり、二つの前足を鈍重に大地に突いた。
それだけで地面がぐらぐら揺れて亀裂が走る。
「言葉は話せても相互理解はできそうもない感じか。だったらやるしかない」
再び走り出し、次の魔法をセットする。
一度で駄目なら二度、三度口の中にぶっ放せばいいだけだ。
エグジオスも俺を追いかけて猛然と走り出した。
「もう一発じゃ!」
「がうっ!」
ズガッ。真横からハンマーを叩きつける。
視界を揺らされたエグジオスはなんとか踏みとどまり、身体を真横に回転させてルルフェに尻尾を叩きつけた。
ルルフェともっちゃんは定規で引いたかのようにまっすぐ岩に激突した。
ルルフェはともかくもっちゃんは心配だ。
無事だといいが。つーか、今は他人の心配をしている暇はない。
「ニガサン、コロシテヤル!」
ドスンドスン、真後ろから巨竜が俺を追っている。
その迫力はちびりそうなほどだ。
……いや、少しだけだが漏れている。
早く、早くなんとかしないと!
ライトニングスパークをレベル10に引き上げ、そこから第五法位に引き上げた。
これならひるませることくらいはできるだろう。
「第五法位、サンダーボルト!」
杖から稲妻が走る。
空気を焼く破裂音と視力を麻痺させるような眩い閃光。
エグジオスに直撃するも、その突進は止められない。
「これでも効き目なしかよ!」
あり得ないだろ。どんだけ化け物なんだ。
しかもまだ広瀬さんがこの場を離れて十分しか経っていない。
この状態を何時間も続けろって自殺行為だ。
「グハハハハ、バカメ! ソノテイドノマホウデ、ワガニクタイハ、キズツケルコトハデキヌ! セメテ、ダイナナホウイ、クライハモッテコイ!」
ダイナナホウイ? なんだそれ?
――ああ、第七法位か!!
でも魔法は第五法位が最上位じゃないのか?
実際、倍々の魔法強化は第五法位で止まってしまう。
それとも……もっと魔力を注ぎ込めば?
俺は逃げつつサンダーボルトに魔力を注ぎ込み始めた。
六倍……七倍……八倍……九倍……来た!
十倍で第六法位レインボルトが行使可能となる。
だが俺はそこからさらに魔力を注入する。
二十倍――第七法位・ストレイトプラズマ。
三十倍――第八法位・黒魔雷
四十倍――第九法位・天雷槍
五十倍――第十法位……。
「ナンダ、コノイジョウナマデノ、マリョクノウネリハ!」
立ち止まった俺は第十法位魔法の発動に備える。
周囲の石は浮き上がりびりびりと大地と大気が揺れていた。
杖はぴしぴしと小さな亀裂が入り、微細に振動している。
この魔法に耐えきれるか若干不安を抱いた。
「第十法位、死雷」
エグジオスは足を止めて周囲に警戒する。
奴の周囲に黒い球体がいくつも出現。
球体からはパリパリと黒い電気が走り異様さが際立っていた。
次第に球体同士で同調するように稲妻が発生する。
「グハハハ、タダノコケオドシダッタカ! コノヨウナ――」
黒い雷撃がエグジオスに当たる。
直後、奴はその雄々しき巨体からは想像もできないような悲鳴をあげた。
たとえるならガラスを爪で引っ掻いたような戦慄する声。
雷撃は次第に激しさを増し、エグジオスは身をくねらせて苦しみ続ける。
そして、魔法が消えた。
残ったのは全身から白い煙を昇らせるエグジオス。
だが、その目は白く濁り口からはだらりと舌が垂れ下がっていた。
ど、すんっ。
力なく倒れる。
あれほど恐ろしかったドラゴンが作り物のように存在感を失っている。
「倒したみたいやな」
「がうっ」
土に汚れたルルフェともっちゃんがそこにはいた。
どちらも怪我はないようで、平然としてドラゴンを眺めている。
俺よりも数倍タフな幼女と狼に呆れてしまう。
「ん」
ルルフェが不意に手を差し出してきた。
俺は首をかしげる。
「なんだその手は?」
「倒したら山ほどのカロリー〇イト」
「約束してねぇから!」
つーか倒したの俺だし。
とうとう架空の約束まで持ち出してきたか。
あー、しんど。
大の字で地面に倒れた。
絶対に日本に帰ってビールを腹一杯飲んでやる。
そんなことを思いつつトランシーバーで広瀬さんに討伐完了の報告を入れた。




